第二十七話「機微」
バレルは医務室へいき、怪我の治療を行っていた。傷口に包帯を巻きながら、しばらく考えていた。
何故、“ゆきはバレットを助けた”のか?
いや、違う。
正しくは、“ゆきが何故、バレットを助けた”のか?である。
バレルが気にいらないのは、それを不快に思っている自分に憤っているのだ。
バレットと、敵と懇意にしている事が気に入らないらしい。少なくともバレルはそう認識していた。その心の機微の理由がわからない。
★★★★★★★
「うっ……ここは?」
ゆきは目が覚めた。そこは南西のアジトの廊下ではない。ベッド、ベッドの上である。
「起きたか。」
「へ?デリンジャー様?うっいっ……」
「まだ休んでいろ。」
「あ、はい。すみません。」
廊下でぶつかった相手はデリンジャーだった。デリンジャーはバレットを取り逃がしてしまった。そして気まぐれでゆきを介抱している。そしていつの間にか本部へ帰っていた。
「今回の襲撃、なんとかアジトの破壊だけは免れた。で?」
「へ?」
「次だ。次は何が起こる?」
コンコンコン。
ゆきが答えにドアの方から戸惑っているとノックが聞こえた。
「バレルです。」
「なんだ?入れ。」
バレルは静かに部屋へと入ってきた。ゆきに気にも止めないように報告をした。
「バレットおよびその仲間は逃走しました。俺は……」
「それにしても、お前が傷をおうなんて珍しい事もあるんだな。」
「……いえ。」
バレルは気まずそうに眼を背けた。
「まあいい。それより、次の話をしろ。」
デリンジャーは再びゆきへと視線を戻す。バレットに逃げられた事が気にくわないらしい。
「えと、その、……」
「なんだ?」
「わかりません。」
正直元のストーリーと変わり過ぎている。次の手が見えないのだ。
「そうか……」
デリンジャーは静かに銃口をゆきへ向けた。
「ならもういい。」
バレットに逃げられた事で苛立っていたデリンジャーは気まぐれでゆきを介抱し、気まぐれで殺すのだ。
「おい、バレル。お前、正気か?」
「……」
「!!」
ゆきは眼を疑った。バレルの銃口はデリンジャーを向いている。
「情でも沸いたか?」
「違う。その女はまだ使えます。無意味な殺しはやめてください。デリンジャーさん。」
「……俺に勝てると思っているのか?」
デリンジャーの鋭い眼光が光る。
「いえ。全く。」
デリンジャーはゆきから銃口を反らした。
「いいかバレル。今回だけは見逃してやる。次はないと思えよ。クククッ」
「はい。」
そうして、ゆきを連れてバレルは部屋を出た。
「バレル君、ごめっ…」
バンッ
バレルはゆきがいる壁に右手をついた。
「あ、あの…」
怒っている。そうとすぐに思う程にバレルの眼は血走っていた。
「何故バレットを逃がした?」
「え?だって、武器もないのに抵抗しようが…」
「バレットと知り合いなのか?」
「うーん、顔見知り程度だけど?そ、それにバレル君だって、キャノン君の事逃がして……」
「うるさい!もういい!」
そういってバレルは自室へと戻って行った。バレル自体も何故自分が苛立っているのか理解がてきないでいた。ゆきはただ廊下に佇むしかなかった。




