第二十五話「窮地」
ゆきは謎の人物に捕まり、身動き出来ずにいた。「トリガーバレット」のデリンジャーファンのゆきは当然その人物が誰かを知っている。撃たれかるかも知れないが恐る恐るその名を呼んで確認してみた。
「……キャノン、君?」
「……君、どうして僕の名前を?」
キャノンは不思議そうに聞き返しながらも銃を下ろすつもりは微塵もない。
ゆきは咄嗟に機転を効かせた。
「私、実はバレットの知り合いなの!」
まあ、嘘ではない。一度面識はある。顔見知りと言った所だろう。
「ふーん?そんな話し僕、知らないけど?」
「あれぇ?おっかしいなぁ。南西のアジト攻略の為に落ち合う予定だったんだけど……」
「……」
ど、どうだ!!し、信じて貰えるかな?!ちょっと無理かな?!
どぎまぎするゆきを背に、キャノンはゆっくりとゆきから離れた。だが、銃口はゆきに向いたままである。
「わかった、一緒にバレットの所へ行こう。そうすればわかる。」
「うん!ありがとう!」
キャノンは静かに銃口を下に向けた。
「バレットは物資補給中?」
「…あぁ、そうだよ。」
バレットのいる倉庫へと二人は慎重にゆっくりと歩みを進める。すると前方から見た事のある影が現れた。ゆきは咄嗟に一歩下がる。
「動くな!お前……なんで、」
「っ!」
銃を向けられたキャノンは相手にも銃を向ける。
カチャ……
「っ!?」
「ぶ、ぶ、武器を捨てて!キャノン君!!」
ゆきは後ろからキャノンの頭に銃口を当てていた。
「とんだ嘘付きだったな…」
自らの失態にフッと笑みを漏らすキャノンは、前方からも後方からも銃口を向けられている。
「いいから銃を置け!!」
バレルの叫び声でキャノンは渋々持っていた銃を床へ置いた。
「バレル君!後は…」
前方にいるのはバレルである。ゆきはバレル側について銃をキャノンに向けたのだ。
ガンッ
ゆきの目前が急に暗転した。腹部には謎の痛みが走る。
「っ?!?!」
「チッ!!」
ゆきはキャノンに腹部を蹴り上げられ、壁へと衝突していた。ゆきが持っていた銃は、一瞬宙を舞うとキャノンの手に収まっていた。バレルは、舌打ちしながらも突然の事にも動じずに、冷静に、ゆきを蹴った左脚とは逆の軸となるキャノンの右脚を撃ち抜いていた。
「ぐっ!!」
キャノンは痛みに苦しみながらもゆきを蹴った左脚でなんとか立ち上がる。そして、蹴ったゆきを捕まえた。
「……」
「形勢逆転だね。動かないで?この子がどうなってもいいのかな?」
腹部の痛みでぐったりしたゆきにキャノンは銃口を宛がう。
「……っ。」
バレルはどうすればゆきが助かるかを考える。だが、上手い作戦が思いつかない。キャノンは大げさに銃口をゆきの喉元へと突き付けてバレルへと要求する。
「銃を置いて!」
「ば、れ、……る、君……だ、め…」
ゆきは痛みで意識が飛びそうになるのを必死で堪えながらバレルにダメだと訴える。しかし、バレルはデリンジャーのような人の心がない冷血漢ではない。人並みに情があり、人並みに優しさを持っている。そんなバレルにはゆきを見捨てる事は出来なかった。きっとここにデリンジャーがいれば、バレルを甘いヤツだと笑っただろう。バレルは持っていた銃を床へ置いた。
「出口まで案内してもらうよ。」
「……ああ、わかった。」
★★★★★★
バレットは胸を撃ち抜かれていた。
否、バレットは後方へジャンプしながら目の前のデリンジャーから距離を取って一発放った。
「っ!!」
「フンッ…」
バレットは防弾ジャケットを服の中に着こんでいたのだ。バレットから放たれた一発はすぐさまデリンジャーに撃ち落とされる。バレットはなんとか逃走ルートを確保しようと必死になった。
“ここでは死ねない!”
故郷で皆が待っている。何より、ここで死んでしまえばもう、ピストレットに会う事はできない。バレットにとってそれは一番の問題だった。デリンジャーは容赦なくバレットを追い込んでいく。
棚に囲まれた細い倉庫内をバレットはデリンジャーの弾を避けながら逃げていく。デリンジャーはバレットを逃がさまいと棚の柱へと弾を命中させる。
「ぐっ!!」
大きなモノ音と共に棚はバレットの方へと落下した。埃が舞散り、辺りが靄に包まれる。
「逃げんじゃねぇ…」
デリンジャーは冷徹な顔で落ちてきた棚を見やる。
「っ?!」
しかし、そこにバレットの姿はなかった。




