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遠い日の夢

更新遅れましたー!すいませんー!

 

「おとしゃーん!」


「おぉリオン!! ガッハッハ!! 走ったらまたコケちまうぞ!」


「ちょっとリオン! 待ってって!」



 晴れ渡る空、雲もなく快晴で澄み切った空気を運ぶ風が心地よい。

 愛らしいコバルトブルーの髪をわしゃわしゃと撫でた精悍な偉丈夫は、リオンを持ち上げて肩車をした。遅れて赤い髪の長髪の少女がやってくるが、父の肩にまたがる弟の姿を見て溜息を漏らす。




「キャハハ!! おとしゃんたかいたかーい!!」


「よしきた。ほぅら!! 高い高ーい!!」


「キャッキャッ!!」


「ほら! 今日は久しぶりにユグリスト湖で魚釣りに行くんでしょ! 早く行くよ!」


「おうそうだったな! ソニア、母さんに弁当は貰ってきたか?」


「大丈夫。ちゃんと竿も準備してあるよ」


「よし、それじゃあ行くぞ!」



 二人の父ライアス・バルセリオンは、その太く逞しい腕でリオンを支えると、幼き少女ソニアの手を引き馬に乗せた。

 ライアスは馬の後方に荷物を括り付けると、リオンを肩車したままソニアの後ろに乗り、手綱を引いて出発した。



「すごぅたかぁーい!!」


「ほらリオン、あんまり動くと落ちちゃうよ!」


「大丈夫大丈夫。ハッハッハ!」


「あんまり危ないことしてたら母さんに言いつけちゃうからね」


「なんだソニア、リオンが羨ましいのか? ガッハッハ! なら…………こうだ!!」


「キャッ!!」




 ライアスは片手で軽々とソニアを持ち上げると、左の肩にヒョイと乗せてしまった。




「もう、そうじゃないわよ! 早く下ろしなさいよ!」


「おねしゃんもたかいたかーい!!」


「ガッハッハ!! ほら、動くと危ねぇぞ。そうだな、母さんに言いつけるのをやめたら下ろしてやろうかな〜」




 ライアスは、暴れつつも頬を赤く染めるソニアを意地悪げに見上げる。




「もう! わかったから早く下ろしてよ!」


「おとしゃん、だめーー!」


「リオンがダメって言ったからダメだな! ハッハッハ!!」


「もう、ばか!」




 三人を乗せた馬は仲睦まじく、ユグリスト湖へと進んで行く。



 ――――――――――――



 ガナルファ山の麓にある、森に囲まれた広大な湖、ユグリスト湖。



「おとしゃーーん!! こぇなにーー?」


「おぅ、それは竿だ! 魚釣るんだからな」


「しゃお?」


「ほら、リオンコッチおいで。お姉ちゃんと餌の準備するよ!」


「あい!」




 道中何事もなく湖に到着したライアス達は、草が生い茂る水辺に荷物を広げ釣りの準備を始める。

 釣りが初めてのリオンは、初めて見る釣り道具や湖に興味津々であっちへ行ったりこっちへ行ったりソニアを困らせていた。

 村から更に北東へ向かった所にユグリスト湖があり、馬でおよそ二時間ほど。広大な湖は清く住んでおり、動植物たちにとっても憩いの場となっている。しかし、清き水と自然に溢れたこの地の近くには人の集落は無い。いずれも少し離れたところに居を構えている。その理由が、




「お父さん! あれ!!」


「どうしたソニア…………あぁ」


「うっわーー! おとしゃん凄い凄いあぇ!!」




 湖から上がった気泡は瞬く間に噴水のように吹き上がり、巨大な蛇のような生き物が姿を現した。




「お父さん……こっち見てるよ……!」


「キャハハ!! おっき!おっきぃ! しゅごーい!!」


「ほらリオン、あんまりはしゃぐと転ぶぞ! ソニア大丈夫だ、あいつはここの主だ。いわゆる水龍だな」


「水龍??」




 現れた大蛇のような姿の水龍は、背に広がる立派なヒレを震わせると、首をもたげてこちらに近づいてくる。身体に広がる鱗の一枚一枚が淡い水色の光を放っており、見るもの全てに神々しい威容を与えるかのようだ。



「お父さん…………」




 ソニアがゆっくりと飛沫を上げ近づいてくる水龍に、身をすくめているとライアスはソニアの頭をわしゃわしゃと撫でた。




「大丈夫だって、あいつはな」



『久しいな、ライアスよ……』


「おう、そっちも元気そうだな!」


「喋った!!」




 ライアスがソニアを宥めていると、突然頭の中に声が響く。水龍はこちらをじっと見つめており、口が動いている様子はない。

 しかしライアスは、平然とその声に答えるとまた座り直し釣りを始めた。




『今日はあの娘は一緒では無いのか』


「あぁ、セーラか! あいつは今日は来てねぇな。今日はな、お前に俺のガキを紹介しに来たんだよ」


『セーラの子か……その子供たちか?』


「あぁ、ソニア、リオン挨拶しな。こいつはおれの……まぁ友達だ」


「ソ、ソニアです、水龍様。よろしくお願いします」


「りおんはねぇ、りおん!!」




 近づくことで更に大きさがあらわになった水龍を見て、姉弟の反応が全く真逆な事にクスリと笑うライアス。




『我が名は、ユルルングル。古来よりここを預かる者なり。主らの両親とは古き付き合いだ。…………ほう、そちらの娘は精霊術の才を持つか。さすがはお前達の子といったところか』


「精霊術……?」


「ソニアは俺に似たからな。リオンはセーラの血がよく出てるぜ。瞳とかあいつそっくりだ」


『ふむ、確かにな。む、…………これは』


「グルグル? おとしゃん、グルグル?」


「ユルルングルな、リオン。どうしたんだ?」


『この幼子(おさなご)、《器》か……? あの女以外で見るのは初めてだな』


「あ〜、やっぱりか……。まぁ、薄々は気づいちゃいたんだがな。確証がなくてな……そうか」


「うちゅわ? グルグルのうちゅわ?」


『なんにせよ、大事に育てることだ。器には厄介事がついてまわる、研鑽を積むことだ。人の命など短く儚いのだからな』


「ああ、わかってるさ」




 ユルルングルとライアスの会話についていけないソニアは首を傾げているが、ライアスはやはりかといった様子で頭をかいた。

 リオンは特に気にすることなく、ユルルングルの名前を何度も呟きながらライアスにじゃれつくのであった。。



 ――――――――――――――――

 ――――――――――――

 ――――――――――

 ――――――――




「……オン、リオン!!」



「……っう…ん。ここ……は?」


(今のは…………夢……? 昔の……)



 遠い日の記憶。小さかった頃の夢を見たリオンはしばらくボーッとしていたが、起こしに来た心配そうなエレナの顔を見て辺りを見回す。

 殺風景な部屋に、簡素な衣装棚と古い机。どうやら自宅の自室に運び込まれたようだ。

 戦いの疲労からか、体がだるく頭が痛む。




「良かった! 心配してたんだよ! 急に倒れちゃうから……」


「ああ……うん。多分大丈夫だと思う。エレナこそ怪我はないの?」


「私は平気だよ。リオンが守ってくれたから」


「そっか、良かった……」




 軽い虚脱感と頭痛にさいなまれながらも、リオンは受け答えた。




「あのね……その、ありがとね……」


「……え? なにが?」


「リオン、私の事守ってくれたから。 私だけじゃない! ほかの人たちだってそうだよ! リオンはボロボロだったのに……。怖い魔物と戦って、リオンだって死んじゃうかもしれなかったのに……。それに、それに……私のせいでリオンが無理して倒れちゃったのかと思って……私……ごめんね……」



「…………エレナ」



 リオンが余程心配だったのか、エレナは涙を流しながらか細い声で謝った。



 「エレナ、それは違うよ。僕が守りたいと思って自分の意思で戦ったんだ。途中から足が震えて怖くて、あんまり覚えてないけど……だから……」




 リオンは続ける。




「強くなりたいって、そう思ったんだ。……なんて言うか……腕っぷしだけじゃなくて、どんなに相手が怖くても、強くても、立ち向かえる勇気が欲しいってね。そしたら、声が聞こえてきたんだ」


「声?」


「うん、あれがなんなのか分からないけど、その声が教えてくれた。僕が怖いからって何もせず、村や皆を失ったりしたらきっと死ぬ程後悔する。恐怖に打ち勝てるのは前に進もうとする意思だ。だから前に進めってね」



 エレナはリオンの手を握りながら、うっすらと涙を流しながら静かに聞いていた。



「姉さんも、ラウルおじさんも、村の人達も皆この村を守るために戦った。きっとそれは自分の意思でそう決めたから。だから怖くても前に進めたんだ。それに気づいて……僕も……、弱いけど、それでも皆を守りたい、力になりたいって、そう思ったんだ」


 「リオン……」




 窓の外は既に暗く、月から照らされる光が部屋に差し込んでいる。

 リオンは握られた手をぎゅっと握り返しながらそう話した。




「…………リオンは強いよ。弱くなんかない。だって自分の意思でそう決めて、立ち向かったんだから」



 エレナは流れた涙を服の袖で拭くと、決意を決めた瞳を浮かべるリオンへ向き直った。



 「そっかぁ……フフフ! リオンは……男の子になったんだね……!」


「え、なんだよ……。笑うなよ、僕は元々男だよ……!」


「んーん! そういう事じゃないよ!」


 「いてっ」



 エレナは少し微笑むと、リオンのおでこを指でつついた。




 「それに、きっとリオンの背中をガナルファ山の神様が押してくれたんだよ! 不思議な声が聞こえてきたんでしょ?」


「そう……あれはなんだったんだろう…………」


「フフフ! …………えいっ!」


「うわっ! なんだよ! 抱きつくなって、いきなりどうしたの!?」


「べっつにー!! なんでもなーーい!」



 涙を拭ったエレナは笑いながら、リオンに抱きつきコバルトブルーの髪をわしゃわしゃと撫でた。ボサボサになった髪を直しながらエレナに文句を言うも、エレナが元気になり笑みをこぼすリオンであった。




 「声が聞こえた……か……」



 じゃれ合う二人の笑い声を、ドアの向こう側で壁に寄りかかり聞いていたソニアはそう呟くと、静かにリビングへと歩いていった。



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