村での戦い⑧〜決意を胸に〜
「クッソ! コイツらどんどん数増えてやがる! マリス来てるぞ!」
「っうわ、ック…………」
相対したゴブリンをやっとの思いで倒したラッセルは、しゃがみこんで休んでいるマリスに怒声を飛ばす。
既に柵の一部は破壊され、ゴブリン達の侵入を許していた。三人コンビのグラファが穴を塞ぎ止めているものの、横から何匹ものゴブリンが村に入り込んでいる
ラウルが指示を飛ばし、村人たちも必死に交戦しているものの戦力差が大きく、徐々に劣勢に立たされている。
「ゲギャギャギ!」
「た、助けてっ!」
「…………ック!」
マリスがゴブリンに押し倒され、醜悪な顔と吐き気を催す臭いがマリスを恐怖に染める。間一髪の所でラッセルがゴブリンの胸を貫き、そのまま息絶えた。返り血がマリスの上半身を赤く染め上げる。
「ゲギャグフッ……!」
「大丈夫か! おいしっかりしろ!」
「うっ、ううっ……もういやだ…………逃げよう、無理だよぉ」
「は? グラファさんが気張ってんだろ! しっかりしろや腰抜け!」
「無理だ……死にたくない……嫌だ……!」
「ッチ……」
返り血まみれの頭を抱え震えるマリス、ラッセルが胸ぐらを掴み無理やり立たせるが、足が震えておりすぐに地面に座り込んでしまった。
「弓隊構え!! 味方に当てんなよ………………うて!! 村に入り込んだゴブリンは二人一組で確実に息の根を止めろぉ! 手が空いた奴はグラファのフォローに入れ!」
ラウルが見張り台から、グラファに襲いかかったホブゴブリンの頭を射抜いた。グラファはラウルを一瞥するも、すぐに相対しているゴブリン達に向き直る。
的確な指示で何とか戦況は保たれているが、ラウルの額からは冷や汗が吹き出していた。
(このままじゃジリ貧だ、ソニアは南の奇襲でこちらには来れねぇ。こっちもいつまで持つか……。っクソ! 王国の騎士団様はまだ来ねぇのか!!)
ラウルには、村で籠城戦をするにあたってある程度の勝算があった。それは、王国兵の増援である。
ガナルファ山の周囲及び、中規模以上の街などには王国兵の詰所が点在しており、有事の際にはすぐに王国兵が駆けつけられるようになっている。
通常であれば、緊急用の狼煙を焚けば馬で半刻程でたどり着く距離ではあるのだが、初めの襲撃の時に狼煙を焚いてから、既に六時間が経過していた。
(こんだけ粘っても来ねぇってことは……襲撃はここだけじゃねぇな……。最悪の場合、このまま増援は無いって事も……クソっ!)
最悪の未来を想定し、思わず見張り台の柱を殴りつける。拳からはじんわりと血が滲み、熟練の冒険者の顔が焦燥に歪む。
「だ……だめだ……。に、逃げよう! オレはもう知らねぇ!!」
「お、おい!! てめぇ待てマリス!!」
地面に這いつくばっていたマリスは突然立ち上がり、錯乱したかのように戦場とは逆の方向へと走り出す。突然の行動にラッセルは呆然とするも、マリスを止めようと追いかけた。
「ハッ……ハッ……! うわっ!」
「ぐわっ……なんだ一体……!」
補給に来た村人とぶつかり再び地面に転がるマリス、ラッセルがマリスに追いつき再び胸ぐらを掴み、持ち上げる。
「おい! てめぇふざけんな腰抜け!!」
鬼の形相でマリスを責めるラッセル、マリスとぶつかった村人は何事かと起き上がると、二人の仲裁に入ろうとする。その時だった。
「おい、この非常時に喧嘩なんてして……グギャッ!!」
「…………は?」
村人の上半身から上が綺麗に消えた。残された下半身から鮮やかな鮮血が吹き出し、行き場を失った内蔵がこぼれ落ちる。
マリスとラッセルは呆然と目の前の出来事を理解出来ず見つめていた。
が、
「グルォォォアアアアァァッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
巨大な狼の咆哮に半ば強引に引き戻された。
「ヒッ! ヒィィィィ!!!」
「う、なっ………………」
デッドウルフは巨大な口で、村人の残骸をペロリと平らげると目の前で固まる二人に視線を移す。
「お前ら逃げろぉ!!!」
(クソっまずい! 今ここで背後からあんなやつの攻撃を受けたら一瞬で戦線が崩壊する!)
辛うじて保たれている東側の柵の攻防が、一匹のデッドウルフの出現により危機を迎えていた。
ラウルが鬼のような形相で叫び散らすが、ラッセルは足が震えてしまい動かない。戦闘に参加しようと意気込んだものの、殺し合いをするという自覚などなかった。目の前で村人が惨殺され食べられるなんて思ってもみなかったのだ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「……バ、バカ! マリス!」
地面にへたりこんでいたマリスは、半狂乱になりデッドウルフの視線を横切り逃げ出した。しかし、デッドウルフは逃げ出すマリスに視線をやると、
「グエッ……う、うわぁぁ!! 嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁぁ!!!」
瞬時に跳躍し、鋭い爪でマリスを背中から押さえつける。押さえつけられた背中に爪が食い込み血が滲むが、お構い無しにマリスは暴れ叫んだ。
デッドウルフはニヤリとその巨大な口を歪ませると、マリスの頭を喰らわんと口を近づける。
「グルァ!!」
「うあああ、嫌だぁ! 死にたくない!! 誰か! ラッセルぅぅ!! 助けてぇぇぇ!!」
狼の生臭い息に鳥肌が立つ。牙の間に村人の服の切れ端が覗いているのを見て、顔を青くした。自分も数秒後にはああなってしまうのかと。
「マリス!!」
ラウルの矢が撃ち放たれる。風を切り、狼の頭に一直線に進む矢は、だがしかし躱される。ラッセルはそれでも恐怖で動けずにいた。次は自分かもしれないと。
誰もがマリスの死を確信してしまった。
その時だった。
一陣の風が吹く。
風は等しくその場にいた者の頬を撫でた。
「オォォォォォォ!!!!」
今マリスを喰らわんとする狼の死角から、とてつもない勢いで現れたその者は、こっちを見ろと言わんばかりに雄叫びを上げ、跳躍し、狼に迫る。
使い古された木剣、錆びれた鉄の盾、鋭いシールドバッシュが空中から狼の頭を捉えた。
「グギャン!!」
デッドウルフは不意をつかれ、地面を転げ回る。他の狼とは隔絶したその巨体は砂埃を上げ、オオカミを数秒間ひるませた。
「リオン!!!!」
「……な、なんでお前が……」
ラウルがよくやったと叫び、ラッセルが何故だと目を見開く。ここに居るはずの無いリオンが現れたことに動揺を隠せない。
「早く!! 今のうちに!!」
「あ、ああ……わりぃ……!」
「リオン……! 無茶するな!! あん……なんだ……? この膨大な魔力は……??」
リオンはラッセルにマリスを連れていくように促すと、ゆっくりと立ち上がるデッドウルフの前に立ち塞がった。
マリスは恐怖のあまり半ば放心状態でラッセルに担ぎあげられると、そのままラウルがいる見張り台の方まで連れていかれた。
デッドウルフに向かい合うリオンにラウルは声をかけるが、突然肌を打つような魔力の気配を感じ、周りを見渡す。
(死ぬ程怖い…………。けど、ここでやらなきゃきっと後悔する)
相対する巨大な狼は、頭を殴られエサの人間も奪われ、怒り心頭でこちらを威嚇している。
しかし、リオンは恐怖こそあれど心は自然と落ち着いていた。
さっきまで自分もあれほど震えていたのに、今は心が凪いだように静かだ。
少年は、覚悟を決めていた。
(戦う理由……。相手がどんなに強くても、凶悪でも、前に進むって決めたんだ。僕はただ…………)
「村を、皆を大事な人を守りたい。だから戦うよ!!」
「グルォォォアアアアァァッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そして、決意を胸に秘めたリオンの戦いが始まる。
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(›꒪ω꒪‹ )おぅ!待ってるぜ!!なぁリオン。
(´・_・`)ラウル叔父さんの顔文字なんか変だね!
(›꒪ω꒪‹ )………………