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村での戦い⑤〜罠〜

 

 最初に気づいたのは、柵を補強していた村人であった。

 魔物の襲撃に備え、縄と木材で幾重にも柵を固め、多少の衝撃では崩れないようにしていく。

 木材の加工を生業の一部とするこの地の住人として、この位の作業は朝飯前であり、すぐに頑強な柵が出来上がった。


「こんなもんか……」


「いつ魔物が来るか分からねぇ、さっさと交代しちまおう」


「そうだな」


 作業を終えた村人たちは森の方を覗き込みながら、そそくさと逃げるように村の奥へと向かおうとした。

 しかし、その内の一人が何かを見た。

 いや、目が合ってしまった。

 大人ほどの背丈に、人型、屈強な腕と脚。汚れた布を腰に巻き、口から発達した犬歯がギラりと上に飛び出ている。


「ホブゴブリンだ!! それも……十はいるぞ……!」


「魔物だ!! 魔物がまた来たぞー!」


「クソっ! 誰かラウルに伝えてこい!! あとソニアも呼んでくるんだ!!」


 ホブゴブリンと目が合った村人が、すぐさま声を上げた。

 タイミング悪く、ラウルはソニアと話し合いをするため森側の柵から離れている所であったが、すかさず見張り番の者が、近くの者を走らせラウルとソニアを呼びに行かせた。

 魔物を発見した際の初動のあれこれを、全員がラウルから共有されていたのだ。


「全員弓を持て! 柵は簡単には壊れない! 焦るな!」


 見張り番と、柵の補強班合わせて十名ほどが柵から少し距離をあけ弓を構える。が、


「お、おい……」


「ゴブリンも来たぞ……何匹いるんだ!?」


 ホブゴブリン十匹だけかと思いきや、後続からゴブリンの群れがワラワラと這い出てきた。

 ホブゴブリンはゴブリンの進化種であり、通常のゴブリンと比べ戦闘能力の他に知性も大きく成長する。ゴブリンのみの群れも多いが、ホブゴブリンが率いるゴブリンの群れは、ホブゴブリンを長とし命令系統が一本化するので、通常のゴブリンの群れより危険度が増す。


「クソっ! 怯むな構えろ!! ……打て!!」


 弓を構えた村人達が、一斉に弓を放つ。が、多くが武装したホブゴブリンの盾に弾かれ、後ろのゴブリンが数匹倒れた程度。

 前列のホブゴブリンがニヤリと笑みを浮かべた。


 ――――――――――――――



「なにっ!! ホブゴブリンの群れが来た!?」


「あぁ、急いでくれ!!」


「分かった! 集めれるだけ人を集めてからすぐに向かう!! お前は戻って持ちこたえてくれ!」


 事情を説明した村人は頷くと、急いで東側の柵へと戻って行った。


「ちっ、思ったより早いな……」


 思いっきり顔を顰めたラウルは舌打ちをすると、そう呟いた。

 ラウルの経験上、魔物の大量発生には波が存在する。魔素溜りは大きく濃く溜まるほど大量の魔物を吐き出す。一度魔物を吐き出した魔素溜りはその後やせ細るが、魔素溜りの根が枯れるか原因を排除しない限り、再び大きくなり魔物を吐き出してしまうのだ。

 そしてその周期は魔素溜りによって誤差があるが、発生の規模が大きいほど時間がかかるのだ。


(数が少ないことを願うしかないな……)


 まだ先程の襲撃から二時間ほどしか経っていない。

 内心悪態をつきながらも、ラウルは走り出した。


「魔物だぁー!! 襲撃だー! 皆避難しろ、急げ! 野郎どもは武器を持って東側に集まれ!!!」


 見張りと交代で休んでいる村人達の家の前を走りながら、ありったけの大声で叫ぶ。

 男たちは慌てて飛び出し、武装して東側の柵へと向かう。村の女、老人、子供達は村の北西にある大人数が入れる村長宅へ避難していく。


「ラウルのおやっさん!」


「お前らは……」


 あらかた家を周り終えたラウルの前に、グラファ、マリス、ラッセルが現れた。各々武装しており、襲撃されているにも関わらず余裕の表情である。


「……俺らにも戦わせろ」


「リオンの何倍も強いっすよ、俺たちは」


「……別にこのオッサンに許可取らなくてもいいんじゃないすか?」


(うーむ……、まだ成人していない子供を戦わせてもいいものか……)


 ラウルは少しの間逡巡するも、


(リオンにも戦わせてしまったし今更か、人手が多いに越したことはない、俺が面倒を見よう)


「分かった、ただし俺の指示には必ず従え。分かったな?」


 自分に従う事を条件に、戦闘の許可を出した。子供とはいえ今年で十七であり、グラファに関しては力が強く腕っ節にも期待ができる。


「……ああ」


「そうと決まれば早速行きやしょ!」


「っけ!」


 グラファ、マリス、ラッセルは踵を返し東側の柵へと走っていった。


(そういえば、リオンが見当たらない……ソニアと一緒か??)


 リオンがいないことに気づいたラウルは、ソニアと一緒にいるものだと思い、特に深く考えず急いで東側の柵へと戻って行った。


 先程通った倉庫の中にリオンが縛られているなど、つゆほども知らずに……。




 ――――――――――――――




 東側の柵に続々と武装した村の男たちが集まる。ソニアも異変を察知し、早い段階で到着して村人達に指示を飛ばす。

 前列に槍持ち、家屋の屋根などに登り弓持ちを配置し迎撃する。

 ゴブリン達からも投石などの反撃はあるものの、現状は優位に戦闘を進めている。

 しかし、ソニアは釈然としなかった。


(ホブがいるのになぜ数で押さない……?)


 現状ホブゴブリンは前列で盾をかまえ、守りを固めている。

 後列のゴブリンを守るためと言えばそう見えるかもしれないが、数で勝っているゴブリン達が守りに徹しているのは腑に落ちない。

 見張り台から投石を躱しつつ、注意深くゴブリン達を観察する。

 ホブゴブリンは知能が高い魔物である。罠を貼り、戦略を立て冒険者を返り討ちにすることも珍しくない。


「まさか…………陽動か……??」


 東西南北に見張りは配置しているが、ガナルファ山が村の東側にある以上侵入してくるとしたら北か南だろう。

 そう思い、南側を見渡した時だった。

 森側から猛烈な勢いで走る狼の集団が、村の南側に回り込み近づいてきている。


 「ッチ!! クソが!! ラウル!!」


 「どうしたソニア!!」


 「陽動だ! アタシは南側に行く!」


 「なんだと! 陽動!?」


 疑問が確信に変わり盛大に舌打ちをした後、

 ソニアはすかさず見張り台から飛び降り、ものすごい勢いで南側に向かって走っていく。


 「ゲギャァァァァァァァァァ!!!」


 「ギャギャ!」



 狼の集団が南に出現したと同時に、ホブゴブリンが雄叫びを上げた。

 それに呼応するかのように、周りのゴブリン達が反応する。


 「っな! コイツら!?」


 ゴブリンが一斉に柵に殺到し取り付いた。槍も矢も気にせず、柵をよじ登っていく。


 「柵に取りついたやつを狙え! 絶対に通すな!! ……クソっ! 陽動ってそういう事か! これじゃ南に人を割けないぞ……!」


「オ、オォ!」


 目の前の柵をよじ登るゴブリン達の心臓を鮮やかに撃ち抜きながら、しかし顔を顰めたラウル。冷や汗が背中から湧き出る。

 陽動としては非常に有効な作戦である。南からも魔物が現れたとするなら、人手が少ないこちらとしては、数の多いゴブリン達が攻めに転じてこられたら対応せざるを得ない。


「ゴブリンどもが、一丁前に陽動だと……ッチ……」


 南が抜かれても、ここが破られてもゲームオーバーである。

 苦虫を噛み潰したような顔で反撃を続けるラウル。




 「クソっ……。無理はするなよソニア……」




どんどんと遠くなっていくソニアの背中を見ながら、ラウルはそう呟いた。


次回リオン視点になります。

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