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村での戦い④〜悪意〜

少し短いです!

 

「ふぅ……」


 自宅の裏の井戸で、水を被るソニア。桶一杯に入った冷たい水があらわになった彼女の肌に付いた血を流す。滴る水が細くしなやかな身体を流れ、赤い血と交わり、足元に鮮血の水溜まりをつくる。

 水に濡れたショートヘアの真っ赤な髪をかきあげ、ソニアは溜息をついた。


「いきなり魔物の大量発生なんてね、冗談じゃない……」


 こぼれ落ちそうな双丘を腕で抱えながら、近くの木にかけていた布で身体を丹念に拭きあげていく。


(実際に危なかった……。異変を察知してからのラウルのオッサンの迅速な対応と、私の援護が間に合ってなかったら…………全滅していた……クソっ)


 ソニアが村に駆けつけた瞬間はホブゴブリンによって危機に瀕していたものの、実際にそれまで村人数人でよく持ちこたえていた。

 戦力差を埋める地の利の活用と、ラウルの指揮がなければソニアやリオンが駆けつけるまでに村は崩壊していただろう。



「あ〜、これはもう血が染み付いてるねぇ、落ちないかぁ……ま、しょうがない」


 普段着で使っていた腰の丈程のチュニックは洗っても落ちず、赤い染みができていた。ソニアは再び溜息をつきながらも、代わりに持ってきた服に袖を通した。

 大斧を担ぎあげ、広場に戻ろうとしたところでふといつもの三人コンビの取り巻きマリスと無口なグラファを見かけた。

 二人は村の外れの用具や資材等が集めてある倉庫に入っていく。


(二人……? 珍しいな。村人はまとめて避難してるはずだが、あいつらは何やってるんだ……?)


 どんな時でも金魚の糞のように三人組で行動しているコンビなのに二人しかいないことに疑問を抱きつつも、


(まぁいいか……)


 こちらから関わるのも面倒だとソニアはそのまま広場に向かって行った。



 ――――――――――



「オラッ!」


「ウウッッ!」


 薄暗く埃っぽい家屋の中で、資材が派手に音を立てて吹き飛ぶ。

 両腕を縛られ、汚い布で猿轡を噛まされたリオンが崩れた資材の上で、くの字になり横たわっていた。

 コバルトブルーの髪は土と埃にまみれ、猿轡には口を切ったのか少し血が滲んでいる。


「ったく。手間かけさせんなよな雑巾野郎が! イッテテ……」


「ウウウッ……」


 ラッセルが殴った右手を左手でさすりながらリオンに罵声を浴びせた。

 とそこで戸が開き、マリスとグラファが現れた。


「グラファさん、捕まえて痛めつけときましたよ」


「ああ……少しやり過ぎじゃないか?」


「ケッ! いいんすよ、調子に乗るからこうなるんすよ。っぺ」


 そう言ってラッセルは唾をリオンに吐きかける。

 グラファは哀れんだ顔でリオンに近づきしゃがんだ。

 今年で十七になる青年とは思えないほどの大きな背に、太い腕と脚。ラッセルとマリスがニヤニヤしながらボロボロのリオンを見下す。


「……次の魔物の襲撃は俺たちがやる。お前はそこでじっとしてろ」


「弱ぇのにでしゃばんなや」


「弱いのにエレナとは仲良いからなコイツ、ムカツクぜ」


 グラファがそう言い扉から出て行くと、取り巻きのラッセルとマリスはひとしきりリオンを罵倒したあと去っていった。

 いきなりの事態にリオンは訳が分からず、ラッセルに殴られた痛みも相まって呆然としていた。

 しばらくして痛みも引き、次第に状況を把握する。


(手はしっかり縄で縛られてる、ほどけそうにもない……。なんでアイツらは僕を……! ……そういえばエレナがどうとか言ってたけど、それでか……?)


 言われのない理不尽に、ふつふつと怒りが込み上げて来たリオンだったが気持ちを切り替えて、現状の把握につとめた。

 腕が縛られている上に、その縄は倉庫の支柱に繋がれ、外には出られない。猿轡を噛まされているため、大声を出そうにもあまり意味が無い。

 どうしたものかと途方に暮れていると、外が次第に騒がしくなってきた。


「……ものだぁー!! 襲撃だー! 皆避難しろ、急げ! 野郎どもは武器を持って東側に集まれ!」


「ウウウッ!! ウーウッ!!」


 ラウルの声が近づき、村人に避難を促していく。近づいてくるラウルの足音に、ダメもとで大声を出したが、無情にも足音は遠くなっていった。


(クソっ! なんでこんなことに……。とにかく早く脱出しないと……)


 焦る気持ちを抑えつつも、周りを見渡し何か使えるものがないか探す。が、脱出を警戒してか、はたまた襲撃のせいか刃物などは見当たらず、農具の一つもなかった。


(こうなったら……やけくそだ!)


 何も使える道具がないことに落胆するリオンだったが、支柱に繋がれた縄を咥えると、ガリガリとかじりついた。


(早くここからでないと……村を守るんだ!)


 八方塞がりの状況でも、少年の目には強い光が(とも)っていた。






 バゴォォォォン!!!!!!




 しかしそんな少年の決意を叩き割るかのように倉庫の壁が吹き飛ぶ。


(っな…………)



 「グルォォォアアアアァァ!!!!!!!!」



 見たことのない大きさの、巨大な狼型の魔物であった。






ご覧いただきありがとうございます!


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