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蓬莱島の工作箱  作者: 秋ぎつね
74/74

055 緋銅アクセサリー

仁「こんにちは、魔法工学師マギクラフト・マイスターの二堂仁です」

礼子「お父さまに作っていただいた自動人形(オートマタ)でアシスタントの礼子です」


仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第55弾です」

礼子「今回は『緋銅ひどう』のアクセサリーですか」

仁「うん。CTXの方はまだボディが手つかずなんだとさ」入院したり寒かったりで

礼子「大人の事情、というやつですか」

仁「違うと思うぞ……」どこでそんな言葉覚えてくるんだ


*   *   *


仁「緋銅というのは、純銅を熱処理して、表面に酸化膜をつくる技法なんだ」

礼子「酸化膜が赤くなるんですか? 黒じゃなく?」

サキ「くふふ、ボクの出番だね!」

仁「来ると思ったよ」

サキ「酸化膜というのはごくごく薄いため、光の干渉や反射で見かけの色が変わるんだ」

礼子「チタンの酸化膜はそれですね」

サキ「そうそう」


仁「で、この『緋銅』というのは日本の伝統技法になっている」江戸時代に発明されたとされる日本の伝統的な銅の着色技法です

サキ「『錦銅にしきどう』というのもあるね」

仁「どちらも『熱』だけで銅を赤くする技法だな」

礼子「色を塗るとかめっきをするんじゃないんですね」

仁「そういうことだな」


サキ「厄介なのは、『緋銅』も『錦銅』も、教科書がないということだね」

礼子「どういうことですか?」

仁「職人の勘だよりというか一子相伝というか」どっかの暗殺拳みたいな

礼子「素人が手を出すには敷居が高いですね」

仁「ハードルが高い、な」敷居が高いというのは、その家に入りにくい時に使うんだ

礼子「ニホンゴムツカシイデス」




挿絵(By みてみん)


仁「というわけで、まずは銅の酸化膜がどんな色になるかの実験だ」

礼子「厚さ1ミリの銅板を磨いて、およそ2センチ角に切っています」

サキ「載せているのはステンレスの金網だね」




挿絵(By みてみん)


仁「その試験片をオーブンに入れて加熱する」

礼子「この夏に買った、温度調整のできるオーブントースターです」地味に便利です

サキ「冷めたコロッケや餃子を温めるときは160℃くらい、パンを焼く時は250℃、なんてできるのはいいよねえ」

仁「高温で温めると表面が焦げて中は冷たい、なんてなるからな」

サキ「ネットで検索すると同じような実験をしている方もいらっしゃいます」銅 加熱 色 酸化膜 などがキーワードです




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


仁「オーブンを200℃に設定して試験片を温めていった結果だ」左からデフォルト、2分、3分、4分、5分、7分、9分、10分です

礼子「色が変わってますね。番号が通しでないのは?」

仁「2分間隔にしたら思ったより色の変化が大きかったから、やり直したからだな」

サキ「酸化膜の厚みによる干渉色だから、見る角度で鮮やかさが変わるんだよね」

礼子「きれいですね」

仁「1つ驚いたのは200℃で10分熱すると、純銅なのに真鍮みたいな金色になるんだよな」

サキ「ボクは5分から7分くらいのピンクがかった赤が好きだね」

仁「と、まあ、こうして、銅の酸化膜がきれいな色になることがわかったわけだ」これは予備実験です

礼子「せっかくきれいな色になりましたが、はんだ付けやロウ付けをすると再加熱されて色が消えます」

仁「保護用の塗料を塗っても色が変わったなあ」

サキ「酸化膜の干渉色だから、分厚く塗らないとだめだろうね」ミクロンオーダーでは駄目かも




挿絵(By みてみん)


仁「では、いよいよ『緋銅』の実験にはいる」

礼子「銅ワッシャで指輪を作った時の環境+前処理液+ホウ砂水溶液ですね」

サキ「ホウ砂は洗濯のりと混ぜてスライムを作る遊びに使うので100均なんかにも売ってるね」作者は薬局で買ったものです

仁「銀のロウ付けにつかうフラックスを作ったホウ砂が、ようやく使えたと喜んでいたな」

礼子「ええと、ホウ砂は何に使うんですか?」

仁「『錦銅』は銅を融解寸前の温度(約1000℃)まで熱したあと水で急冷して作るのに対し、『緋銅』はホウ砂の飽和水溶液に入れて急冷する、という違いがあるんだ」

サキ「ホウ砂の融点は878℃(無水物)なので、銅の表面でガラス状の被膜を作ってくれるんだよ」なので色変化しにくいわけ

礼子「保護膜ができるわけですか」

サキ「そういうことさ」


仁「ところで今回は、銅をステンレスの金網の上で炙るから、火を下に向けなくてはならないんだ」

礼子「前回まで使ったトーチランプは下を向けると火が息をつきますね」

仁「ということで今回のバーナーは下向きでも使えるタイプなんだ」

礼子「あと、前処理液というのは?」

仁「この後説明する。作者が半ば偶然に見つけた、すごいサポート液だ」




挿絵(By みてみん)


仁「試験片を作る素材だな」

礼子「無酸素銅、という話でしたね」

サキ「純銅の中でも高品質のものだね」純銅なら大丈夫です

礼子「純銅でないとだめなんですか?」

仁「だめだな。真鍮や青銅は赤くならない」それ以外の銅合金はちょっと手に入らないから未確認ですが




挿絵(By みてみん)


仁「ピカ◯ルやウィノ◯ル(◯の中はー)で磨いてピカピカにする」

礼子「それを25ミリくらいに切って、端に穴を空けました」元々の幅は20ミリです

サキ「穴を空けたのは前処理しやすくするためだね」




挿絵(By みてみん)


仁「前処理だな」

礼子「脂分が付着していると失敗しやすいので、事前にブレーキクリーナーで脱脂します」これもコツの1つです

サキ「前処理液もホウ砂の飽和水溶液だね」それに界面活性剤を混ぜています

礼子「界面活性剤とは?」

仁「ぶっちゃけ、台所用の洗剤だな」

サキ「銅板をそのまま液につけても結構弾くんだよ」界面活性剤を混ぜると表面にきれいに膜を張ってくれます




挿絵(By みてみん)


仁「で、ステンレスの金網の上にそっと置いて、加熱する」

礼子「真っ赤ですね」

仁「黄色みが掛かると溶けるから、ギリギリを見極めるのが難しい」



仁「で、写真に取っていないけど、赤熱した銅をホウ砂の飽和水溶液にドボンする」ジュッといいます

礼子「一瞬の勝負ですものね」

サキ「やけどには注意、だね」




挿絵(By みてみん)


仁「で、仕上がり」

礼子「きれいですね」

仁「一番上がデフォルト(未処理)、下2つが軽く熱しただけ」軽く熱しただけでは赤くならなかった

サキ「下の4つが真っ赤になるまで熱したものだね」左2つは赤くなったらすぐにホウ砂飽和水溶液に投入

仁「下の右2つは赤くなったあと数秒熱してから投入」加熱時間が長くなっても色の違いは出ませんでした




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


仁「一応サンプルとして保存した」

礼子「2枚目の画像は、磨かなかったりヘアライン(ヤスリ目)が残っていたりしたらどうなるかの実験です」

サキ「磨き方はあまり発色に影響はないんだねえ」これはこれで貴重な資料です




挿絵(By みてみん)


仁「さて、今回の実験の前に作った緋銅サンプルだ」

礼子「ムラがすごいですね」

サキ「そう、普通にやったら成功率が低いんだよねえ」

仁「職人さんでも10回やって7回くらいしか成功しないらしいし」

礼子「作者さんは10回やって1回か2回でしたね」

サキ「くふ、それがどうしてうまくできるようになったか、それが今回のきもだね」




挿絵(By みてみん)


仁「本番前だが」

礼子「バーナーの横に、何か白緑色の液体が入ったビンがありますね」

仁「それこそが、作者が発見した前処理液だ」

礼子「界面活性剤入りのホウ砂飽和水溶液じゃないんですか?」

仁「それはそうなんだが、その界面活性剤が、特定のものになる」

サキ「最初に使っていたものは、平らなものには使えたけれど、立体物だとムラになったからねえ」

仁「うん、銅の指輪に使ったらムラになって、全部磨き直す羽目になったからな」大変でした

礼子「界面活性剤で違いがあったんですね」

仁「そうなんだ。一番よかったのは、『花◯のキ◎キュットクリア除菌』だな」◯は王、◎はュです

サキ「はじめの方で前処理した大きめの容器に入っているのはホウ砂飽和水溶液+『チャ◎ミィのMagica除●+』だね」◎はー、●は菌です

仁「粘性の違いかもな」油汚れを落とす効力とは無関係です、念のため

サキ「もっといい洗剤があるのかもしれないけど、たまたま家にあった洗剤で試したらこの結果なので、もし他の洗剤で試した方は是非お知らせください」




挿絵(By みてみん)


仁「で、指輪をブレーキクリーナーで脱脂して、前処理液に漬けてからステンレスの金網の上に載せる」

礼子「あとは赤熱するまで熱して、ホウ砂飽和水溶液に投入するだけです」




挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


仁「完成した緋銅リングだ」

礼子「きれいですね」

サキ「くふ、表面にホウ砂がガラス状の保護膜を作っているから、内側にすずめっきをしなくて済むんだよね」

仁「それが利点だな」

礼子「傷がつきやすいのでその点は要注意ですね」

仁「その分単価は低く抑えられるからな」

サキ「銅のパイプを切って使えれば量産できそうだね」

仁「確かにな」




挿絵(By みてみん)


仁「作者が、銅板でペンダントトップを作ってみたそうだ」

礼子「ツタの紅葉ですね」

サキ「もみじの葉のイヤリングなんかもよさそうだね」




*   *   *


仁「まとめると、銅の酸化膜を利用した『緋銅』を失敗せずに作るには、ホウ砂飽和水溶液を表面に塗布してから熱することだな」

礼子「表面に均一に付着させるためには界面活性剤を混ぜる、と」

サキ「結局、表面のホウ砂飽和水溶液の働きは、火を止めてから投入するまでの間に空気中の酸素と反応してムラになってしまうのを防いでくれるわけだね」

仁「その証拠に、飽和水溶液に入れず空冷してもちゃんと緋銅になったからな」

礼子「これは画期的な発見ですね」

仁「そう思う。ネットで色々調べたが、みんな苦労していたからな」職人の出す赤には一歩か二歩及ばないかもしれませんが、失敗がほとんどないというのは大きいと思います

礼子「このやり方を独占するつもりはありませんので、どしどしお試しください」

サキ「その結果をまたネットで発表していただけると嬉しいです」




*   *   *



仁「ということで今回は『緋銅アクセサリー』でした」

礼子「お疲れ様でした」

仁「作業時の怪我、火傷、火事などにはご注意ください」

礼子「研磨時には金属粉が出ることもありますので保護メガネを」マスクも必須です

仁「手を切ったら流水で洗い流しましょう」

礼子「汚れが傷口に残らないよう注意です」

仁「薬品の取り扱いにもご注意ください」

礼子「あやまって飲み込まないように」

仁「趣味は楽しく、安全に」



仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」佳いお年を!

 ごらんいただきありがとうございました。

 2026年もどうぞよろしくお願いいたします。


 皆様、佳いお年をお迎えください。


 20251227 修正

(旧)『花◯のキ◎キュットクリア除菌』だな」王とュです

(新)『花◯のキ◎キュットクリア除菌』だな」◯は王、◎はュです

(旧)仁「で、指輪をブレーキクリーナーで脱脂してから、

(新)仁「で、指輪をブレーキクリーナーで脱脂して、

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― 新着の感想 ―
はじめまして。 この感想をお送りするために初めてなろうアカウントを作りました。 自分も以前こちらの記事と近い手法で緋銅を作ったことがあり、コメントしたくなった次第です。 (https://note.…
これが日本の伝統工芸ですか、昔の人は凄い技術を開発したのですね~ 緋銅の指輪なんてかなりオシャレで良い色ですよ、女性向けアクセにピッタリな色合いですね。 まあ、男性が赤い指輪を嵌めても良いとは思い…
綺麗な色がでるんですねぇ 同じ日にTwitterに下記のような投稿がありましたw こっちは空冷のようです https://x.com/ekitaisuiso/status/200481574711…
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