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蓬莱島の工作箱  作者: 秋ぎつね
2/70

002 拭き漆の茶匙

 月に1回くらい更新できたらいいなあと……。


 糸巻きはちょっとお待ちください……m(_ _)m

仁「こんにちは、魔法工学師マギクラフト・マイスターの二堂仁です」

礼子「お父さまに作っていただいた自動人形(オートマタ)でアシスタントの礼子です」


仁「今回はタイトル通り『拭き漆の茶匙ちゃさじ』です」

礼子「『茶匙』って要するに日本茶用のティースプーンですよね?」

仁「そう。ちなみにティースプーンというのは本来は紅茶の茶葉を計量するためのスプーンだった……らしい」

礼子「で、日本茶用のものを今回は作ってみた、と」

仁「そういうことだな。日本茶(番茶、ほうじ茶、煎茶、玉露……など)では、砂糖を入れないからかき回すこともない。必然的に計量スプーン的なものになるわけだ」

礼子「確かに」

仁「で、一般的な煎茶用のティースプーン……じゃない、茶匙を今回紹介するというわけだな」


礼子「で、『拭き漆』ってなんですか?」

仁「ああ、その説明が抜けていたな。……拭き漆というのは、漆を塗ってから乾く前に拭き取って、ごくごく薄い漆の膜のみを形成させることをくり返す技法だ」

礼子「茶色く透けるので木目が生きるんですね」

仁「そう。黒漆だと、木地が見えなくなるからな」最悪プラスチックでもわからない

礼子「木の質感を生かせるんですね」

仁「同時に、初心者でも取っつきやすい技法でもある」この辺はまた後で説明しよう


挿絵(By みてみん)

材料


仁「まずは材料。これはトチノキだな。木目が面白いぞ」

礼子「こんな形、大きさの材料が手に入るんですね」

仁「ああ。ちなみに、東京の『新木場』という駅から歩いて5分くらいのところにある材木屋さんで入手したものだとさ」200円くらい

礼子「ギターとかスピーカー(エンクロージャー)とか釣りの浮子とかテーブルとか、DIYする人が来るようですね」大きいと高いようです

仁「定休日には注意だな。遠出して休みだったときのガッカリ感は酷いぞ」

礼子「……」


仁「こほん。で、それを削って形にする」

礼子「工具の紹介は?」

仁「これだな」


挿絵(By みてみん)

ノミ


礼子「これ、ノミですか? 曲がってますね」

仁「丸曲ノミとか木彫りノミって言うらしい。要するに凹面を彫るためのノミだ。ノミだから金槌や木槌で叩いて彫り進める」

礼子「そこが彫刻刀とは違うところですね」

仁「そう。俺は、ノミは木槌で叩けと教わった。金槌だとノミの柄が傷むんだそうだ」

礼子「そのあたりは伝統技法ですから人によって違うんでしょうかね」

仁「そうかもな。……で、今回はこれに漆を塗る」

礼子「漆と言えばサキさんですね」

サキ「くふ、呼んだかい?」

仁「お、サキか。……ほら、これが本来の漆だ」


挿絵(By みてみん)

漆チューブ


サキ「ひい! ……かぶれないかい?」

仁「弱い人は近づいただけでかぶれるから要注意だな」

サキ「」びくびく

仁「趣味で漆芸をやる人用に、こうしてチューブで売られているんだ。職人用には桶単位だな」

サキ「桶?」

仁「ああ、そうさ。漆は空気中の水分と反応して固まるから、空気に触れさせるのは厳禁なんだ。だから缶とか瓶ではまず売っていないんだ。桶には油紙でみっちり蓋をする……らしい」

礼子「○○うるし、と言っているものはほとんど全部が『漆調』になる合成塗料ですね」

サキ「そ、そうなんだ」まだ警戒している

仁「で、これは採取した樹液をしてゴミを取り除いただけの『生漆きうるし』という」

礼子「茶色いですね」

仁「樹液だからこれが本来の色だな。黒くするには鉄分を加えたり顔料を加えたりするらしい。赤も同じだな」

礼子「元が茶色いから、白い漆はないんですね」

仁「そういうこと。白くしたいときは卵の殻(卵殻らんかく)を貼るとか、銀箔やプラチナ箔を貼るとかするようだ」


挿絵(By みてみん)

木地固め


仁「で、話を戻すと、漆塗りの第1段階は『木地固め』だな。薄めた漆を塗って乾かすんだ。濃いままだと木地が漆を吸い込みすぎて黒っぽくなり、木目を生かせない」

礼子「乾燥ではなく硬化ですけど、『乾かす』っていうんですね」

仁「それは慣用的な言い方なんだろうな」

サキ「漆を薄める溶剤はなんだい?」

仁「ああ悪い悪い。今回は『片脳油へんのうゆ』を使った」

サキ「片脳油?」

仁「そう。樟脳しょうのうの仲間というか、樟脳(しょうのう)油から樟脳をとった残りのを精製したものらしい」

サキ「なるほど、なんとなくそんな匂いがするね」くんくん

仁「その他には油絵用のテレピン油とか、灯油でもいいらしいが」

礼子「なんとなく、食器に使いたくないですね」

仁「そういうことだな」


挿絵(By みてみん)

塗り


仁「で、乾いた(固まった)ら、軽くサンドペーパー(スポンジヤスリ)をかけて毛羽を取る」

礼子「番手はどのくらいですか?」

仁「180番から始めて240番。320番、400番、600番だな」

礼子「手間が掛かりますね」

仁「だから本物の漆器は高価なんだろうな」

礼子「そしてまた漆を塗るんですね」

仁「そう。木地固めよりは薄めなくてもいいけどな」



 漆と溶剤の比率

 木地固めは 2:8

 1度目   3:7

 2度目   5:5

 3度目   8:2

 4度目以降 薄めない



仁「こんな感じ。この辺は人それぞれだし経験もあるし、漆の硬さにもよるから正解は1つじゃない」

礼子「奥が深いですね」

サキ「4度目以降、ってあるけど、何回くらい塗るんだい?」

仁「いい作品だと10回以上だな」

サキ「そんなにかい」

仁「要するに表面がつるつるになって光沢が出るまで、だな」

礼子「今回の茶匙は5回塗ったようですね」

仁「あ、1度塗って乾かしたら、表面を軽くサンディングする必要があるからな」

礼子「みたいですね。でも180番から始める必要はないんでしょう?」

仁「うん。400番か600番でさっと、でいいな」やりすぎると薄い漆の層がなくなるから


挿絵(By みてみん)

仕上げ


仁「で、仕上がったのがこれだ」

礼子「綺麗ですね」

サキ「いい艶だねえ。これでお茶を量るんだね」

仁「玉露なんかいいな」

礼子「用意してまいります」

仁「お茶菓子も用意しよう」

サキ「くふ、来てよかったよ」


*   *   *


仁「というわけで、第2回は『拭き漆』のご紹介でした」

礼子「漆芸は奥が深いようです」

サキ「日本的な家具・調度に合うよねえ」侘び寂びの世界だ

「「「それでは皆様、ごきげんよう」」」




以下、補足


1.『かぶれ対策』

仁「ゴムかビニールの手袋、それに長袖の作業着は必須だな」

サキ「それでも付いてしまったら?」

仁「サラダ油で落とせるそうだ」そのあと石鹸で洗ってな

礼子「作者は筆洗い用のテレピン油で拭いてるようです」かぶれにくい体質だからできるのかも

仁「かぶれたら皮膚科を受診してください」



2.乾燥

仁「乾燥というけど硬化です」

サキ「ウルシオールという樹脂成分がラッカーゼという酵素と反応して……とか言われてるね」

仁「で、湿度が必要なんだ」

礼子「20℃、80パーセントくらいということですね」

仁「漆にもよるけどな」寒いのは駄目、乾燥し過ぎも駄目

礼子「時間はどうなんですか?」

仁「乾燥の早い漆なら6時間から半日。確実を期すなら1日」

礼子「大変ですね」

仁「2液性のウレタンやエポキシ樹脂もそんなものだぞ」



3.『塗り』

仁「拭き漆は塗っては拭き取るから、ゴミや埃が付きにくいので初心者向けなんだよな」

サキ「ああ、そういうことかい」

礼子「そんなにゴミが付くのですか?」

仁「ああ。空気に触れさせると、湿度の影響で固まり始めるから、あまり事前の処理ができないんだ。だから精製漆にもゴミが入っていることがある」

礼子「どうするんですか?」

仁「使う前にす」

礼子「毎回ですか?」

仁「毎回」

サキ「め、面倒だね……」

仁「だから、1回でたくさん塗る本職はいいけど、今回のように小さいものは手間ばかり掛かるだろうな」

サキ「そうだねえ……」



4.拭き

礼子「『拭き』漆というからには拭き取るんですよね?」なんかもったいないです

仁「そんな気がするだろうけどな。漆は、木には密着性がいいから、拭き取っても僅かに残っていて、それが被膜を作るんだな」

サキ「拭き取るものは何を使うんだい?」

仁「なるべく毛羽の出ないものがいいな。和紙でできた専用の拭き取り紙も売られているが、工業用のなんとかワイパーでもいいだろう」

礼子「毛羽が出ると塗膜に付着するんですね」

仁「そういうことだな。だから繊維の長い和紙系がいいらしい」女性用のパンストもいいと何かで見た気がする

礼子「・・・・・・」(自分で買いに行くんですか? と聞きたくてうずうずしている)

サキ「・・・・・・」(へ、へんたいだーと言いたいのを我慢している)

仁「ほんとだからな?」ナイロンという樹脂は吸湿性があるからな



5.取り扱い

仁「……こほん、使った漆はちゃんと密封しておかないと固まって使えなくなるから注意だな」

礼子「その点、チューブなら楽ですね」

仁「甘い。蓋の内側とか、ネジ部分に付いた漆を拭き取っておかないと蓋が取れなくなる」無理に開けようとするとチューブが破れるし

礼子「接着剤と同じですか……」

仁「単価が高いから接着剤より悲惨だぞ」

サキ「おいくらくらい?」

仁「中国産の生漆が、50グラムから100グラムで1000円くらいかな? 日本産はその5倍」

礼子「何が違うんですか?」

仁「成分が微妙に違うらしい。日本産のものはラッカーゼが多めで、かっちりと固まりやすいそうだ」もちろん色とか艶とかもいいって言うな

サキ「保存は常温かい?」

仁「特に生漆は水分が多くて傷みやすいから、夏場は冷蔵庫に入れておいた方が無難かもな」

礼子「作者さんは引き出しの中で猛暑の夏を越したチューブが破裂してましたね」悲惨な事件でした

仁「言ってやるな」

サキ「くふ、素人はできるだけ早く使い切った方がよさそうだね」

仁「そういうことだな」


仁・礼子・サキ「「「それでは今回はこの辺で。ご拝読ありがとうございました」」」

 お読みいただきありがとうございます。


 20200204 修正

(誤)礼子で、『拭き漆』ってなんですか?」

(正)礼子「で、『拭き漆』ってなんですか?」

(誤)礼子「木の質感を行かせるんですね」

(正)礼子「木の質感を生かせるんですね」


※何か疑問点がありましたら、追記していきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 002 拭き漆の茶匙 更新ありがとうございます。 [気になる点] 手間暇かけただけ、いいものができるのですねえ。 [一言] 次回の更新も、楽しみにしております。
[一言] 新木場の材木店 も□も□ですね、私も何か作りたいと思ったときは見に行きます。 この店を愛用するようになると、所謂DIY的な店の品物は低品質だなって感じちゃいますね。 具体的に言うと乾燥の度合…
[一言] 削るシーンが無い きっと「こちらに削った物が用意してあります」って流れだな 更に塗りの段階毎にも用意してあったりするのだろう
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