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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
ライラック王国~ダウスト村編~
95/330

夜空の下の青年

 

 マルコムとシューラの手早い準備のお陰で、無事寝床を確保できた。


 空はもうすっかり暗くなっており、人工的な光のない山の中は、月明かりと、暖を取るために焚いた焚火の光だけだ。


 パチパチと音を立てる焚火に、本来なら珍しさに興味津々になるはずだが、今はそんな気分ではない。


 ミナミとシューラとマルコムの三人で焚火を囲んでいた。

 アロウの持たせてくれた保存食を食べ、今は三人で無言でいた。


「…じゃあ、俺は水を汲んでくるよ。」

 マルコムは立ちあがり、歩き去って行った。


 周りが真っ暗であるため、彼がどの方角に行ったのか分からないが、足音は遠ざかっていた。


「…さっきは邪魔が入ったけど…」

 シューラはマルコムがいなくなったからか、先ほどの話の続きを始めた。


「あ…うん。涙…だよね」


「…さっきよりはもやもやはましだけど、それは明らか時間の経過によるものだと思うんだよね…」

 シューラは焚火を眺めながら言った。


 揺れる炎と同じ色をしたシューラの赤い瞳が、炎と同じように揺れている。


 …やっぱり、綺麗だ…


 ミナミはシューラの瞳を見てしみじみと思った。


「姫様は…その、父親の時とか色々ごっちゃになったんでしょ?…僕はそう言うのがないし、そもそも…それと比べていいのか…」

 シューラは少し恥ずかしそうに俯きながらも上目遣いでミナミを見た。


「そんなことないよ。私だって…まだ、お父様のことは…」

 ミナミは思い出したら少しだけ寂しくなった。


 だが、父親に別れを告げ、オリオンに縋りついて泣いたため…


「…そうだ。私…お兄様に縋りついて泣いた…」

 ミナミはあの時の感触を思い出した。

 はっとして、シューラを見た。


「縋りついて…」


「そういえば…お姉さまが…お母様の時に、人の心臓の音は、落ち着くのに良いって…あと、人の体温もいいって」

 ミナミは自分の胸に手を当てて言った。


 そうだ。

 昔、幼い時に母が亡くなったときに姉のアズミがミナミに教えてくれたのだ。

「…あれ?」

 それを思い出した時、何かミナミの中で突っかかる事があったが、よくわからなかったので深く考えるのを止めた。

 そもそも辛い思い出なので、深く考えないのがいい。


 ミナミは過去の違和感を振り払って目の前のシューラを見た。


「心臓の音…?」


「うん。あと、他人の温もりとかもいいって言っていた。」

 ミナミは何かを思い出すように上を見上げた。


「…その、君のお姉さまって色んなことを教えてるんだね…確か、葬儀の時もお城から…」


「うん。…私の場合、侍女とかもいたけど…オリオンお兄様ほどじゃないけど、早くにお母様を亡くしているんだよね…だから、お姉さまが色々と世話を焼いてくれたの…」

 ミナミは目を細めて懐かしそうに笑った。


「母親…か、そう言えば、ライラック王国は王妃不在だもんね。…今は王もだけ…」

 シューラは癖なのか、一言多く言ってしまうらしい。途中で気付いて慌てて口を止めた。


 彼のその気を遣っている様子が、少し嬉しくてミナミは温かい気持ちになった。


 ライラック王国は王妃不在


 その言葉がストンと落ちた。

 先ほど母親が亡くなったときのことを思い出した時の何かに引っ掛かりそうな言葉だった。


「姫様?」

 シューラはミナミに気を遣うような目を向けている。

 彼自体そういう目を向けるのが慣れていないのだろう、気遣いもあるが不安そうだ。


「う…ううん。なんでもない」

 ミナミはまた違和感を振り払って目の前のシューラを見て彼のことを考えた。


 シューラはマルコムとはこういう話をすることはないようなことを言っていた。


 ミナミはふと彼がミナミと同じように誰に縋りつくことができるのか?と考えた。


 自分の中の庇護欲だろうか?母性がシューラに向けて湧いてきた。

 勿論アロウの死を共に悲しみたいという気持ちがあってのことでもある。


「いいよ。おいで!ただ、私は悲しかった時、泣いて涙を流したのもあったけど、誰かに縋りついて心が落ち着いたのもあったよ。」

 ミナミは自身の胸を叩いて自信満々で言った。


「う…うん」

 シューラはミナミのドンと構えて胸を張っている様子に驚いているようだ。


「ほら!おいで!!」

 ミナミは両手を広げてシューラを招くようにした。

 きっとオリオンがいたら卒倒しそうな事をしている。


 ちなみにミナミは豊かな胸部をしているので、ドンと胸を張ったときにたゆんと胸が揺れた。


「え?」


「ほら!!私の心臓の音聞けばいいよ。あと私は確か体温高いはずだから!!」

 ミナミはシューラに頷いた。


「…う…ん。いいの?」

 シューラはたじろぎながらも、拒否する様子はなく、首を傾げた。

 さすがの彼も年頃の少女の胸に飛び込むのは気が引けるようだ。

 崩れる床から逃げる時に下敷きにするよりもそちらの方が気が引けるらしい。


「いいに決まっているよ!!」

 ミナミはむしろ、自分から立ち上がり、座っているシューラの元に向かった。


 この行動は絶対にオリオンが卒倒する。

 だが、ミナミはシューラを悲しませるという確固たる目的を持っている。

 目的を持った彼女は止まらない。


 シューラは一瞬驚いたように身構えたが、ミナミが止まる気配が無いと察したのか、直ぐに警戒を解いてされるがままになった。


 ミナミはシューラの頭を両手でそっと抱きしめた。


「…どう?」


「…心臓の音が聞こえる。」

 ミナミの胸に抱かれたシューラが淡々とした声で感想を言った。


「そうじゃなくて、心は?」


「…わからないよ」


 シューラは少し拗ねたような口調で言った。

 それが可愛らしくて、ミナミは無意識に自分の胸の中にいるシューラの頭を撫でた。

 さらさらとした白い髪は、キラキラとしているだけでなく、見た目通りさらさらとして柔らかいが真っすぐで綺麗だった。


「…ねえ…」


「ん?」


「このまま…寝てもいい?」

 シューラは少し恥ずかしがるように視線を泳がせながらもミナミを見上げて訊いた。


「え?」


「何というか…君の言った効果が…得られそうだから…」

 シューラは慌てて目を伏せたが、その目にはジワリと涙が浮かんでいた。


「いいよ。」

 ミナミはシューラと作った寝床に、胸に彼を抱いたまま胎児のように寝っ転がった。


「…悲しいって…こんなんなんだね…」

 シューラは涙声だった。


 その声にミナミもつられて涙が出てきた。


「うん…私も、アロウさんが死んで悲しい」


「…僕も…そうなんだと思う。」

 シューラは嗚咽で肩を震わせていた。


 ミナミはシューラの背中をさすった。


 やっと悲しめた。

 アロウの死をやっと泣くことができて、ミナミの心は少し軽くなった。


 …それも、誰かと泣いている…


 ミナミは自分の目から流れた涙を拭いながらも、目の前の年上の癖に世間知らずな自分よりも子供な青年の背中を撫でた。


 夜空の下、焚火の燃える音とともに二人の嗚咽やすすり泣きの声だけが響いていた。


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