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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
ライラック王国~ダウスト村編~
94/354

掘り起こすお姫様

 


 マルコムの言う通り、渡された棒で、指定された地面の土を掘り起こしていた。


 中々骨の折れる作業で、お転婆とはいえ根っからの温室育ちのミナミには未知のものだ。


「軽くほぐすだけでいいよ。…ああ、下の細かい土が見えたら…貸して。」

 ミナミに教えてくれると言っていたシューラは、ミナミの作業を見て途中から代わった。


 シューラは慣れたように土をほじり、少し深いところにある土を両手で掬って近くの平べったい石の上に広げた。


「どうするの?」


「僕は目つぶし用に細かい土を乾燥させたやつを持ち歩いているんだけど、君も必要でしょ?」

 シューラは身に着けているバッグから、ミナミの握りこぶし程度の小袋を取り出した。中には細かい砂が入っているらしい。


「君には、武器を振り回すことはたぶん無理だろうし、その身につけている短剣だって、使いこなすことは出来ないでしょ?」

 シューラは分かりきったことを言うような口調だった。


 確かに彼の言うとおりだ。王子ならまだしも、ミナミは姫として育てられた。

 礼儀作法は習っていても、武器の取り扱いは微妙だ。たまにルーイの使っている剣を触っていたが、それを他人に向けるなどと考えたことは無かった。


 シューラは表面の土を軽くほぐしてから空気を混じらせて、少しずつ掘り起こしていた。

 そして、ミナミが思った以上に作業する範囲が広い。


「ねえ…これって、どのくらいの広さ…やるの?」


「僕たちが寝っ転がれるくらいだよ。固い地面よりもこっちの方がいいでしょ。あと、これとは別にまだ掘るから。」


「ええ?何で…」


「こっちは君に気を遣ってだよ。マルコムは硬い地面でも平気だけど、君は違うでしょ?」

 シューラは両手を広げて首を傾げた。


「べ…別に…我慢する」


「後…君に動く時間を与えるっていう、マルコムの心遣いだと思うよ。」

 シューラは少し言いにくそうに言った。


 ミナミはそこではっとした。

 彼が悲しみを紛らわせるのには動くのがいいと言っていたことを…


「僕よりも、感情の誤魔化し方や処理の仕方っていうのはマルコムの方が知っているからね…君だってわかっているでしょ?なんとなく…」

 シューラはミナミを探る様に見て、手に持っていた棒を渡した。


「…うん」

 ミナミはシューラから渡された棒を受け取り、再び地面を掘り始めた。


「君の言う通り…僕は、人と接していなかった。」

 シューラは悔しそうに顔を歪めた。


「だから、僕はわからないんだ。悲しいとか…人に対しての何かを…」

 シューラは首を傾げていた。


「でも、あなたマルコムさんと仲いいし、アロウさんに対しても…」

 ミナミは言いかけて言葉を止めた。


「マルコムとは何とも言えない間柄だけど、アロウさんは…僕も分からない。ただの依頼人だし…ご飯を奢ってくれる気のいい人…だけど」


「だけど?」


 ミナミの問いにシューラは逆に首を傾げた。そして、胸のあたりに手を当てた。

「なんだか…わからない。頭で考えているのに、胃がもやもやする…ご飯もおいしく食べれそうにないし…


 いつもは…他人の行動が理解できなかったら、僕はわかるはずないものだから仕方ないって思うんだよ…」


「マルコムさんには…どうして話さないの?」

 ミナミは不思議に思ったことを聞いた。


 マルコムとシューラは付き合いが長いのは見てわかるし、仲も悪くないはずだ。

 ミナミから見てもわかるくらいベタベタしている。

 なのに、彼はそんなマルコムではなく彼を避けてミナミに話している。


「僕とマルコムはそういう話をする関係じゃないから…」

 シューラは何故か分からないが、口を尖らせて少し怒った。


 彼等の関係もだが、シューラが不機嫌そうになった理由はミナミにはわからなかった。


 とにかく、今はマルコムのことは置いておいて、シューラの話だろう。


「シューラって…何でそんなに理解に拘るの?」


「え?」


「だって、よく“わからない”とか“理解できない”とか…そんなことを言っているのを聞いていたから…」

 ミナミは、宿にいた時から彼が良く言っていたことを話した。


「だって、わかれば、理解できれば…制御することできるもんだよね…こう思っているからこうすればいい…みたいな…作用反作用だよ。どういう作用でなったかわかれば対処も」


 どうやらシューラは自分の中の感情が何故生まれたのか分からないと言っているようだ。そして、その対処法も分からないし、そもそもその感情も分からないとのことだ。


 生まれた理由は、アロウの死だろう。更に言うなら、シューラを庇ったことで死んだからだ。


「僕だってわかっているよ。アロウさんは…君のために僕を庇って死んだってこと…だって、僕は強いからね…君の用心棒としてはいい人材だよ。」

 シューラは自嘲するように言っていた。


「…シューラ…」


「僕が、もう少しあの副団長のことを見くびっていなければ…違ったのにね…」

 シューラの呟き、それは自分のことに悔やんでいた。

 自嘲だが、ミナミにはわかる。


 自分がもっと知っていれば…自分がもっとどうにかできたはず


 父が殺された時に感じたものと、似ていた。

 ミナミは、どうやってあの時の苦しさを越えたか…

 いや、今もその無力感は引きずっている。だが、それを越えられたのは


「な…泣けばいいよ!!」

 ミナミは力強く拳を握り、シューラに言った。


「え?」


「だ…だから、私は、まだもやもやしているけど、泣いたら楽になった!!確かお姉さまが涙には色んな嫌なものを流す作用があるって…」


「な…泣くと?どうやって泣けばいいんだ?」

 シューラは驚きながらも、拒否しなかった。


「え?」


「いや、だから…どうやって泣く?」

 シューラは心から聞いているようだ。嘘でもからかいでもなく、本当に泣き方を聞いている。


「え…どうだっけ?」

 ミナミは考えた。

 自分はどうやって泣いていたか…


「涙の流し方は…極度の痛み、窒息、性的快感…」

 シューラはブツブツと何かを呟いている。


 ミナミはシューラが物騒なことを言っている気がしているが、知らない言葉が出てきたため、未知のことなのだろうと割り切り、自分の知っている涙の流し方を考えた。


「何か私の知らないことばかりだけど…違うと思う。…あ!!そうだ!!」


「え?」


「目が乾くと、目を潤すために出るって聞いた!!」

 ミナミは本心でいいことを思いついたと思い、その勢いのままシューラの瞼に手を伸ばした。


「おい!!その手土付いているだろ!!」

 シューラは慌ててミナミの手を払った。


「あ…」

 ミナミは慌てて手を服で拭いた。


「君本当にお姫様?」

 シューラは呆れた様子だが、目に触れないように瞼を触って目を開かせた。


「これで…いいの?」


「うん…たぶん」

 ミナミもシューラと同じく、服で土を拭った手で目を開かせた。


「「……」」

 暫く二人は無言で、目を手で見開かせていた。


 風や空気の流れを直に感じ、ミナミはじわじわと涙が出てきた。



「…何やってるの?」

 いつの間に二人の後ろに立っていたマルコムが呆れた様子でいた。


「マルコム!!周りを見ていたんじゃ…」

 シューラは慌てて目から手を外した。


「!!えっと、これは…涙をどう流そうかって…何かそんな話になったんだよねー。」

 ミナミは慌てて取り繕うように言った。ただ、全然取り繕えていない。


「涙?」

 マルコムは眉を片方だけ吊り上げた。

 彼は顔が整っていて、元が穏やかな顔のため、中々の迫力に見える。


「う…うん。」

 ミナミは彼の迫力にたじろぎながらも頷いた。


「へー…君がね…」

 マルコムは横で気まずそうな顔をして居るシューラを見て言った。

 シューラはジト目でミナミを見ていた。


 ミナミは木が付いたら地面に置いていた棒を持って、また土を掘り返し始めた。

 シューラはマルコムから逃げるようにミナミの後ろにやってきた。


 二人の様子を見てマルコムは溜息をついた。


「そんなに涙が流したいなら、いつでも泣かせてあげるよ。」

 マルコムはやや笑顔で言うと、また周りを見に行くのか、歩き去って行った。


 シューラは少し顔が青い。


「…ごめんなさい。なんか、言っちゃいけないようなことだった?」


「…いや。別に気にしなくていいよ…」

 シューラは諦めたようにため息をついた。


 暫く無言でミナミが作業する音が響いた。


「そういえば…私が悲しみを紛らわせるために…動く役割をくれるなんて…マルコムさんて優しいんだね」

「マルコムは優しくないよ。君がうるさいからだと思う。」

 ミナミが、気が回らないなりに気を遣って話題を変えようとしたのに、それを見事にシューラは叩き潰した。



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