山を歩くお姫様
マルコムの指示通り、ミナミたちは岩場が見えてくると、直ぐに船から降りる準備をはじめた。
ただ飛び移るのではなく、最初にマルコムが船から岩場に向かってジャンプして飛び移り、船と陸を繋ぐ綱を渡し、それを頼りに荷物とミナミを安全に陸に渡すというものだ。
まず、マルコムの身体能力が高い。やすやすと岩場に着地して、素早く奥の方に映えている木に縄を固定した。その動きも力強く安定している。
ミナミでもわかるほどだから相当だろう。
下りるときに補助してくれたのはシューラだったのが、何となく救いな気がした。
別にマルコムは気にしていない様子だが、彼がミナミに対してあまりいい感情を持っている気がしないのだ。
岩場にミナミと荷物が全て映ったのを確認すると、マルコムは縄を船から切り離して川に放流した。
彼の言った通り、このままあの船は河口まで行く。そして、もしいたなら待ち伏せしている輩に見つかるはずだ。
荷物はマルコムとシューラが手分けして、ミナミも最低限の物を持って歩き出した。
先頭はマルコム、ミナミとシューラが並んで歩くような形だ。
「しばらく山道が続くけど、道はそこまで柔らかくないし、岩場が多いから足元気を付けて。」
マルコムはミナミに最低限の気遣いを見せた。だが、前を見ており、ミナミの顔は見ていない。
三人、特に話すこともなく暫く山道を歩いた。
ミナミもだが、シューラもアロウの死がショックで積極的に会話をする気が起きないのだろう。普段の彼をミナミは知らないが、表情が未だに暗いことからそれはわかる。
…そういえば、さっきの会話、マルコムさんが来て途中で止まったけど…
ミナミはシューラとの会話が途中で止まったことを思い出した。
彼が何をミナミに言おうとしてくれたのか、分からないが…
ミナミは隣を歩くシューラの横顔を盗み見た。
正直、女性であるミナミにとっては羨ましいほどシューラは色が白い。
瞳も宝石みたいで真っ赤でとても綺麗だ。
彼のような髪と目の色をした人間は、ミナミは見たことが無かった。
「…何?」
ミナミの視線に気づいたシューラが、ミナミの方に視線を向けずに聞いた。
見なくても気付くとは流石だと思ったが、前を歩くマルコムが後ろのミナミを見て呆れたような目を向けている。
とても分かりやすく見ていたらしい。
「…いや…、なんでもない…です。」
「別に姫様に敬語使われたくないからいいよ。」
シューラはかしこまるミナミを、今度は見て呆れたようにため息をついた。
「えっと、わかった。」
「で…何?」
「え?」
「僕をじっと見ていたの…気になっていたんだけど…」
シューラはややジト目でミナミを見ていた。
真っ赤な瞳がゆらゆらしている。
「え…えっと、さっきの話が…」
ミナミは誤魔化そうと思って、とっさにマルコムの登場で止まってしまった話を出した。
実際に考えていたからまあ、間違いではないが…
ミナミが世間知らずであれど、あまり見たことのない特徴を持ったシューラの外見を気にしていましたなどと、言うのは無神経だとわかっている。
「…さっきの…」
シューラは気まずそうにマルコムを見た。
だが、マルコムは前を見て歩いていた。
いつの間に前を見ていたのか…いや、当然のことだが、先ほどミナミの方を見ていたため、ミナミはまだ見ていると思っていた。
「…」
ミナミは、少し自分が自意識過剰な気がして恥ずかしくなった。
「…この辺で、今日は休むよ。」
マルコムが、ふと足を止めて言った。
「え?」
ミナミはそれに驚いた。
いや、野宿は覚悟していたが、ミナミは動けるほどの体力もあるし、まだだいぶ明るい。
逃げている身であるため、急いで行動するのが普通だと思っているのもある。
「帝国の頭は動けないし…川を挟んでいる。」
マルコムは周りを見渡し、休める場所を探している。
シューラも不審に思う様子はなく、彼の動きに倣い周りを見ている。
「姫様…土遊び好き?」
「え?」
マルコムの急な問いにミナミは頭が回らず、ただ間抜けな声を上げた。
「だから、好き?」
「え…っと…昔は好きだ…」
「じゃあ、これであの辺掘り起こして。」
マルコムは、ちょっとした大きな岩のあるふもとを指した。
「え…きゃあ!!」
何を言われているのか掴めないミナミは少し考え込んだが、マルコムはミナミに持っていた武器の中の何やらただの棒を渡した。
「これは…?」
「そうだ。手になじめば、短剣よりも君にはいいかもね。」
マルコムは特に武器の説明をすることなく言った。
「僕が説明するよ。どうせ、これからもやるんだし…」
シューラが、説明も何もかも放り投げたマルコムをフォローするように言った。
だが、横目でミナミに何か言いたげにしていた。




