お姫様と青年
死神と呼ばれる者たちが率いる騎士団と、強大な軍事力を持つ帝国が覇権を広げ続ける世界で、軍事力の無い小さな国のライラック王国は、帝国に着くか、それ以外に着くかと選択を迫られ不安定な状況だった。
ただ、ライラック王国の王族は珍しい魔力を持っている一族で、世界的に貴重な存在であるため、その優位性に国民や国の貴族たちは胡坐をかいていた。
だが、国王であるタレスは現状に不安を感じていたのか帝国と手を結ぶ道を選ぼうとする。
国内の反発もあったせいか、彼は息子の第二王子ホクトに殺害されてしまう。
しかし、その現場を末娘のミナミ姫は目撃してしまう。
彼女が逃げたことと、帝国に罪を着せようとしたこと、おざなりな計画もあってホクト達の計画は頓挫し、ライラック王国は帝国に優位に立たれる。
帝国の出現によって表面化するライラック王国の歪み。王族の力の価値。
国王が何を思って帝国と手を結んだのか、王族の持つ力とは本当は何なのか。
ミナミ姫は何も知らないまま逃げることになる。
自分の持つ力がどんなものであるかさえ
そして、帝国は信用できないと判断したミナミの兄で第一王子のオリオンは、独自でミナミを帝国の手から逃がそうと画策する。
父の友人と彼の雇った用心棒二人の協力もあり、ミナミは王都から逃げることに成功する。
だが、逃げる際に父の友人が用心棒の一人を庇い死んでしまう。
彼は用心棒に、ミナミの道連兼用心棒の役割を、自分の命を報酬に依頼する。
それにより、ミナミは父の友人の用心棒であった二人と共に逃亡生活を送ることになる。
ただの用心棒と少女の旅のように思える。
しかし、ミナミは一国の姫である。
そして、用心棒の二人は…帝国に追われている罪人の「マルコム・トリ・デ・ブロック」と「シューラ・エカ」であった。
ミナミは早速、用心棒であり罪人であるマルコムと気まずい状況になってしまった。
別に気まずく感じているのはミナミだけであるかもしれないが、そう思ってしまったものは中々消えない。
船の中に入るのが息苦しくなったミナミは、外に出て周りを見渡していた。
今、自分がどこにいるのか分からないが、見たことのない風景ではある。
過ぎ去る風景は、岩ばかりで茶色や灰色と味気ないものばかりだった。
ただ、切り立った崖に挟まれた渓谷のような場所なのか、岩場の上に見える木々の緑がやけに鮮やかで、更に空の青さも美しかった。
乗っている船もそこまで大きくない。
今は流されるがまま動いているが、自分達で漕ぐための櫂もある。
船にある部屋は先ほどミナミとマルコムがいたところだけのようだ。
そのくせ窓が無いのだから、
不便だなと思ったが、外から見ると窓がある。
「…?」
ミナミは首を傾げて窓を覗いた。
部屋は、人ひとり入れればいい程度の広さだ。
先ほどいた部屋とは違う…
「君がいたのは、隠し部屋だよ。」
「!?」
ミナミは背後からかかった声に驚き、飛び上がった。
「あなた…」
「…僕はシューラ…だよ。」
そこにいたのは、元から白い顔を更に真っ白にさせたシューラだった。
赤い目の下の隈が彼の顔色の悪さを際立たせている。
彼もおそらくアロウの死に対して衝撃を受けているのだろうと、ミナミは推測した。
本来ならマルコムのような慣れに近い表情を見せ、割り切ってミナミの逃亡に動くことが、彼らのようなものにとっては普通なのだろう。
だが、目の前の青年は違った。
「…あなたは、マルコムさんと違って…その…アロウさんの死を…」
別にマルコムが悲しんでいないと断言できるわけではない。だが、ミナミにとってその感情が行動の中で見られないことは、悲しんでいないと思えるものなのだ。
「…わからない…」
シューラは子供が駄々をこねる時のように顔を幼く歪めた。
「わからないって…だって、あなたショックを…」
「…僕、…他人に庇われたこと…」
シューラは言いかけて、また顔を歪めた。
シューラは自分が他人に庇われたことがない…だから分からないと言いたいらしい。
だが、普通に考えて、普通に生活していて他人に命を懸けて庇ってもらう場面がある人間のほうが圧倒的に少数だ。
ミナミは、王城育ちながらもそう思った。
「…普通に他人に庇われたことがある人間の方が…」
「君の国の兵士と一緒にしないでよ。僕がいたのは、年中争いばかりの集団だよ。」
シューラは呆れたような顔でミナミを見ていた。
シューラの様子や、彼の言っていることから、「他人に庇われたことが分からない」というだけではないというのがわかった。
ただ…
「…何が、わからないの…?」
ミナミの問いかけにシューラは首を傾げた。
眉間に皺を寄せて、何やら考え込んでいる。
「…これから、長い付き合いになるんだし…行動に支障のありそうなことは…話した方がいいんじゃない?」
ミナミはそれっぽいことを言った。
別にシューラの口を割りたかったわけではない。
彼がアロウの死を悲しんでいる様子と感じたからだ。
ミナミは誰かと一緒に悲しみたかったのだ。
マルコムは絶対にそんなことをさせてくれないというのはわかった。
だが、目の前の青年は、違う。
「…僕も…分からない…ことだよ…」
シューラは消えそうな声で言った。
彼の赤い瞳は、何かに混乱しているのかゆらゆらと揺れていた。
マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):
主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。
追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。
シューラ(シューラ・エカ):
主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。
追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。
ミナミ:
ヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。
フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):
実質帝国のトップに立っているフロレンス家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の赤い死神と呼ばれる。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。
オリオン:
ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをルーイに命ずる。四兄妹で一人だけ母親が違うが、早くに母親を亡くしているため誰よりも家族思い。
ルーイ:
ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。
エミール:
帝国騎士団副団長。リランの付き人。穏やかそうな外見をして居る。リランよりもかなり年上だが、あまり年齢を感じない。帝国騎士団団長のフロレンス公爵に心酔しており、帝国勢力拡大にはリラン以上に積極的で攻撃的。
ホクト:
ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。
アズミ(アズミ・リラ・ハーティス):
ミナミの姉でオリオンとホクトの妹。隣国のロートス王国の公爵家に嫁いでいる。面倒見がよくて明るい女性。
国王 (タレス):
ミナミとオリオンの父。ライラック王国国王。息子のホクトに殺害される。穏やかで平和を愛する王と有名だった。
アロウ:
ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。ミナミの逃亡に手を貸し、その際シューラを庇い死亡する。




