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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
二人の罪人~ライラック王国編~
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王子様と死神

 

 ミナミたちの追跡に動く騎士にリランもエミールも加わっていなかった。

 理由は簡単だ。二人とも負傷して簡単に動けないのだ。


 エミールは出血が多かったのか、直ぐに顔を青白くさせたため、治療に連れて行かれたがリランは士気のためか残っていた。


 ここまで来たら彼も意地なのだろう。

 オリオンはきっと体が痛んでいるはずのリランがすました顔をしているのを見て内心同情した。


 だが、彼が追っていないことや帝国騎士からの報告も何も無いことからオリオンは確信した。

 ミナミたちは船に乗ったのだ…と。


 この辺の川辺は、船があれば追えるであろうが、無ければ陸からの追跡ができない程度の入り組んだ地形だ。

 マルコムは土の魔力、シューラは水の魔力を持っている。

 渓谷での逃亡は二人とっても有利だ。


「ミナミは…安全だということか。」

 オリオンは安心したように笑った。


 その顔を見てリランは眉をピクリとさせ、オリオンの元に駆け寄った。


 オリオンの命令でアロウの傍に付いてさらに、彼の死に衝撃を受けているルーイは咄嗟に守りに動くこともできなかった。

 はっとした時は、すでにオリオンはリランに胸倉を掴まれていた。


「お前!!」

 ルーイが慌てて剣を抜こうとしたが、リランの傍に残っている帝国騎士たちも同じように剣を抜こうとした。


 一人でも難しいのに、複数の帝国騎士にルーイが勝てるはずもない。


「安心しろ兵士君。俺はこの王子様を殺す気は無い。」

 リランはオリオンの胸倉を掴む手を震わせ、口を歪めながら言った。


「ルーイ。大丈夫だ。それよりもアロウさんを頼む。」

 胸倉を掴まれたオリオンは、動じることもなくルーイに命令をした。


 そう言われてしまうと、ルーイもオリオンの言うことを聞くしかなく、横たわるアロウの傍につくしかない。


「偉く余裕だな…わかっているのか?」

 リランは片頬を吊り上げて、笑っていた。

 ただ不敵な笑みではない。いつもの余裕そうな半月の目は険しく細められ、笑みを描いているのは歪んだ口元だけだった。


「お前を怒らせたのはわかっている。」

 オリオンは諦めたように言い、笑った。


 リランは歯を食いしばり、オリオンを持ち上げた。

 オリオンは胸倉を掴まれ更に持ち上げられたことにより、服で首が若干絞まって息苦しさに顔を歪めた。


「お前…誰に助けを求めたのかわかっているのか?よりによってマルコムとは…あいつは帝国騎士団にとってどんな存在か…わかっているのか!?」

 リランはオリオンの鼻に自分の鼻がくっつくのではないのかというほど顔を近づけて怒鳴った。


「知っている。」

 オリオンは淡々と答えた。


 その様子をリランは気に食わないのか、眉間に深い皺を刻んだ。


「ミナミを守るため…一番の人選だ。」


「守る?…あいつはただの腕の立つ罪人じゃない。帝国騎士団にとったら目の敵に…」

 リランは言いかけて、オリオンを改めて見た。


「嫌でも…お前らが追う…」

 オリオンは不敵に笑った。


 リランはその顔を見て、呆れたような顔をした。


 リランは気が抜けたようにドサ…と、オリオンを地面に降ろした。

 オリオンは急に自由になった襟もとのせいで咳き込んだ。


「帝国騎士団…も妹を守るために利用する…か。」

 リランは呆れたように笑った。

 だが、笑うときに片腹を抑えるのを見ると、どうやら落馬でのダメージは大きいらしいとわかった。


「ミナミを追うのは、この国の人間にもいる。他国にも。それに危ない奴も多い。」

 オリオンは呼吸が整うと、リランを見上げた。


 挑むような目で、真っすぐリランを見た。


「だって…お前らが追う理由があるなら、他の奴は下手に手を出せないだろ?」

 オリオンは不敵に笑うように片頬を吊り上げた。


「その判断が、国に不利益を生むかもしれない。」


「知るか…俺はまだただの王子だ。」

 オリオンは開き直ったように言うと、ふんぞり返るように胸を張った。


 そのオリオンの様子を見て、リランはこめかみに手を当てて溜息をついた。

「いい根性をしているな…だが、俺達帝国騎士団に逆らうような真似をしたのはどうする?とりあえず友好な関係だろ?」

 リランは地面に座っているオリオンに視線を合わせるように、同じように座った。


「俺は…か弱い世間知らずな王子だ。」


「はは…今更…」

 オリオンの言葉にリランは呆れたように笑った。


「友好な関係とはいえ、異国の人間が沢山いるのは不安だ。家族が恋しくなった。だから、ミナミの噂を聞きつけ会いに行った。」


「それは、姫様の元に行った言い訳だ。」


「その時に、味方だったはずの貴族の男が襲って来た。それが怖くて、誰も信じられなくなった。同じ国の者を信用できないのに、帝国のお前たちを信用できるか?」

 オリオンはわざと怖がるように肩を震わせる仕草をした。


 別にオリオンは襲われていない。だが、連れてきた兵士たちが取り押さえられていたのは事実だ。


「ああ、宿の前にいた男達か…」

 リランは納得したように頷いた。彼の様子からおそらく宿の前にいた者たちは帝国騎士団に取り押さえられているのだろう。



「もしかしたら全員で結託して俺を殺すつもりではないかと…父が殺された後だから疑心暗鬼になっていた。それに、殺されなかったとしても、俺はとても価値の高い存在だ。」

 オリオンはニヤリと笑って、わざとらしく顎を上げて挑発するような仕草をした。


「だから、俺達に逆らうような真似をした…だが、そのせいで姫様は逃げた…」


「違う。」

 オリオンは断言した。


 リランはオリオンの声色と彼の表情に興味深そうに目を細めて笑った。


「味方だったはずのライラック王国の貴族の男のせいでミナミはよりによって罪人に捕まり、人質になった。奴らの邪魔が無ければ…俺は正常な判断ができ、帝国騎士が味方だと分かってミナミはここにいただろうな…」

 オリオンは先ほどリランに、マルコムにミナミを任せたようなことを言っておきながら、全く違うことを言った。


 それにはアロウの傍にいたルーイも、周りにいた帝国騎士たちも反応した。


 リランだけは変わらず、続きを促すように楽しそうな笑顔でオリオンを見ている。


「王位継承権があったとしても、権力があったとしても、複数の武器を持った兵士たちに敵うはずはない。武力で敵わないなら、逃げるしかないだろ?」


「つまり、あの宿の前にいた男達はお前の命を狙ったにもかかわらず…お前の邪魔までしたのだな。」

 リランは向かいに座るオリオンに確認するように訊いた。

 勿論、二人が言っていることや話している内容はでたらめだ。


「ああ。味方の裏切りと命を狙われたことに、俺は腹心のルーイ以外信じられなくなっている。」

 オリオンの腹心という言葉にルーイは少し嬉しそうな顔をした。


「我々への信用は無いのか?」

 リランは困ったように眉尻を下げた。だが、口元は笑っていた。


「ある。…なぜなら、帝国騎士団とリラン殿は…これからライラック王国のために尽力し、俺を襲った裏切り者の断罪に証拠を集めてくれたのだからな。」

 オリオンは馴れ馴れしくリランの肩を叩いた。


 その様子に周りの帝国騎士たちは剣に手をかけた。

 だが、直ぐにリランが片手を挙げて制した。


「言っていたよな…仲良くしよう…とな」

 オリオンは笑顔で言うと、そのままリランの肩を力一杯掴んだ。


 きっと普通なら痛みに顔を歪めるであろう強さなのだが、リランは痛みを表情に表さなかった。


「は…ははははははは!!」

 だが、耐え切れないように肩を震わせて笑い始めた。


「自分の保身にも、裏切り者の排除にも…帝国騎士団を利用するか…いい根性だ。」

 リランは愉快そうにオリオンを見ていた。


「利用…ではない。協力してくれるんだろ?」


 リランは自分の肩に乗っかっているオリオンの手を外し、ゆっくりと立ち上がった。


「ああ。お前の要望通り、お前や国を守り、裏切り者を炙り出し、姫様を連れている罪人を捕まえてやる…」

 リランはオリオンに優しく微笑んだ。


「協力してくれてありがたいな…リラン。」

 オリオンは頼もしそうにリランを見上げた。


「もちろんだ…オリオン。」

 リランはオリオンに応えるように力強く頷いた。


 二人の声はまるで気心の知れた友人同士のように、気安い声だった。




マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。

追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。


シューラ(シューラ・エカ):

主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。

追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。


ミナミ:

ヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。



フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):

実質帝国のトップに立っているフロレンス家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の赤い死神と呼ばれる。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。


オリオン:

ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをルーイに命ずる。四兄妹で一人だけ母親が違うが、早くに母親を亡くしているため誰よりも家族思い。


ルーイ:

ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。


エミール:

帝国騎士団副団長。リランの付き人。茶髪で穏やかそうな外見をして居る。リランよりもかなり年上だが、あまり年齢を感じない。帝国騎士団団長のフロレンス公爵に心酔しており、帝国勢力拡大にはリラン以上に積極的で攻撃的。


ホクト:

ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。


アズミ(アズミ・リラ・ハーティス):

ミナミの姉でオリオンとホクトの妹。隣国のロートス王国の公爵家に嫁いでいる。面倒見がよくて明るい女性。



国王 (タレス):

ミナミとオリオンの父。ライラック王国国王。息子のホクトに殺害される。穏やかで平和を愛する王と有名だった。


アロウ:

ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。ミナミの逃亡に手を貸し、その際シューラを庇い死亡する。



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