見えない青年
「どこに姫がいる?」
一人の帝国騎士が拘束されたアロウに威圧的に訊いた。
アロウは何も答えず、ただ俯いていた。
「この辺に合流する予定だったのはわかっているんだ。」
「…」
騎士の質問にアロウは黙ったままだ。
その様子を物陰から見るミナミは、どうにかして彼を救出できないかと考えていた。
勿論ミナミにそんな力はない。
「…ルーイ…お前、帝国騎士を倒せるか?」
オリオンは自分の護身用の剣を見てからルーイに訊いた。
「…いい勝負はできると思います…」
ルーイは自信なさげに答えた。
アロウの周りには帝国騎士が5人いる。
不意打ちであっても、少なくとも単体で上回る実力が必要だ。
「…面倒なこと考えない方がいいよ。」
シューラはオリオンとルーイの様子を見て溜息付いていた。
「面倒だ…!?」
ルーイがシューラに突っかかろうとしたとき、シューラは飛び出していた。
「!?」
ミナミとオリオンも思わず息を呑んだ。
だが、騒いで見つかるわけにはいかない。
大人しく物陰で動かずにいた。
ほぼほぼ聞こえない足音でシューラはアロウと彼の周りの5人の帝国騎士に忍び寄った。
「!?お前…」
シューラに気付いた帝国騎士が剣に手をかけた。
ドゴ…と、シューラが刀の柄で一人の騎士の顎を殴った。
そして、刃の面ではなく峰で一人のみぞおちを横に殴り、右足で一人の足払いをして転んだところを踏みつけた。
残りの騎士たちはまた柄、峰で殴りあっという間に5人の騎士を沈めた。
根本的に動きの速さが違った。
シューラは手早くアロウの拘束を解いて、近くの小屋と止まっている馬車の様子を見に行った。
その間にアロウが倒れた騎士たちを動けないように拘束していた。
アロウの素早い切り換えもだが、シューラがあっけなく帝国騎士を5人倒したのは驚くことだった。
「…すごい…」
ミナミは思わず呟いた。
ルーイは複雑そうな顔をして居る。オリオンは逆に少しばかり安心した顔をして居る。
小屋と馬車の中に特に脅威が無かったらしく、シューラがミナミたちの方を見て手招きをした。
合流地点ではないが、ミナミたちはとりあえず身を隠せる小屋に入ることにした。
ミナミ、オリオン、ルーイ、シューラ、アロウと…マルコム以外の面々が揃っていた。
「…申し訳ございません…」
アロウがミナミとオリオンに頭を下げた。
「そんな…それよりも何があったんですか?」
オリオンはアロウが捕まっていた状況が気になるようだ。
アロウは溜息をついた。
「…モニエルと宿の近くで会って、別れました。彼は副団長に追われたのですが…おそらく逃げ切ったと思います。」
「当然だよ。彼が副団長ごときに捕まるはずないよ。」
シューラはアロウの言葉に当然のように頷いた。
ルーイが少しシューラを睨んだ。
「逃げ切ったと分かった理由は…副団長がこの近くにいるからです。」
アロウは警戒するように周りに視線を漂わせていた。
「え…エミールが?」
オリオンは考え込むように俯いた。
「はい。恥ずかしながら、私は逃げている最中に捕まってしまって…それからあの馬車に放り込まれました。」
アロウが放り込まれたのは、ルーイがオリオンに乗り込まないかと問いかけた馬車だった。つまり、あの馬車は帝国騎士団の手が入っていたのだ。
そして、アロウはそれに乗せられここまで来た。
「…私を捕まえたのは若い青年で、副団長はとっととその辺の農地を捜索に出ていきました。」
なので、まだ安心はできません…とアロウは言った。
「アロウさんを捕まえた青年って言うのは…どんな特徴だった?」
オリオンは眉を顰めてシューラに何かを求めるようにして見ながらアロウに訊いた。
シューラもオリオンが何を知りたいのか分かったのか、アロウを見た。
「やたら身軽な若い奴でしたよ…オリオン王子と同い年くらいで…赤毛の…」
アロウの言葉で、オリオンがシューラに確認したかったことがわかった。
要は、この付近の農地にリランがいるかどうかの話だ。
「そいつが赤い死神のリランだ。」
オリオンは弱ったように表情を曇らせていた。
「…彼が…本当に若かったです。」
アロウは少し感心していた。
「フロレンスさんが…この近くに?」
ミナミはリランがいることに不謹慎ながら少し心が弾んだ。
だが、すぐにそれ以上に沈んだ。
何故なら、完全な敵対関係という構図が出来上がるからだ。
「…どうする?シューラ…」
オリオンは一番表情が険しくないシューラに何か策はないかと尋ねた。
「え?」
オリオンの言葉にアロウが反応した。
「え?」
オリオンがアロウ反応に首を傾げた。
「いや…だって、いつ彼の正体を…」
アロウはシューラを指さして呆然としていた。
アロウは、シューラの正体が隠されたままだと思っていたのだ。そもそもシューラが正体を追及された場面にいなかった。
「今はいいよ。それよりも…合流地点どうこうよりも…とっとと逃げた方がいいよ。」
シューラは先ほど確認した、アロウと帝国騎士たちが乗っていた馬車が使えないかと提案した。
「マルコム…の方は?」
ルーイは遠慮気味にシューラに訊いた。彼なりにマルコムを置いて行くようなことに不安があるようだ。
「彼ならだい…」
シューラが言いかけた時、アロウが彼の口を押えた。
「…捜索の足音が聞こえます…」
アロウは人差し指を立てて静かにするように言った。
彼は慎重に小屋の中から外の様子を覗いた。
「…副団長です…」
アロウは声を潜めて知らせた。
外には捜索をして居るエミールと数人の騎士が見えた。
明日の夜まで更新が止まります。




