身軽な青年 2
接したことは無いが、その外見は穏やかなのだろうな…と勝手に人格を想像できる。
帝国騎士団副団長のエミールを見てミナミが抱いた第一印象だった。
だだ、その第一印象はかなり早い段階で崩されたが
「僕って…帝国からすると恩人だと思うけどな…」
イシュはエミールを見て不敵に笑った。
「マルコムと手を組んだことがか?」
エミールはイシュを睨んでいる。
「…君って頭固そう」
「お前のような奴が、どうして王国の姫を連れ…」
エミールはひたすらイシュを睨んでいた目線を、ミナミに移した。
目力がすごい。
あの城で見た夜の海のような冷たさだけでなく、凶暴性を見せている。
その睨みの眼力がすさまじく、ミナミは委縮した。
だが、直ぐにその目力は消えた。
「…ミヤビ…?」
エミールは睨むのではなく、驚いていた。
「え?」
エミールの視線に含まれるものが驚きに変わっていた。
そして、その目には徐々に哀しみが見え始めた。
ミヤビ…
モニエルも言った名前だ。
たしか…そんな反応を示した人間はモニエル以外にもいた。
「走れ!!」
イシュが叫んだ。
エミールの様子を見て呆然とするミナミの腕をルーイが強く握った。
イシュの声よりもルーイが手を握ったことによってミナミは我に返った。
ルーイはミナミが我に返るのを待たずに走り出していた。
体勢が崩れそうになりながらも、ミナミはルーイの腕にしがみ付こうと必死に彼の手を握った。
剣と刀がぶつかる音が響いている。
イシュとエミールがやり合っているらしい。
だが、イシュが素早くエミールを追い込んで、剣を弾かれそうになったエミールは胴体に隙を作ってしまった。
イシュは刀を持った手を引いて、不安定で軋む床を強く蹴った。
「ぐあ!!」
イシュの強力な蹴りがバランスを崩したエミールの腹に入った。
抵抗するも、エミールはあっけなく三階の高さから地面に落ちそうになった。
「早く飛び込め!!」
口調を荒げてイシュはルーイとミナミに叫んだ。
彼の指示に従うように二人は建物に飛び込んだ。
建物の中は無人だった。
どうやらエミール含めて5人しかいなかったようだ。
ミナミたちが建物に入ったのを確認すると、イシュは動き出した。
「クソ…」
地面に落ちそうになったエミールは、廊下の床板にしがみ付いている。
どうやら腕力でのし上がろうとしているらしい。
「兵士君そっち気にしておいて…」
イシュはルーイに叫ぶと、持っていた刀を振り上げた。
ミナミは、振り上げた刀と動けないエミールを見て何が起きるのか想像した。
それはとても不穏なもので、ミナミの血が凍るようなものだった。
光を反射させる金属が、人に向かう瞬間…
それは、ミナミにとって一つの映像を思い浮かべさせるものだった
「いやあああ!!」
ミナミは思わず悲鳴を上げた。
そして久しぶりに魔力を光らせてしまった。
ザシュン…と、何かが斬られた音が聞こえた。
直視できずにミナミは俯いていた。
メキメキ…と、何かが軋む音が辺りに聞こえ始めた。
ミナミが顔を上げると、イシュが丁度飛び込んできたところだった。
「え?」
「邪魔。」
「キャアッ!!」
ドサッ…と、イシュはミナミに飛びつく形で建物の入り口に飛び込んできた。
「…い…た…」
ミナミは受け身が取れるわけでもなく、床に倒れ込んだ。
反対にイシュは、なんて奴だと思うほどミナミをクッションにしてケロリとしている。
「なんで…」
ミナミがイシュを飛び込んだことと、刀を振り下ろしたことで咎めようと目を向けた時
メキメキ…と、何かが軋み、壊れる音が徐々に大きくなってきた。
「…く…くそおおお!!」
エミールのしがみ付いていた床板部分が、音を立てて壊れ落ち始めている。
イシュは崩れる床から離れるために飛び込んできたのだ。
彼は、エミールがしがみ付く部分を壊すために廊下の床板を傷つけただけで、エミールには刀を振り下ろしていないようだ。
「向こうに彼がいるよ。」
イシュはエミールを挑発するような口調で叫んだ。
それが何を言っているのかわからなかったが、切り抜けたことは確かなようだ。
ミナミの前で建物内を警戒しているルーイはイシュに向けて何とも言えない視線を向けている。
「…行くよ。」
イシュはルーイの視線を気にした様子もなく、先を急ぐよう促した。
ルーイはミナミを庇うようにイシュとミナミの間に入り、モニエルに向けている視線よりもずっと警戒したものをイシュに向けていた。
マルコム:
主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。
追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。
シューラ:
主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。
追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。
ミナミ:
たぶんヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。
フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):
実質帝国のトップに立っているフロレンス家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の赤い死神と呼ばれる。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。
オリオン:
ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをルーイに命ずる。四兄妹で一人だけ母親が違うが、早くに母親を亡くしているため誰よりも家族思い。
ルーイ:
ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。
アロウ:
ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。
エミール:
帝国騎士団副団長。リランの付き人。茶髪で穏やかそうな外見をして居る。リランよりもかなり年上だが、あまり年齢を感じない。
ホクト:
ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。
アズミ(アズミ・リラ・ハーティス):
ミナミの姉でオリオンとホクトの妹。隣国のロートス王国の公爵家に嫁いでいる。面倒見がよくて明るい女性。




