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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
二人の罪人~ライラック王国編~
73/353

身軽な青年

 


 裏の宿の抜け道は、地下というわけではなく、三階の部屋の物置だ。


 そこから隣接している建物に飛び移ることができ、数件の建物に造られた隠し廊下を駆け抜ける。


 4件ほど駆け抜けたところで、外にむき出しの廊下に飛び降りることができる。


 飛び降りるところの床を見て、ミナミは少し足がすくんだ。


「大丈夫だ。」

 ルーイが安心させるようにミナミの手を握った。


「もう少ししたら、打ち合わせた通りの場所に出るよ。」

 イシュはミナミの様子を見て、意外だが気を遣ったように言った。


 オリオンからの連絡を待っていたが、もちろん逃亡の計画は立てている。


 合流地点を決め、そこには逃げるために必要なものが揃っている。


 何かあっても、アロウもモニエルもそこに合流する約束になっている。


 アロウはわかるが、モニエルとイシュは、元々この町から出たいと言っていたため、用心棒としての賃金を多少安くする代わりに同行することになった。


「そうだよね…アロウさんもそこに…」

 ミナミはルーイの手を握り返して言った。


 イシュは周りを見渡してから外の廊下に飛び降りた。


 それに続いてルーイ、ミナミと飛び降りてまた歩き出した。


 久しぶりに見る外の風景は、少しだけミナミの知っているものだった。


 どうやら港側の裏路地に面しているようだ。

 外に剥きだした廊下は、バランスを崩すと地面に落ちそうで、ミナミは少しだけ怖かった。


 ギシギシと湿気と経年で傷んだ床板の音がする。

 ミナミとルーイが飛び降りても大丈夫ではあったが、ここに巨体の人間が飛び降りるのは遠慮していただきたいという造りだ。


 イシュを先頭にルーイ、ミナミと走る。


 イシュはどんな訓練をうけたらそんなに足音を立てずに早く走れるのか気になるほど足音がしなかった。

 見た目からして体重が軽いのはわかるが、ルーイもそれなりに音を出して走っている。


 暫く走っても、まだ外の廊下が終わらない。


 今ミナミたちが走っているのは、三階の高さに該当する。落ちたら相当痛い。

 いい加減、足元が不安定で地面に落ちそうなところから抜け出したいところだ。


「合図したら…一気に走って…」

 イシュが腰に差した刀に手をかけてミナミとルーイに言った。


「え?」


「合図したら…意地でもあの建物に飛び込んでよ。」

 イシュは外側廊下の終わりを告げる、建物への入り口を指した。


 ルーイはイシュの言葉の意味が分かったのか、ミナミを抱えて止まった。

 ミナミも急にルーイに抱きしめられ立ち止まった。


「…外にいたのは…王国の兵士だけだと思ったけど…」

 イシュは建物の入り口を見て舌打ちをしながら言った。


「…僕の後ろについて、合図したら走って…」

 イシュは刀を構えて少しずつ走り始めた。

 ただ、全力疾走ではなく、小走りで様子を見るように…


 今いる場所から中は見えないが、なにやら黒い影が蠢いている。


 キラっと、影の中で何かが光った。


 ガキン…と、金属同士がぶつかる音が聞こえた。


 あまりにも速すぎで、音がするまでミナミは何があったのかわからなかった。

 いや、音があってもまだ状況が掴めていない。


 前に立つイシュの刀に、剣を構えた数人の男が向かって来ている。


 服装から、ライラック王国ではない…


「…帝国…騎士団…」

 ルーイが顔を真っ青にして呟いた。


 今世界最強の軍団と悪名と共に名高い、最恐最悪の者達だ。


「白髪野郎だと!?」


「姫も一緒だ!!」


 騎士たちが何やら叫んでいる。ミナミの存在を察知されたようだ。


「…お前がなんで…」

 イシュに対峙している騎士達は、彼を見て何か驚いているようだ。


 だが、驚いて止まることなく騎士たちは剣を交互に振っていく。

 目の前のイシュは刀でその攻撃をいなす。


 4人対1人だが、負ける気配もない。

 騎士1人が魔力を纏った剣を振った。だが、イシュは何事もなかったかのように魔力ごといなした。

 彼は本当に戦いに慣れていた。


 金属のぶつかる音は響くが、イシュが押される気配は無い。

 彼は相当腕が立つのはわかっていたが、比較対象も無くそれを振るうことも無かったのだから想像は出来なかった。


 ガッと、怯んだ騎士を順番に地面に突き落とす。


 3人まで突き落とし、残り1人になった時、イシュの顔色が変わった。

 今対峙している騎士を見てではない。

 騎士たちが出てきた建物の方を見てだ。

 何かを見つけたらしい。


「…っち…」

 イシュは急ぐように4人目を突き落とした。


 イシュが何で顔色を変えたのかわからなかったが、それは次に建物から出てきた人物を見てミナミはわかった。


「シューラ・エカ!!」

 大声で叫びながら、一人の騎士が建物から全力で走ってくる。


 イシュの刀の構え方が変わった。


「…攻撃がぶつかったら走って…」

 イシュは少しだけ余裕のない声でルーイとミナミに言った。


「え?」


 という疑問の言葉も、イシュと全力で走ってきた騎士の武器がぶつかる音でかき消された。


「早く!!」

 イシュは体勢をわずかにずらしながらミナミとルーイが走れる場所を作っている。


「させるか!!」

 イシュと武器をぶつけた騎士は、剣での力比べを止め、直ぐに足を組み替えてイシュとの距離を取った。


 要は、ミナミとルーイの進行方向は塞がれたままなのだ。


 明かに先ほどまでの騎士とは雰囲気も戦い方も違う。

 ミナミから見ても剣筋も違う気がするし、イシュの表情も違う。


 それに、ミナミは彼のことを知っている。


 黄土色の髪と穏やかそうな顔立ち。

 年齢を感じさせない外見のフロレンスと一緒にいた騎士…


「この町に居ると聞いていたが…会えるとはな…」

 イシュの目の前に立つ騎士、帝国騎士団副団長のエミールは、剣を構えて口元を歪めていた。


「…副団長さん…だっけ?」

 イシュも口元を歪めている。

 少しばかり嬉しそうに口角を上げている。


 先回りをされたこと、目の前に帝国騎士団の副団長が立ちはだかっていることから状況はよくない。


 そんな中、少しミナミは引っかかった。


 イシュと副団長のエミールが知り合いのようなことと、いい関係ではないこと。

 そして、


 ミナミの聞き覚えのない名をエミールは言っていた。


「シューラ・エカ…って」

 だが、ルーイは知っているようだ。

 その証拠に、顔色がどんどん悪くなっている。



マルコム:

主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。

追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。


シューラ:

主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。

追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。


ミナミ:

たぶんヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。



フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):

実質帝国のトップに立っているフロレンス家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の赤い死神と呼ばれる。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。


オリオン:

ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをルーイに命ずる。四兄妹で一人だけ母親が違うが、早くに母親を亡くしているため誰よりも家族思い。


ルーイ:

ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。


アロウ:

ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。


エミール:

帝国騎士団副団長。リランの付き人。茶髪で穏やかそうな外見をして居る。リランよりもかなり年上だが、あまり年齢を感じない。


ホクト:

ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。


アズミ(アズミ・リラ・ハーティス):

ミナミの姉でオリオンとホクトの妹。隣国のロートス王国の公爵家に嫁いでいる。面倒見がよくて明るい女性。



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