血の気が多い二人 2
マルコムとシューラは、倒れた4人の男から武器を剥いで店の外に放り投げた。
勿論投げるのはマルコムだ。
彼はシューラよりも遥かに力が強い。
マルコムは穏やかそうな顔立ちからは想像できないほどの怪力の持ち主だ。
鍛えられた筋肉は服を着ていてもよくわかり、脱ぐと更によくわかる。
そしてその筋肉は戦闘能力を特化させたものである。
対して、シューラは少年の様な体つきで細身であるため、マルコムよりも圧倒的に筋肉が少ない。
もともとの体質が筋肉がつきにくいのである。
「相変わらず顔に似合わない腕力だよね。」
シューラは軽々と男を放り投げたマルコムを見て、呆れたような顔をして言った。
「羨ましい?分けてあげないから。」
シューラの嫌味のような呟きにマルコムはにやりと嬉しそうに笑った。
彼は自身の腕力を誇っているのだ。
嫌味のような呟きに対して自慢げに応えたマルコムを見て、シューラはつまらなさそうに溜息をついた。
そして、マルコムが放り投げた4人を見て首を傾げた。
「ねえ。お金は取らないの?」
「カツアゲされたわけじゃないから取らないよ。武力でぶつかってきたなら武力を取ってでいいよ。」
「クズ呼ばわりした癖にフェアだよね。」
「力が圧倒的だったから、これぐらいは同じ目線じゃないと気の毒でしょ?」
マルコムは憐れむように4人の男を見下ろした。
「確かに…」
シューラはやはり嬉しそうに笑った。
どうやら彼にとってマルコムのこのような価値観は好ましいようだ。
「さて…宿どうしようか…」
マルコムは顎に手を当てて考え込んだ。
ゴロツキからお金を取らないと決めたので、自身の手持ちで宿を取らないといけない。
また、その手持ちも足りなかったので、このゴロツキから回収した武器を売ることを考えないといけない。
ただ、武器を売るというのは多少のリスクや伝手が必要だ。
そして、手持ちのお金も宿のカウンターに置いたままだ。ネコババされても不思議ではない。
「半分以上君のせいだから、君がどうにかしてよ。」
恨めし気にマルコムを見て、シューラは口を尖らせて言った。
「クズって煽りたくなるでしょ…」
シューラの言葉にマルコムは彼と同じように口を尖らせた。
シューラはマルコムが自分の非を認めたことに満足げな顔をした。
その顔を見てマルコムは舌打ちをした。
二人は再び店の中に入った。
入ってきた二人に、静まり返る店内。
マルコムとシューラは、顔を見合わせて諦めたように溜息をついた。
だが、そんな二人や店の中の客とは違い、カウンターにいた店主は目を輝かせて手招きをしていた。
彼は、さきほどマルコムたちが出していた硬貨をカウンターの上に置いていた。
どうやら喧嘩のどさくさでなくなることを恐れ、避難させていたようだ。
「盗られたかと思ったけど、結構紳士だね。」
マルコムは硬貨を見て頷くと、店主を敬うように頭を下げた。
店主はカウンターに腕をついて二人を見て何度も頷いていた。
その様子に、マルコムとシューラは顔を見合わせた。
「宿代をまけてくれるとか?」
シューラは少し期待するような目を向けた。
店主は首を振った。
「…用心棒代として、宿を提供することは考えてやらんでもない。」
店主は二人の様子を見て言い、彼はカウンターに置かれたお金を二人に付き返した。
「いや、これは…」
マルコムは返されたお金を見て慌てて店主に返した。
「食事代はない。これが無いとお前らは無一文だろ。」
店主は返されたお金を再び返した。
「申し訳ない。」
マルコムが頭を下げると、彼はシューラの頭を掴んで無理やり下げさせた。
「痛いって…わかっているからさ…」
シューラはマルコムを恨めしそうに見た後、自らの意志で頭を下げた。
「用心棒として一時的に雇うだけだが、名前ぐらいは教えろ。」
店主は二人を見て訊いた。
二人は顔を見合わせて考え込んだ。
忘れていけないことがあるが、二人は追われている身だ。
本名を名乗るのはリスクが高い。
そうなれば名乗るのは偽名だ。
ただ、呼ばれても反応できる程度の馴染みが無いと色々不便なことは二人はわかっている。
彼等が使う名前は知り合いの名前が多い。
特に自分に馴染みのあるものだ。
「…俺は、モニエルという。」
マルコムはそう名乗った。
「僕はイシュ」
シューラはそう名乗った。
堂々と名乗ったが、店主は二人の顔を見て呆れたように笑った。
「…偽名だな。それくらい見ればわかる。」
店主は断言した。
「「!?」」
二人は店主の言葉に黙った。
「別に、後ろ暗いことがあるのは見ればわかる。ここにはそんな奴らが多い。」
店主は店の中を見渡して言った。
確かに彼の言う通り、店の中で休んでいる者達は表の世界には馴染みのなさそうな外見をしていた。
「全部の名前を教えろとは言わない。ただ、雇う側としては保険で知っておきたい。別にどこかに突き出そうとしているわけじゃない。お前らが何かしたときに俺が有利になるためだ。」
店主の言葉を二人は黙って聞いていた。
「…俺達の名前を聞くと後悔するけど…いいの?」
マルコムは脅すように店主を見た。
「何かあったら知らないふりをする。」
店主の様子を二人はじっと観察して、しばらくすると諦めたようにため息をついた。
シューラは店の中にいる者達に視線を向けた。
彼等は先ほどの喧嘩もあって、二人に注目している。
追われている身である二人は、店主にはいいが、他の客には聞かれたくない。
店主はカウンターの中に二人を招き入れ、より近い位置で話せるようにした。
二人は鋭い視線を店主に向けていた。
「そう睨むなって…こうなることは珍しくない。」
店主は周りを見渡して言った。
「…僕は言ってもいいと思う。バラされたら殺せばいい。」
シューラはマルコムを見て言った。
マルコムは彼に同意したのか、溜息をつきながら頷いた。
「…俺はマルコム…」
マルコムは自分の右頬の傷を撫でながら言った。
「僕はシューラ。」
シューラは用心深そうに店主を見ていた。
名前を聞いて店主は顔色を変えずに納得したように頷いた。
「驚かないの?」
マルコムは店主の様子を見て警戒を示していた。
「いや、さっきの喧嘩もあるが、それよりも名前を聞いて用心棒として頼れると思っただけだ。」
店主はカウンターの引き出しから鍵を取り出した。
それをシューラに渡した。
「…いいの?」
シューラは受け取った鍵を見て店主を警戒するように見た。
「お前らの噂は聞いてる。下手に動くよりも大人しく雇った方がいい。というよりも、帝国騎士団がこの国に来たから、裏も荒れる奴らが増えるし、身を護る術が欲しかったんだ。」
店主は怯えるように自身の肩を抱いた。
「別に宿を断られた程度で危害は加えないよ。」
マルコムは店主の様子を見て呆れた。
「まあ、そうだろうけど…言っておくが、何かあったら俺は保身に走るからそれは先に言っておくぞ。」
店主は念を押すように言った。
「わかっている。」
「僕らも保身に走るから安心して。」
二人は店主に向けて初めて笑みを向けた。
このように割り切った店主の対応は二人にとっても気楽であり、好ましいものであった。
「…じゃあ、悪魔さん達。用心棒頼むよ。」
店主は二人の肩を叩いて、周りに聞こえない囁き声で言った。
マルコムとシューラは、さきほど噂に上がっていた悪魔の二人組に該当する人物である。
二人は、数千人の兵士を殺し、母国を裏切り逃亡している。
その前はお互い別々の国の人間であり、接点も無かった。それよりも二人は敵同士だった。
敵対している二人が、とあるときを境に協力し合いそれぞれ母国を裏切り、殺戮を繰り広げた。それは確かなもので事実だ。
だが、二人が一緒に逃げている理由は誰にも理解されない。




