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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
ライラック王国の姿~ライラック王国編~
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幼い青年

 


 慣れたようにアロウは宿のカウンターと表の武器屋のカウンターを行き来していた。

 勿論情報を集めるのは欠かさない。


 ミナミたちの部屋を出てからアロウは再び情報収集のためにカウンターに立っていた。

 特に自動的に動くことは最小限だ。

 目をつけられると困るからだ。


 ただ、情報を持ってくるものはいる。


 もちろん一人で動くことはしない。彼の傍には、シューラかマルコムのどちらかが周りに見えないよう付いている。


 今はシューラがついている。


 シューラはカウンターの脇に、客からは死角になる位置に立っていた。


 客足が止むと、シューラはカウンターの下に丸まるように座った。

 身長は変わらないが、マルコムとは違い細身のシューラは小さな隙間にするりと入ることができる。それに、彼はコンパクトだ。


 アロウは自分の足元に丸まったシューラを見て少し呆れたようにため息をついた。


「…猫みたいなやつだ…」

 アロウは人の気配が無いため、警戒を解いているシューラを見て呟いた。

 その言葉にシューラは少しだけアロウを見た。

 だが、別に不快に思っていないようで、直ぐに目を逸らした。


 アロウの言葉通り、シューラはおそらく猫っぽい人間だ。


 マルコムと同じように、彼も昔は追われていない時があった。


 その時から、彼は他人を寄せ付けない質であった。

 孤高で腕の立つ天才と言われ、更には目立つ身体的特徴で周りから距離を置かれがちだった。

 やはり、真っ白の髪と真っ赤な目は目立つのだ。それに加え、気難しく他人と距離を置くシューラは戦闘力以外で歓迎されたことは少ない。


 そんな彼が自ら擦り寄った人間はマルコムだけだ。



「…君とマルコム君…どうして一緒に逃げているんだ?」

 アロウは猫のように丸まっているシューラを見下ろして訊いた。


 シューラは目線だけアロウに向けた。


「…いや、変なことを考えているんじゃなくて、不思議なんだ。だって、君たちは元は別々の国の人間だよな…」

 アロウの言う通り、昔、シューラとマルコムは他国の人間だった。


「簡単だよ。」

 シューラは少しだけ嬉しそうに口をほころばせた。


 表情が乏しく見えるシューラだが、彼が表情を作るときには不思議と子供らしさが見える。

 もう彼も成人している青年だが、あまり人と関わる性格じゃなかったことがそれの原因であるだろう。


「…利害の一致?」


「それはあるね…」

 アロウの言葉にシューラは感心したように頷いた。


「じゃあ、なんで?」


「彼が僕に教えてくれたからだよ。」


「教えた?」


「そう。心からの唯一って存在をね。」

 シューラはやはり嬉しそうだ。


「じゃあ、お互い心を許し合っているんだな…」

 それを聞いてアロウは納得した。


「違うよ。それはない。」

 アロウの言葉をシューラは、辛辣過ぎる口調で否定した。


「え?」


「僕とマルコムの関係は…そんな優しくて気持ち悪いものじゃないよ。」

 シューラは口を歪めていた。


 アロウはシューラに言っていることが分からなかったが、シューラのことが分からないことは分かった。


「…君と俺は違う種類の人間なんだな…」

 アロウはシューラの様子を見て思ったことを言った。

 それを聞いてシューラは満足そうに頷いた。


「世の中の奴らが君みたいな頭をしていればいいのにね…」

 シューラはアロウのことを嫌っていないのか、彼には他の者に比べて友好的な目を向けている。


 アロウも雇い主として、あまりにも無礼だとシューラを怒ればいいだろうが、情報屋をやっているアロウは、シューラの腕が立つことも分かっているからそんな怖いことはしない。


 暫く二人での沈黙の時間が流れた。

 しかし、その時間は、慌ただしく武器屋の扉が開く音で終わった。


 バタンと、勢いよく扉が開かれた音からは、開いた者が切羽詰まっていることが察せられた。


「あ…すみません…」

 扉を開いたのは、城の兵士と思われる若い青年たちだ。


 いや、青年というよりかは少年と言うべきだろう。


 シューラはカウンターの下に隠れたままだが、腰に差している刀に手をかけて警戒をしていた。

 アロウはいつものように接客用の笑顔を向けた。


「…他の兵士たちって…ここに来ましたか?」

 その兵士たちは、自分たち以外の兵士が来たかというのを始めに訊いた。


 アロウはその言葉に目を鋭くした。


「…いえ…」


「あの…他の兵士が来ても、俺たちが立ち寄ったことを言わないでください…」

 兵士は懐から小袋に入った金貨を出した。


 その小袋を見て、アロウはカウンターから出て、店の扉の鍵を閉めた。


 武器屋を閉め切ったのだ。


 裏にある宿を除いて、店内にはアロウとシューラ、そして若い兵士が二人だった。


「…その袋は…誰からだ?」

 アロウは若い兵士を見据えて言った。




マルコム:

主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。

追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。


シューラ:

主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。

追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。



ミナミ:

たぶんヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。


ルーイ:

ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。


フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):

帝国の公爵家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の赤い死神と呼ばれる青年。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。


オリオン:

ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをオリオンに命ずる。


エミール:

帝国騎士団副団長。リランの付き人。リランよりもかなり年上。


アロウ:

ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。


ホクト:

ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。



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