現実を見る姫様
広い庭に、まだ幼いミナミと兄二人と姉がいた。
「これ見て。ホクトお兄様の瞳と同じ色。」
ミナミは、青い綺麗な花を一輪兄に見せて笑った。
「本当だね。」
穏やかな二番目の兄は、ミナミに青い瞳を細め笑った。
手入れされている黒い髪が風になびいている。
ミナミは、自分の髪と違って少し硬い髪質の彼の髪が好きだった。
黒くて、艶やかだ。
「ミナミー!!それよりもこっちでしょ?」
ミナミに笑いかけるのは、姉のアズミだ。
彼女はミナミともホクトとも違った、茶色の髪をしている。
瞳はホクトと同じ綺麗な青色だ。
頬にそばかすがあるのが彼女のコンプレックスだが、世話好きで明るく、笑顔を絶やさない彼女はとても魅力的だ。
彼女はミナミの姉で、ホクトの妹だ。
四人兄妹の3番目だ。
「ほらー!!オリオンお兄様も!!」
アズミは遠くから見ている金髪の美少年、オリオンに手を振って言った。
オリオンはミナミと同じ目の色、髪の色をしている。
彼だけ母親が違う。それに彼が一番年上だから、一人いつも大人ぶっている。
「うるさいな…お淑やかも何もない、淑女とも言えないな。…将来が心配だ。」
オリオンは顔を歪めてわざとらしく嘆いた。
「それなら、オリオンお兄様が代わりにお嫁に行ってくださいよ。」
「王位継承権一位に何てこといっているんだよ。アズミ…」
ホクトはアズミの発言に呆れていた。
「しゅ…淑女たるものが…なんてことを!!」
オリオンは顔を真っ赤にして怒っている。
「それ、オリオンお兄様がさっき否定したー」
ミナミは笑いながらオリオンを指さして言った。
ミナミの指摘にオリオンはまた、顔を真っ赤にさせる。
それを見て、アズマやホクトも笑い、オリオンも仕方なさそうな顔をする。
皆、笑顔になっていた。
広い庭。
お城の庭で兄妹で過ごした短い時間…
ミナミの傍で笑うホクトは、いつも通り穏やかな顔をして居る。
ミナミは幸せで淡い魔力の光を漂わせた。
幼いミナミと同じように、ホクトも幼い。
ミナミは、小さな手を、縋るようにホクトの顔に伸ばした。
「…お兄さ…」
伸ばした手は、ホクトに触れることがなかった。
ぐにゃりと、ホクトが歪み、周りの風景も歪み、渦のようなものを描き、黒い何かに飲まれていくように消えていった。
残ったのは、ミナミと、彼女の手に握られていた青い一輪の花だ。
「…お兄様…みんな…」
ミナミは縋る気持ちで周りを見渡した。
誰もいない…
ヒヤリ…と、手に持つ花が冷たくなった気がした。
何があったのか、と見ると
手にあるのは、花ではなく、銀色に光る金属だった。
鋭く、狂暴なそれをミナミは見たことがあった。
ホクトが父親を刺したものだ。
「いやあああああ!!!」
ミナミは自分の叫び声で目を覚ました。
そして、自分の両手を見た。
呼吸を整えようと深呼吸を試みたが、心臓の鼓動がうるさく、体が震えて落ち着けなかった。
体中が光っている。しかし、それを止める術を抑える術を今のミナミは持っていない。
「ミナミ!!」
同じ部屋にいたルーイがミナミの肩を抱いた。
「大丈夫だ。安全だから…」
ルーイはミナミの背中をさすって、優しく囁いた。
「夢…だもんね…そうだよ…ね」
ミナミもルーイの言葉に頷き、必死に夢を振り払おうとする。
けれど、ホクトが父親を殺したのは現実だ。
夢を振り払っても、現実は変わらない。
マルコム:
主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。
追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。
シューラ:
主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。
追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。
ミナミ:
たぶんヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。
ルーイ:
ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。
フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):
帝国の公爵家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の赤い死神と呼ばれる青年。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。
オリオン:
ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをオリオンに命ずる。
エミール:
帝国騎士団副団長。リランの付き人。リランよりもかなり年上。
アロウ:
ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。
ホクト:
ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。




