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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
帝国の赤い死神~ライラック王国編~
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友好的な死神

 


 リランの脅しに屈したホクトは、国王を殺したのは大臣と供述した。

 兵士の不信感もあり、その言葉はストンと真実として受け入れられた。

 ホクトや大臣サイドの貴族や有力者が何かを言おうとしたが、港の泊る帝国の軍事力を思い出し何も言えなくなっていた。


 たとえ脅しに近い手段で得たものでも、ホクトの自供と陥れられたという建前を帝国側は得た。

 その瞬間、帝国とライラック王国の優劣関係が明らかになった。


 武力だけで優位だったのが、陥れられたという名目を持つことで変わったのだ。


 それはリランも計算していたことだったかもれしないが、ホクトと大臣は拘留され、王国の兵士たちに見張られることになった。


 ホクトの信用は地に落ち、大臣は死罪確実になった。

 また、彼の息がかかった有力者たちも失脚は間違いないだろう。


 昼になるころには、全ての権限はリランの元にあった。

 かろうじて次期国王としてオリオンの権限もあったが、港の軍船を見るとリランの方が上だろう。


 リランの手の上に王国の存亡がかかっていると考えているのは、オリオンだけでなないだろう。


「…言った通りになったな…」

 オリオンは、座ることの許された玉座に座らず、左側に腕でもたれかかりながら言った。


「遊び過ぎたけどな…」

 リランはオリオンがもたれかかる反対側の右側に腕でもたれかかっていた。


 謁見の間には、オリオンとリラン、それと数人のライラック王国の兵士とリランの付き人だけしかいなかった。


 他の者達は、取り調べと称して隔離して不穏分子が無いか確かめている。


 鮮やかな手際だった。

 軍事力だけで成り上がった国ではないとつくづく思った。


 そして、この男も戦闘能力だけで成り上がった男ではないと。



「後は、姫様が戻ってこれば完璧だ。」

 リランはオリオンに笑いかけた。


「…葬儀は来週から盛大に行う。お前ももちろん出席するだろ?」


「この国にいるのだから当然だ。帝国の王代理としても任されている。」

 リランは胸を張って言った。


 本当に手際が良かった。

 何から何まで色んなことを想定して動いている。

 もともとライラック王国が優位に動けることはなかったのだ。


「…父上殺害…ホクトが動くこと知っていたのか?」

 オリオンはふと思ったことをリランに訊いた。


 リランにしか聞こえない音量で言った。周りには聞こえていない。


 そのはずだったが、リランの付き人の男には聞こえていたようだ。

 彼はオリオンをじっと見ていた。


「失礼になりますよ。エミール…」

 リランは付き人に注意をした。


 どうやら付き人の名前はエミールというようだ。


 オリオンはその名に聞き覚えがあった。

 そして、思わず震え上がった。


 それは謁見の間にいる兵士たちも同じだった。


「ああ。オリオン殿には紹介していませんでしたね」

 リランは玉座にもたれかかるのを止めて、付き人のエミールの元に向かった。


 そして、彼は玉座近くにいるオリオンを下手から見上げた。


「こちらは、今回の私の付き人兼、騎士団の統率を担ってくれているエミールです。彼は帝国騎士団副団長の役にも付いている非常に有能な者です。」

 リランはエミールを指して紹介をした。


 そうだ。


 エミールは帝国騎士団副団長として世界中に知られている。

 悪名と共に、畏怖と尊敬の対象として名高い帝国騎士団は、団長、副団長と強力な騎士は名が知られているのだ。


 何よりも彼は、死神とはまた違った二つ名がついている。

 帝国騎士団副団長のエミールは「死神の狂信者」と言われ、黒い死神と呼ばれる騎士団長と彼の息子である赤い死神を心棒し、彼らの推し進める領地拡大に尽力しているのだ。

 彼もまた、手段を選ばない冷酷な騎士だ。


 黒い死神を侮った異国の宰相の首をその場で刎ねた話は、耳に新しい。


 そして、おそらく皆が思ったことは、副団長が来るとうことは、ライラック王国に対して本気で取り組んでいるということだ。


 エミールはリランよりは明らかに年上の様子だが、初老と言うには若そうだ。

 黄土色の髪には白髪がまだ混じっておらず、鍛えられた体躯はわかるが、人の良さそうな顔立ちで、厳つさが薄い。

 とてもじゃないが、冷酷な騎士には見えない。


 ただ、忘れてはならないのは

 同じように冷酷な騎士にも死神にも見えない男が彼の横にいることだ。


「別にライラック王国に躍起になっているわけではないですよ。」

 オリオンたちの思ったことが分かったのか、リランは首を振った。


 躍起になるもまず、港の軍船を見ると少なくとも制圧に乗りかかっているのはよくわかる。

 それを躍起になっているわけではないというのか…


 リランはまた玉座とオリオンの元に近寄った。


「オリオン…俺の名前を聞いて、何か分からないか?」

 リランは敬語を使わずにオリオンに訊いた。


 リランの名前と言われても

 彼の名前は「リラン・ブロック・デ・フロレンス」と帝国の公爵家の人間というもので…


「俺の名前には、とある罪人と同じものがある。」

 リランはオリオンの耳に囁いた。


「罪人…」

 それを聞いてオリオンは噂で聞いたことを思い出した。


 帝国の大罪人がこの町に入ったという噂だ。

 あくまでも噂程度だが、その罪人の話題はとても人気なのだ。

 この目の前の死神と同じく、化け物じみた武勇のせいで。



 そして、その名前は…


「…マルコム・トリ・デ・ブロック…」

 オリオンはリランを見た。


「この国には帝国としてよりも個人的な用事で来たというのが大きいな。」

 リランはエミールを横目で見て言った。


 エミールもリランに頷いていた。


「まあ、これから長い付き合いになるんだ。」

 リランはオリオンの肩に手を置いた。


「仲良くしよう…なあ?」

 リランの口調は気安いというよりも馴れ馴れしさがあるが、彼は三日月の形に目を歪め、その瞳はどこまでも侮れない鋭さがあった。


 オリオンはやはり、リランに対して睨むことしか出来なかった。



マルコム:

主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。

追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。


シューラ:

主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。

追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。



ミナミ:

たぶんヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。


ルーイ:

ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。


フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):

帝国の公爵家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の死神と呼ばれる青年。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。


オリオン:

ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをオリオンに命ずる。


アロウ:

ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。


ホクト:

ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。



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