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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
二人の青年
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二人の青年 2

 

 海原を行くこじんまりとした輸送船。

 ただ、輸送船であるのに様々な恰好をした様々な人が溢れかえっていた。

 どうやら荷物を運ぶほかに客船としての役割もあるようだ。

 しかし、規模は小さいが、動かすために魔力を必要とするため、動力を得るための魔導機関がごちゃごちゃとして雑多なガラクタに覆われた鉄の塊という印象を受ける船だ。

 なので、安い賃料で移動手段として使えるものだ。よって客層もやや下寄りだ。


 空は月明かりのみが頼りなく輝き、海は吸い込まれそうなほど深く暗い。

 船が動力を得るために発する魔力の光のみが頼りなく灯る闇の時間。

 船の誰もが外に出るのを厭ってしまうような、そんな時間に二人の青年が並んでデッキで海を眺めていた。


「安定しない…」

 難しい顔をして居る青年の名は、マルコムという。

 彼はセミロングくらいの茶色の髪を、オールバックにして全部後ろに流してまとめて縛っている。上品な形の眉に、たれ目気味の茶色い瞳は穏やかそうで、口元は端正だ。顔の造形は女性にモテそうな優男だが、右耳から右頬に走る深い傷が狂暴性を覗かせている。

 そして、その凶暴性に説得力を持たせるような鍛えられた体をしている。身長自体は高くないが、肩回りや腰回りに付いた筋肉は高い戦闘能力を想像させるほどのものだ。


「船酔い?情けないね。」

 マルコムが苦しそうにしている横で、それを見て笑う青年が言う。

 彼の名は、シューラという。

 彼は髪の毛が真っ白で長い、そして肌の色も透き通るように白い。

 幼さを残した顔は年齢不詳で、口から覗く八重歯が特徴的だ。そして何より彼の特徴は三白眼の真っ赤な瞳た。

 彼はマルコムとは違い、少年から青年に成長途中のような未成熟さを感じる華奢な体躯をしている。


 このマルコムとシューラ、二人は共に旅をして居る。

 そして、二人は追われている身だ。


 マルコムは愉快そうに笑うシューラを睨んだが、直ぐに海に目を向けた。


「部屋の中でじっとしていればいいのに、君も馬鹿だね。」

 シューラはマルコムの様子を見て呆れていた。


「吐き気がする。まして、輸送船の中にいる屑を見るとなおさらだよ。」

 マルコムは顔を歪めた。


「それは僕も同感だよ。見た?手配書を持っていた屑みたいな賞金稼ぎの男」

 シューラはマルコムの言葉を聞いて嬉しそうに顔を輝かせた。


「みたいじゃなくて、屑だよ。」

 マルコムもシューラの言葉に顔を輝かせた。


 二人は笑い合うと、海をしばらく無言で眺めていた。

 輸送船の目的地はまだ遠いのか、周りを見渡しても海だけで大陸は見えない。


「…別に海を超える必要は無いと思うけど…」

 マルコムは海を見渡しながら言った。

 その口調は海を越えることに関しての不安というよりも、面倒くさく思っていることが見える。


 そんなマルコムの横顔を見て、シューラは不敵に笑った。


「その顔。腹立つね。」

 マルコムはシューラの顔を見て露骨に、眉間に皺を寄せた。


「船旅してみたかったんだよ。それに、向こうの帝国の力が強くなってきているから僕たちが見つかるのも時間の問題だよ。」

 シューラは両手を広げ、開放的な様子でくるくると回った。

 そして、少しだけマルコムを責めるように見た。


「ああ…帝国ね…」

 マルコムは口元に歪んだ笑みを浮かべた。


 帝国は、マルコムの祖国であり、マルコムを追っている国でもある。

 そして、最近勢力拡大をしている国でもあり、今まで二人がいた大陸はほとんど制覇されている状態になっている。


「寂しくなった?」

 シューラはマルコムの顔を覗き込んだ。

 暗い夜の中に光る彼の赤い瞳には、好奇心がキラキラと見えていた。

 隠すことのない野次馬根性というべきか、マルコムに対しての冷やかしと見るべきか、決して性格のいいものではないのは確かだ。


 キラキラと意地の悪い目を向けるシューラを見て、マルコムは呆れたように笑った。

 そして、シューラの顔を手で退かした。


「君って、たまにうざいよね。寂しいわけないよ。」

 マルコムはシューラの顔を退かした手でそのまま彼の顔を掴んだ。

 身長は大きくないとはいえ、マルコムの手はしっかりと大きい。それこそシューラの顔を覆って掴めるくらいに。


「楽しいから仕方ないよ。」

 すっぽりとマルコムに顔を掴まれても、シューラは怯むことなくマルコムに意地の悪い目を向けて笑った。


「本当に性格悪い…」

 マルコムはシューラの顔を掴んだまま口元を歪めて笑った。


「お互い様…だよね。」

 シューラもマルコムの顔を見て口元を歪めて笑った。


 二人を乗せる輸送船は、巨大な帝国が支配する大陸から、世界の港と言われる国への海路をゆっくりと進んでいた。



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