二人の青年
ある世界に、ある旅人の二人の青年がいた。
二人は一緒に旅をしている。
二人は生まれた国も育った環境も全く違った。
ただ、二人ともとても強くて腕の立つ青年だった。
そして、二人とも母国に追われる身だった。
「…ねえ」
「なに?」
「今日はここで泊まろうよ。」
「君、追われている身なのわかっているの?」
「僕たちを追うほど暇なやつはいないよ。たぶん…」
「寝込みを襲われるのが、一番気分が悪いんだよ。」
「君、眠り浅いから大丈夫でしょ。」
「俺の気分の問題だよ。」
「僕、ベッドで寝たいよ。」
馬の乗るわけでもなく、二人は歩いて旅をしている。
追われている身なのに、急ぐ様子もない。
警戒はしているのに、焦る様子もない。
二人の共通点は、追われていること、強いこと。
そして、自分の腕に自信があることだった。
他にも共通点はあるが、他人が認識しやすい共通点はこの三つだ。
ただ、二人が一緒に旅をする理由は、他人が認識しやすい共通点が理由ではなかった。
道を歩く二人の前に、何やら汚れた格好をした男たちが現れた。
彼らは俗に言う、荒くれ者で、力に物を言わせて他人から盗みを働いたり、気まぐれに暴力を加えたりする、いわゆる外道と言われる輩だ。
「おい、兄ちゃんたち。死にたくなければ金目のものとその武器を置いて行け。」
その荒くれ者のリーダーらしき男が二人の前に立ちはだかり、腕を組んで尊大な様子で言った。
彼の後ろで、腰巾着のような男たちが愉快そうに笑っている。
まるでもはや金目のものが手に入る事を確信しているような、そんな侮った笑みだった。
彼らの様子を見て、二人の旅人は溜息をついた。
「おいおい。聞いているのか兄ちゃん。」
リーダーらしき男は二人が怯えていなことに苛立っていた。
腰巾着のお男達は、二人を取り囲んだ。彼等の手にはそれぞれ武器があった。
それは同じような手口を用いたことがあるような、手慣れた動きだった。
そんな熟練さを見せる荒くれ者たちに囲まれているのに関わらず、二人の旅人は焦った様子も無かった。
「脅しじゃないぜ。」
リーダーらしき男は二人を見て不敵に笑った。
二人はそれぞれ持っている武器に手をかけた。
一人は、腰に差した刀に、もう一人は、背負った槍に。
「俺たちが言いたいこと、全部言ってくれて助かるよ。」
槍を持った青年が首を傾けながら笑った。
「手間が省けてよかったよ。」
刀を持った青年も笑った。
ただ、二人とも冷たい視線を向けていた。
道には、男たちが倒れていた。彼等は汚れた格好をしていた。
倒れる男たちの中心には槍を持った青年と刀を持った青年がいた。
「弱い奴がいきがるなよな…」
刀を持った青年は倒れた男たちを蹴っていた。
「分不相応な行動をしたか…自分の価値を計り違えたかだよ。」
槍を持った青年は憐れむように倒れている男たちを見ていた。
二人は武器を収めると、何事も無かったように歩き出した。
二人は一緒に旅をしている。
二人は生まれた国も育った環境も全く違った。
ただ、二人ともとても強くて腕の立つ青年だった。