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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
ライラック王国のお姫様~ライラック王国編~
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優しい父親

 

 廊下を走っていたことや、侍女たちの目を盗んで逃げだしていたこと。

 それに加えて前科多々を考慮された結果…


 ミナミは、沢山の本が乗せられた机の前に座らせられている。


 部屋の中には、さきほどミナミが忍び込んでいた詰め所にいた兵士のルーイがいた。

 見張りの役割のようだ。


「お勉強やだー」

 机に顔を突っ伏して、ミナミは足をじたばたさせて精一杯ごねた。


「探求心は全て勉学に回すべきだと、国王陛下が仰っていました。」

 ミナミの後ろには、神経質そうに眼鏡を光らせた中年の女性がいた。

 どうやら彼女がミナミの専属の教師のようだ。


「冒険心と言ってよー。…動きたい…」

 ミナミは口を尖らせて拗ねた。


 ミナミはお勉強があまり好きではないのだ。

 動き回るのが好きである。そして、このように拗ねるのもよくあるのだ。

 その度に教師は頭を悩ませる。


「すみません…少しいいですか?」

 見張りに付いているルーイが教師に話しかけた。


「ええ。何でしょうか?」


「少しだけ私たちとだけ、姫様とお話させてください。そうすれば、きっと真面目に勉強するはずです。」

 ルーイは教師に頭を下げた。


「…確かに、姫様に息抜きは必要ですが、息抜きのし過ぎですから…」

 教師はミナミを睨んだ。


「先生!!お願い。少しだけでいいから。」

 ミナミはルーイからの助け舟だと思い、彼の提案に乗った。


 教師はしばらく悩んでいたが、諦めたように息を吐いた。


「わかりました…そうですね。このままだと時間が無駄ですから…ただ、必ず勉強してください。」

 教師はそう言うと、部屋から出て行った。


 教師がいなくなると、ミナミは安心したように椅子の背もたれに寄りかかった。


「ありがとー。助かった…」

 ミナミは見張りに付いているルーイに笑顔で言うと、椅子から立ち上がり、部屋の窓に向かった。


「お待ちください。」

 ルーイはミナミの行く手を遮るように窓の前に立った。


「え?」


「自分は、先生に話した通りのことをするつもりですし、見張りの仕事をします。」

 ルーイはミナミの肩を掴み、椅子に座らせた。


「え?え?だって、私を逃がしてくれるんじゃ…」

 ミナミは逃げる隙を作ってくれたと思っていたようだ。


「逃げて何をするつもりですか?」


「え?…えっと、お父様たちの様子を…」


「見て、姫様は何をするつもりですか?…姫様は何ができますか?」


「何って…えっと…」

 ミナミは口ごもった。

 好奇心だけで走っているが、確かに何かをしたいというのはない。

 何ができるのかというのも、立ち聞きして城の噂話に一役買うだけだ。


 詰め所で気軽に話している様子はなく、ルーイは厳しい顔をしていた。

 それもミナミが口ごもった理由の一つでもある。


「姫様。なら、提案があります。」


「提案?」


「はい。…逃がす代わりに、簡単な本や読み書きについて書かれたものを…私に貸してください。」


「え?」


「最低限は読めますが、私たちは勉強がしたいです。しかし、本も持っていないですし、時間もありません。」

 ルーイは机の上に置かれた本を指して言った。


「勉強が…?」


「学があれば、兵士としていつかもっと出世するのも夢ではなくなる。姫様にはわからないかもしれませんが、あなたが逃げようとしているものは、私たちにとって喉から手が出るほど欲しいものです。」

 ルーイは、真っすぐミナミを見ていた。


 ミナミはしばらく兵士の視線を受けていたが、何かに気付いたように目を見開くとすぐに顔を伏せた。


「…ごめんなさい。」

 絞り出すような声でミナミは謝った。


「謝らないでください。…ただ、知ってください。」


「でも…私、ルーイのこと考えずに…自分の…」


「知らなくて当然だ。だけど…今、知った。」

 ルーイはミナミに敬語を使うのを止めていた。

 そして、ミナミを元の椅子に座らせ、自分は机を挟んでミナミの正面に立った。


「教えてくれて…ありがとう。」

 ミナミは恥ずかしそうに顔を上げた。

 彼女は、今までの自分の言動がルーイたちにどのような想いを持たせていたのかわかってきたようだ。


「…まあ、多少サボるのはいいと思う。じゃないと、俺達もミナミと話せないし…」

 ルーイはミナミの顔を見て困ったように笑った。


「ありがとう。けど…お勉強…一生懸命やるよ。」

 ミナミは鼻息を荒くして近くの本を開き、かぶりつく様に見た。


 ルーイは慌ててミナミの動きを制し、本を取り上げた。


「え?どうして?」

 ミナミはルーイの行動に首を傾げた。


「俺は、そんな直ぐに血眼になってやって欲しいわけじゃない…いや、そうなんだけど…無理はして欲しくないんだ。」

 ルーイは取った本を机に置いて、困ったように頭を掻いた。


 ミナミは首を傾げてルーイを見上げていた。

 ルーイは「困ったな…」などと、呟き考え込んでいた。



「…今は…いえ…」


「そう言われましても…いえ…」


 廊下の方が騒がしくなってきた。


 ルーイは警戒するような顔をして扉の方を見た。

 ミナミも、さっきオリオンが着替えているときに入ってきたことから、険しい顔をした。


 バタンと、扉が開かれた。


「ミナミ…勉強をしないと聞いたぞ?」

 扉を開いたのは国王陛下、ミナミの父親だった。


「お父様…」

 ミナミは気まずそうな顔をした。


「無礼を承知で失礼します。陛下…」

 ルーイは慌ててミナミと国王の前に立ち、その場に跪いた。


「姫様は…先ほど勉強すると約束してくださいました。」

 ルーイはそっと、国王を見上げた。


「本当か?」

 国王は疑いの目をミナミに向けていた。

 これは日ごろの行いだろう。


 ミナミは気まずそうにルーイを見た。


「本当なんだけれど…お父様…」

 ミナミは縋るような目を国王に向けた。


「姫様!!」

 ルーイは顔色を変えた。


「だって、ルーイの言っていること分からないだもん。」

 ミナミは止めるルーイの言葉を聞くことをせず、ルーイから聞いた話をして、自分が勉強をしようと思ったことを国王に言った。


 それと同時に、ルーイが本を取り上げた理由が分からないことも言った。


 ルーイは顔を青くして俯いていた。


 国王はルーイとミナミを見て頷いた。


「申し訳ございません…」

 ルーイは委縮したように肩を縮めていた。


「いや…ミナミはいい友を持った」

 国王はルーイに笑いかけた。


「ルーイはいいお友達だよ。けど…」

 ミナミはルーイが本を取り上げた理由が分からなかった。


「君は、どういうつもりだったんだ?」

 国王はルーイを見た。ルーイも首を傾げた。


「いえ…頭が固くなりそうな気がして…うまく言葉に出来ませんが、がむしゃらで周りを見ない気がして…」

 ルーイは難しそうな顔をしていた。


 その様子を見て、国王は嬉しそうに笑った。

「やっぱり、君はミナミのよき友人だ。」

 国王はルーイを通り過ぎ、ミナミの前に立った。


「ミナミ。先ほど、ルーイ君が話したことで変わっただろ?」

 国王は優しく微笑み、机の前にしゃがみ、椅子に座るミナミの視線に目を合わせた。


「変わった?」


「お前の考えだ。…お前の知っている事実も、見え方も変わるだろ?」


「…うん。」


「それが学ぶということだ。ルーイ君は、お前ががむしゃらにやることで周りを見なくなることを危惧したんだ。」

 国王はミナミの頭を撫でた。


「周りを…?」


「そうだ。知識は必要だがな、物事には視点が必要だ。それも多くの視点だ。」

 国王は机の上に置かれた本を持ち上げた。

 それの表紙の面だけミナミに向けた。

「これは、四角だ。だが、私たちはこれが本だと知っている。何故だ?」

 国王はミナミに問いかけた。


「見ればわかるよ。だって、本だもの…」


「これがもし、一枚の紙だけだったらどうする?お前の見えないところで本でなかったら?」


「…だって、こっちから見たら…」

 ミナミは側面を指して言いかけ、何か気付いたように言葉を止めた。


「そうだ。ミナミは今、とてもいい学習をした。」

 国王はミナミの頭を撫でた。


 ミナミは頭を撫でられて事に照れくささを感じたが、それ以上に誇らしさに近い嬉しさがあった。


 国王はルーイを見た。


「これからも、ミナミを頼む。」

 国王はルーイに頭を下げた。


 あまりに大げさではないかとミナミは慌てたが、ルーイは驚く様子も見せず国王を見ていた。


「はい。」

 ルーイはミナミを見た後に、国王を真っすぐに見て返事をした。


 その様子にミナミは不思議と恥ずかしくなった。



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