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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
ライラック王国~ダウスト村編~
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川辺の青年たち

 

 焚火にかけた簡易的な鍋の他に、小さい鉄板を持ち歩いているようで、それを炙るためにまた別のところに焚火を作っている。

 とはいっても、薪を並べて火を移すだけだが、ミナミはバランスを考えて砂利を周りに敷き詰めたりと試行錯誤していた。


 ミナミにとって初めてのことで、マルコムやシューラに訊きながら動いているが、意外と楽しいと思っている。

 シューラはミナミに色々教えながら手慣れた様子で、沸かした水で食べられる草を軽くに湯通しして洗い、また水を入れてお湯を沸かし次は調味料を入れて煮込んでいた。


 マルコムは鉄板と、短剣を持って川に向かって行った。


「あの…イシュ…」

 ミナミはフードを深く被り、鍋を眺めているシューラを見た。


「別にどうしようもなかったんだしいいよ。あのイトってやつ、どの道付いて来ただろうし、僕もマルコムも人殺しは避けたい。」


「人殺し…って…」


「冗談だよ。それに、意外と使えるようだし…」

 シューラはマルコムの向かった川の方向を見た。

 ミナミも同じ方向を見た。


 川辺にはマルコムがいて、何かを待っている。


「あいつが魚を取ることができるっていうのは本当の様だし……って姫様…じゃなくて、お嬢さん。あまり向こうは見ない方がいいよ。」

 シューラはミナミに視線を戻すように言った。


「え?」


「男の肌なんて、嫁入り前の、ましてお姫様が見るようなものじゃないよ。…僕は見たくないから見ないけど…」

 シューラはミナミを見て眉間に皺を寄せた。


 シューラが言っているのは、川に潜って魚を取っているイトのことだ。

 イトが魚を取ってマルコムが手早くさばいて持ってくるらしい。


 そして、イトは川に入るのだからそれなりの恰好をして居る。

 濡れてもいい恰好だ。


 ただ、シューラが言うほど見られないものではない。どちらかとういうと細身で鍛えらえていて魅力に思う女性も多そうだ。

 でもシューラの気遣いは嬉しい。


「…うん。気を遣ってくれてありがとう。」


「いいよ。僕ですら見ていて不快だから、綺麗なものしか見ていない君は尚更でしょ。考えれば当然だよ。」

 シューラは変わらず眉間に深い皺を刻んでいた。


「…どうしたの?」


「マルコムが…モニエルが、警戒している。君もあの男に対しては、多少は気を付けた方がいいと思う。」

 シューラは沸騰し始めた鍋を揺らしてかき混ぜながら言った。


「警戒…?」


「何かあったの?僕は出会い方を知らないから…」


「出会い方って言っても…山の中で倒れていて…私がそれに躓いて…」


「その時点で不審だけど…」


「起こしたら体を引き寄せられた。」


「どうしてそんな不審者に同行許したの?」

 シューラは呆れたようにミナミを見ていた。


「いや、だってマル…モニエルに飛び蹴りされたうえに、土下座して迷ったので案内してくださいって言われたら…」


「え?」

 ミナミの言葉にシューラは眉を吊り上げた。


「え?」

 どこに反応したのか分からないミナミは首を傾げた。


「いや…やっぱり、あのイトって男には下手なことを話さないようにね。」

 シューラは見たくないと言っていたイトのいる方向を警戒するように見ていた。






 イトと名乗った男は、確かに魚を取ることに長けているようだ。

 川の深いところに潜り込み、太い木の枝を尖らせた簡易的な銛のようなもので刺して捕まえている。


 川辺で見ているマルコムも感心している。


「モニエル君…だっけ?」

 水面からイトが顔を出してマルコムに笑いかけた。その顔は、モニエルというのが偽名と分かっているものだった。だからといって本名を名乗ることを求めることは無いが…


「大したものだね…ほら、ここに載せて」

 マルコムは鉄板を差し出し、そこに魚を乗せた。

 まだ生きている魚を短剣で素早く捌く。


「このぐらいでいいか?」


「あと二匹ほど欲しいね。人が増えているもので…食い扶持も多いからね。」


「君に蹴られた場所が痛いからあまり無茶は出来ない。」

 イトは大げさにわき腹を庇いながら言った。


 マルコムはイトを見て目を細めた。

 イトはマルコムの視線を受けて諦めたようにまた川に潜った。


 マルコムの要望通り、イトは魚を二匹捕まえて戻ってきた。

 マルコムはそれをまた捌いた。

 イトはそれを確認すると川から出て、川辺の岩場に腰かけた。


 下着は履いているが、半裸の状態だ。

 長い黒髪と、細身の身体は後ろから見たら女に見えるかもしれないが、背がマルコムよりも高いため、間違ってもそれは無いと言える。あと、細いが筋肉質である。

 綺麗汚いは別として、とにかく温室育ちで嫁入り前のうら若い乙女であるミナミに見せて良いものではない。


「早く服着な。お嬢さんに見せるわけにはいかないから」


「わかっているって…俺だってこんな状況で肌を見せて喜ぶ男じゃない。」


「気持悪い男だな…」


「だって、ほら。モニエル君のせいであざが出来た。」


「普通なら、あざだけじゃなくて…骨が何本か折れてもいいと思っていたのにね…」

 マルコムはイトがさするわき腹を睨んだ。

 イトはマルコムの視線を受けて両手を上げた。

 切れ長の目を細めて、愉快そうにマルコムを見下ろしていた。


「怖い用心棒だ。そんなにあのお嬢さんが大切なんだな…」


「用心棒だから当然だよ…」

 マルコムはイトを睨んだ。


「わーお…怖い怖い…」

 イトは服を着ながら笑った。


「ただのしがない旅人ごときが…ダウスト村に滞在するなんてね。君さ、あの村がどういう村だか知っているくせに…」

 マルコムはイトを警戒している。


 これから向かう村は、少し訳ありの村だが、身を隠すものにとっては都合のいい村だ。

 公ではないため、ただの旅人が知るようなところではないのだ。


 イトは、旅人にしては小綺麗な雰囲気があり、なによりもマルコムの跳び蹴りの衝撃を受け流せる技量と武力を持っている。

 ただ、彼の同行を許したのは、帝国の人間でもライラック王国の人間でもないと確信したからだ。


「元荒くれ者の村だろ?俺は迷いやすいからな…。それよりも明確にそこに向かっているおたくらの方が、気になる身分だな。」

 イトは何でもないことのように言った。


「…お互い、一時的な仲だし、下手なことしたら殺すよ。」

 マルコムはイトを睨んだ。


「確かに…モニエル君と、あの兎ちゃんは…相当な曲者だな…たぶん」


「イシュに兎とか言うなよ…彼はああ見えて、あの外見を気にしているし、あれのせいで苦労もしている…」

 マルコムはイトを睨んだ。


 イトはマルコムの表情を見て驚いたように目を丸くしたが、直ぐににこやかな顔に戻った。

「君は優しいな…あの二人とは長いのか?」


「関係ないだろ」

 マルコムは吐き捨てるように言った。


「一時的とはいえ、行動を共にするんだ。軽く心くらい開いてくれてもいいだろ?仲よくしよう」

 イトはマルコムの前に立って、握手を求めるように手を差し出した。


 マルコムはイトを見上げ、差し出された手を払った。

「生憎…お前には心を開く予定は、無いんでね…」


 イトはマルコムに払われた手と、マルコムを交互に見て困ったように眉尻を下げた。

「…手厳しいな…」


「お嬢さんとイシュが待っているから、早く行くよ。俺達は明るい内に村に到着したいんだよ。」

 マルコムは鉄板に捌いた魚を乗せて、焚火の前の方に歩いて行った。

 イトも溜息をつきながら、マルコムについて行った。


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