山のお兄さん 2
「あ…枝少しこっちでも拾ったから、火は着けたけどまだ足り…」
荷物から簡易的な鍋を取り出し、水を汲んでさらに火を起こして待っていたシューラは戻ってきたマルコム達を見て顔を明るくしたが…
「誰?」
シューラはマルコムとミナミの後ろに付いている男を見て眉を顰めた。
マルコムもシューラと同じく眉を顰めていた。
「やあ、君も仲間か?」
マルコムに頭を下げた黒髪の長髪の男は、爽やかな笑顔で言った。
「行き倒れていた。お嬢さんが放っておけないからって…」
マルコムはミナミを横目で見て、あからさまに溜息をついた。
シューラもマルコムと同じように溜息をついた。
ミナミは二人の表情を見て、申し訳なく思ったが、あのまま放っておけるはずがない。
マルコムに頭を下げた男を見て、ミナミは放っておけないとマルコムに村までならいいのではないかと言ったのだ。
マルコムは明らかに嫌そうな顔をしたが、雇われの身であることと、更には、長髪の男があまりにもしつこそうなことから諦めたのだ。
「ごめん…イシュ…」
ミナミはシューラに謝った。
そんなミナミは、今はその長髪の男に肩を馴れ馴れしく抱かれている。
「お嬢さんが許したなら仕方ないけど…用心棒の身になってよ…」
シューラは赤い目を鋭く光らせて長髪の男を睨んだ。
「何て可愛らしい用心棒さんだろうか…おっと、俺はそっちの気はないから安心して。」
長髪の男はシューラを見て言ったが、なぜかミナミの肩を抱く手を強めていた。
「いい加減お嬢さんから離れてくれるかい?」
マルコムは取り繕う様子もせず、長髪の男を睨んでいた。
「せっかく出会えた女神に…君、顔のわりに雰囲気も怖いし、何か嫌な奴だな。」
長髪の男はマルコムの言葉に大げさに哀しみ、更にはマルコムに喧嘩を売るようなことを言った。
「そんな子供に女神とかほざいている不審者は、嫌な奴以前の変態だと思うよ。」
「子供…かい?まさかこんな立派な淑女に失礼だな。ほれ!彼女は立派な胸だろう!」
男はミナミの胸部を指さして言った。
「お前の方が淑女に失礼だろ変態」
マルコムは辛らつに言った。心底軽蔑した目を向けている。
その目を見て、ミナミはまだ彼から向けられる冷たい目って優しいのだな…と思った。
ミナミの隣でシューラも同じような目を向けている。
「そう言うなら、君たちだって子供だろ?」
男の言う通りマルコムとシューラは童顔だ。
「成人済みだよ。」
マルコムは淡々と答えた。
相変わらず冷たい目を男に向けている。
「傷の君はともかく、そこの兎ちゃんは未成年だろ?」
長髪の男はシューラを指して言った。
「兎!?」
「未成年じゃねえ!!」
マルコムは兎と言われていることに驚き、シューラは未成年に引っかかった。
「いや、だってどう見ても兎ちゃんだろ?」
「お嬢さん。僕あいつ嫌い。殺していい?」
シューラは腰に差した刀に手をかけてミナミに物騒な許可を求めた。
ミナミは後悔した。
いや、放っておけるわけではなかったし、何もしなくても彼はミナミたちに付いて来た可能性が高い。
ただ、一緒に行動することを許可したのは間違いだった気がした。
「はははは…久しぶりに人と話せてうれしくて、少しおふざけが過ぎてしまった。すまない。」
長髪の男は、マルコムとシューラの収集がつかなくなりそうだと思ったのか、慌てて会話を切り上げた。
もう少し早く気付いて欲しかったとミナミは思った。
マルコムとシューラは、一度崩れた信頼(?)は修復しにくいのか、長髪の男の謝罪を受けても彼を睨んでいる。
長髪の男はミナミの肩から腕を外し、マルコムとシューラ、ミナミに丁度囲まれる位置に立った。
「まずは自己紹介だな。俺は“イト”という。しがない旅人で道に迷っていた。」
長髪の男は三人にそれぞれお辞儀をして言った。
大げさに腕を動かして礼をする様に、マルコムは眉を吊り上げた。
「できれば名前を教えていただきたいが…?嫌ならいい。」
イトと名乗った長髪の男は、ミナミたちに自己紹介を促したが強制する様子はなかった。
「モニエルだよ。」
「イシュ…」
順に名乗った二人を見て、ミナミは気付いた。
自分の偽名を…考えていなかったことに…
イトはミナミをじっと見ていた。
「え…えっと…」
ミナミは頭をフル活用してどうにか名前を考えた。
それを見てマルコムは呆れた顔をした。
どう見ても、偽名を考えているのが分かるからだ。
…あ、もう偽名を使うと思われているんだ…
ミナミはマルコムたちの顔と更にイトの顔を見て察した。
なら、もう開き直ることにした。
「私は…ミナミ!!」
ミナミは偽名を使うのを止めたのだ。むしろこっちの方が偽名っぽいのだからいいだろう。
「ほう…ライラック王国のお姫様と同じ名前か…いや、深くは聞かない。いい名だ。」
イトは偽名と判断したようで深くは聞かなかった。
逆に本名を隠せた気がして安心したが、マルコムとシューラの表情は険しい。
ミナミはそおっと二人を見て、頭を下げた。
「なあに…詳しくは仲良くなって訊くさ…女神…っと」
イトは再びミナミの肩に手をかけようとしたが、どこからか飛んできた木の枝の塊に慌てて受け止める体勢に変わった。
「じゃあ、イト。薪の補充と食料の確保しなよ。働いてもらわないとね…」
マルコムはイトを見て、意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
どうやらマルコムが枝の塊を投げつけたようだ。
イトは営業的な笑みを浮かべてマルコムに頷いた。




