山のお兄さん
マルコムの飛び蹴りを受けた男は、呻きながら地面を這いまわっていた。
ただ、しばらく這いまわると痛みが軽減したのか、のそりと立ち上がった。
それを見てマルコムは警戒するように背負った槍に手をかけた。
「…何者だ?」
マルコムは険しい顔をしている。
ミナミは咄嗟にマルコムの後ろに隠れた。
「何者…って、それはこっちのセリフだろー…」
マルコムの跳び蹴りを食らった黒髪の男は、わき腹をさすりながらマルコムを見た。
「しがない旅人だよ。」
マルコムは男を睨んだまま答えた。
「絶対嘘だろ。どこがしがないだ?急に飛び蹴り食らわせるなんて危ないだろ!」
男はマルコムの言葉に不満を垂れるように言った。
彼の言っていることには同意するが、マルコムニ身を守ってもらっているうえに、男は不審者だとミナミは考えている。
「お前こそ何者だ?」
マルコムは男を睨んだままだ。
「…しがない旅人さ。」
男は諦めたようにため息をつきながら言った。
「行こう。お嬢さん。」
マルコムは男の答えを聞き終える前に、ミナミの腕を引いて川辺に戻ろうとした。
「え…ええ?」
ミナミは、流石にそれは無いのでは、と思って後ろを見ると
「おい!!」
案の定、男が飛び上がって怒りを露わにしていた。
抱き着いてきたのもアレだが、彼はマルコムに飛び蹴りされたのだ。
そりゃあ怒る。
「お嬢さん。山で他人に会っても近付いたらダメだよ。」
マルコムは横目で飛び上がる男を見て言った。
どうやらマルコムはミナミのことをお姫様からお嬢さんと呼び変えるようだ。確かに、お姫様だったらすぐにミナミの正体がバレてしまう。
マルコムはミナミの腕を引いて、どんどん歩いていく。
「腕の立つ護衛とどこかのお嬢さんか?…なら、ダウスト村が目的地か?」
二人の後ろから、マルコムに飛び蹴りされた長髪の男が何やら挑発するように大声で言った。
マルコムは足を止めた。
「…村の人間か?」
彼は警戒を露わにして、後ろで立っている長髪の男を見ていた。
「…さあね…だが、俺も滞在している身だ。」
長髪の男は両手を上げて困ったような素振りをした。
何を困っているのか分からないが…
それを聞いて、マルコムはまたミナミの腕を引いて歩き出した。
「え…ちょっと、ま…モニエルさん!!あの人の言っていたこと」
ミナミは長髪の男の言っている村の名前は知らなかったが、そこが自分達の目的地だということはマルコムの様子を見てわかった。それにゆかりのありそうな者なら、もっと話を聞いてもいいのではないかと思ったのだ。
「詳しく話すべきだ…」
マルコムは何か後悔したようなことを言いかけたが、直ぐに警戒するような顔に戻って、後ろを見た。
ミナミもマルコムにつられて後ろを見た。
「待てー!!!」
ザッザッザ…と、後ろから何やら必死な形相で長髪の男が走ってきた。
マルコムはミナミの腕を引いて自分の後ろに彼女の身体を持って行った。そして、自分は槍を構え、向かってくる男に備え攻撃の体勢を取ったが…
ズシャー…と、派手な音を立てて長髪の男は地面に蹲った。
「…は?」
マルコムは蹲る長髪の男を見下ろして呆然としている。
勿論ミナミも何が起きたのか分からない。
長髪の男は、両手を地面につけて勢いよく顔を上げた。
「村まで一緒に行ってください!!お願いします!!」
男はどうやら膝をついて頭を下げていたようだ。
男は先ほどまでの挑発するような表情が嘘のように、へりくだっていた。
そして、彼はとても必死な顔をしていた。
「…どうして…?」
マルコムは少し戸惑っているのか、引きつった表情で男を見下ろしている。
「道に迷いました!!」
ほぼ開き直りのような勢いで男は鼻息を荒くして言った。




