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夜の闇、舞い飛ぶ死1

 ひとまず少年は家に帰した、玄関に消えていくや否や大声で怒られていたが、後は家庭の問題である、母親とは会わずにその場を離れる。


「どうするの?」


「1人置いてきたかもしれない、まず確認しようと思うが」


「一緒に行くよ、やらなきゃいけないことないし」


 その後、適当な飲食店で食事を行う。安っぽいステーキと付け合わせの野菜、牛乳ベースのクラムチャウダーとパン。テーブルの向こうではフィリスが微笑んでいる。日はもう沈んでおり、街灯の少ない外はとても暗い。というか明かりがあるのはこの店だけだ、宿はもう取ってあるものの、この人気の無さは少しおかしい、昼はもう少し人がいた。


「……夜になったら出歩くなってさっきコックさんが」


 窓の外を気にしているとフィリスが小さな声で言う。それは外出禁止令が出されたのか、危険だからやめておけという意味か。

 となればなおさら、いや迷子になって泣くような歳ではなかったし、巨人を一撃ではっ倒す少女ではあったが、放っておく訳にもいかなかろう。せめて封鎖区画の近くだけでも見て見なければ。


「出るぞ」


 何枚かの紙幣を残し、立ち上がってテーブルを離れる。外に出る前に「早めに戻んなよ」との忠告を受け、少しばかり嘘をつきつつドアをくぐった。

 街中とは思えない暗さだ、空を覆い尽くす雲もそれを助長する。直ちにランタン着火、早足に例の場所へ戻っていく。

 本当に誰もいない、家屋も明かりが消えている。風音すら聞こえてもこず、2人の足音だけが反響する。昼間はそれなりに人通りのあった場所なのだが、今はまるでゴーストタウンのようだ。否応無しに体が強張り始め、さらに後方で物音がすれば鼓動が跳ね上がった。


 道端の小石を蹴り上げた音、カランカランと響いた瞬間2人揃って振り返り、しばらく沈黙、フィリスがジャケットの裾を掴む。


「おかしい…さっきまで脳筋しかいない世界にいた筈だ……」


「知の神様とかもいるから……ひっ!」


 続いて金属、空き缶が転がったような音だ、裾を掴むだけに留まらず左腕に抱きつかれた。今のは聞こえなかった事にして、しかし足は早めて目的地へ急ぐ。封鎖区画は元から不気味だったがこうなってはもはや関係無い、立ち入り禁止の看板をガン無視して例の場所へ。


 何かが落ちていた、照らしてみれば緑色、布製のキャスケット帽である。


「ミステリーじみてきたな……」


 間違いなく彼女のものだろう帽子を拾い上げ、スズもこちらに帰還している事を確信。何度かひっくり返して観察したのち、とりあえずフィリスの頭に乗せておく。目を白黒させるフィリスを誘導して退避を開始、少なくともこの近くに探しものはいない。


「っ……」


 が、反転した瞬間気付く、何かが道の先に立っていた。

 黒く、痩せっぽちの人型、背中に翼が生えている。全身がツルツルで、顔は無い。

 バケモノだ。


「ひ……!」


 フィリスが声を漏らす、同時にバケモノも動き出す。前進、手を伸ばしてきて、

 対してフィリスはシドを突き飛ばした。


 呆気に取られる間に彼女は体の正面をバケモノへ、腰を落とし、最初に不良に対してやっていたように右手が何かを握ろう、としたのだが、またもやその動作は中断させられる。

 今度はシドではない、バケモノの背後にいつの間にか現れたオレンジである。


「そぉい!!」


 大剣だ。

 滑り止めの布を巻いた柄の付く削り出し加工、鍔は無く、幅広の剣身から直接柄が生えている。剣身は根本25cm、先端に向かって角度をつけ全体の3割ほどで15cmまで細くなる。そこから剣先直前まで平行線を引き、曲線を描いて先端を形作る。素材不明、ほぼほぼ真っ黒なダークグレーで、表面はざらついた感じ。無骨の極致をいっているそれは剣身長1m以上、柄を含めれば彼女の胸の高さまで届く。そんな巨大な代物を右腕1本で真上へ振り上げ、重力任せに叩き下ろす。


 斬った、というより潰したに近い。接触と同時に超生々しい音を立ててふたつに分割され、しかしいろんなものを撒き散らす前に消失してしまう。切っ先の落着はその後、ズン、と鳴らして石畳を削り取った。

 物理的にではない、アイスクリームをスプーンですくったかの如く円形の凹みが残る。


「やっほー♡ 詰まった場面に即参上! シリアスブレイカーカノンちゃんでーす♡」


「………………」


「あれ……え……?」


 あまりにいきなりすぎて固まってしまった、フィリスは何かを振り抜く寸前、シドは押し飛ばされたそのままピクリとも動かず、ただアイドルみたいなポーズでだだスベりしたオレンジだけがしばらく狼狽える。


「あの…カノンと申します……」


「昼に聞きました……」


「ですよね……?」


 とりあえず硬直を解く、大人しくなった、というかしおらしくなったカノンと向き合って、数秒。


「さっきのは?」


「あぁ、ナイトゴーント、別の言い方をすると夜鬼かね。連中の扱う異形の中では最も下級、大した事はしない。あくまで、キミの心が弱くなければ」


「連中?」


「すぐにわかる。どんな相手にせよ力技で解決できるものはない、立ち向かおうとは思わないように」


 気を取り直した彼女はにやりと笑い、シドにそう告げて目をフィリスに移す。カノンが1歩近付くとフィリスは1歩退がり、2歩近付くと2歩退がり、ばーっと駆け寄れば逃げ切れず抱きしめられた。


「あわわわ…!」


「よーしよしよし! お姉ちゃんって呼んでいいよー!」


「なんでぇ…!?」

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