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隠密のおの字もねぇ奴が隠密行動した結果

 森を抜け出た後すぐにエッジの仲間と合流した、だだっ広ーい草原で、遠くには人里らしきものが見える。

 戦士の数は合計13、シドとスズの他に保護された者はいなかった。戦士達はまず2人の無事を喜んだものの、巨人に捕まった数人の可能性が伝わると目の色が変わる。まず最初に援軍を要請する伝書鳩(どう見てもハトではない赤い鳥)が飛ばされ、次に全員から巨人の目撃情報を集めていく。海岸沿いの岩場に数体が集結しているようだ、とにかく近くまで行ってみようと馬車が用意される。

 で、この馬車がとにかく速い、下手な自動車より鋭く加速する。舗装のされていない道を木製のタイヤでかっ飛ばすもんだから乗り心地が凶悪なものとなり、とてもじゃないが座ってはいられない。途中の大ジャンプで「ギャーー!!」とかやりながら揉みくちゃにされる事しばらく、馬車は海のすぐ近くまで辿り着いた。


「北欧神話って…脳筋なのよ……」


「脳筋なのか……」


 シドとスズが腰をやられて動けなくなる中、ピンピンしてる戦士様方は続々と馬車から降り立ち、崖の上から海岸を見下ろし出す。

 棒立ちである、しかも大声で話している。普通この場合、戦力で優っているなら1秒でも早く襲撃するし、劣っているなら姿勢を低く、物音を立てずに援軍を待つ。従軍した事がないシドとてそれくらいはわかるし、集団戦闘にもっと詳しいらしいスズはじっとりした顔、もう諦めているようだ。


「駄目だ連れ去られた子供の姿は無い! 皆隠れろ! トール様の到着までこの場で待機する!」


 いや遅い遅い、そんな大声で隠れろ言うてる間に地響き始まってるし。


「脳筋なんだな……」


「脳筋なの……」


 大きな岩の手が崖の下から現れる、その時点でようやく戦士達は騒ぎ過ぎを悟った。崖を掴んだ腕が体を引き上げれば周囲の温度が急速に下がっていく。

 先程と同じ巨人だ、ヨトゥン種、霜の巨人というらしい。一般に北欧の神々として知られるアース神族とは敵対関係にあるとされ、しかし頻繁に交流したりあまつさえ結婚したりとかなり微妙な関係で、少なくとも、全面的な戦争状態にはない、伝承においては。


「よっ」


 全身から冷気を噴き出すそれが崖の上に立ち、戦士達が散開を始めた頃、シドとスズは馬車から降りる。シドは借り受けたままの長剣を、スズは符を数枚携え、それぞれ左右に下車、地面を踏む。


「と…ぉ…!?」


 その直前、ザックの内側から光が漏れているのを視界の端に捉えた。原因はわからない、ランタンは消火した筈だ。だとすれば例のオレンジ女に押し付けられた水晶玉か、と思い当たるや、地面を蹴ったシドの右足が体を急加速させた。

 普段どれだけ頑張ってもここまではいかない、というか人間の出す速度ではない。1歩踏みしめるたびに地面が弾け、あっという間に巨人の足元まで到達、減速しないまま剣を足首付近へ叩きつける。


「ーーーーーーーーッ!!」


 一撃で足は離断した、ゾウに似た絶叫と共に巨体が傾いていく。倒れ伏す前にその場を離れ、入れ替わりで符が2枚命中、爆発を起こした。

 前回と違い火炎を伴う爆発だ、しかもかなり威力が高い。追い払うためではなく明らかに殺すための攻撃である。余波だけでシドを含む数人をよろめかせ、航空爆撃が如き轟音と共に巨体の右肩を破壊し尽くす。腕は脱落、遅れて残りも地面とキスし、その後動かなくなった。

 血は出ない、代わりに氷霧を撒き散らしている。


「どした?」


「え……?」


「いきなり動きよくなったけど」


 まだ生きているかもしれないが、ひとまず動かない死体を観察しているとスズが駆け寄ってきた。今の急加速についてはやった本人にも何が起きたかわからない、正直に伝えると彼女はぐっと顔を近付けて、左手をシドの頰へ。


「何もないか……」


 後ろに下がりかけたのを堪えて固まり、スズが離れるのを待つ。眉を寄せて何かを感じ取ろうとしたようだが、すぐに離れ、注意を馬車へ移した。


「そういえばさっき光ってた?」


「よくわからない水晶玉押し付けられてな」


「水晶…?」


 戦士達が巨人の死亡確認と、今度こそこっそり海岸の観察をしている間に馬車まで戻り、ザックを開ける。火の灯る水晶玉を見せると彼女は急に目を見開いた、両手で掴んで上下左右と回し見、確信を持ったのか水晶は置き、しばらく呻く。


「とある子からは捨てろって言われたんだが」


「確かに……いやでも…うぅん…一体何を詰めたのか……」


 なんて感じにうんうんした後、「後でちゃんと調べるからそれまで待って」との結論がなされた。とにかく今はさらわれた子供の救出をしなければならない、ザックに戻して、エッジの元へ。


「この先に洞窟があるらしい、俺達じゃ無理だがお前達なら大丈夫だろう。援軍はまだかかる、すまないが先行してくれ」


「いいか?」


「わかった」


 簡単な地図を渡される、それによるとやや先に天然洞窟があるようだ、指差された先には何も見えなかったが。「これも持っていけ」と鞘付きの短剣も貰い、それを左腰へ。


「じゃ、行くぞ」


 急ごう、手遅れになる前にだ。

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