美少女in 美少女out
「いっで! ててて……あだ!!」
昔見た魔法使い映画の駅に似ている、壁を抜けたらまったく別の場所だった。かなり高い場所に出現させられ、即時落下、土の地面に転がった。両腕を立てて起き上がろうとするも、シドを追ってきた何かが背中に衝突して潰される。
「こんなもん警察が解決できるか…!」
言いながら身をよじれば何かはシドの背中から横に転がった、重しがなくなり、今度こそ周囲の確認を行う。
森林の中に建つ朽ち果てた監視塔、といったところか、この場所は。塔は石積み、崩れかけで、無数のツタが這っている。かなり上から落とされた感じがしたのですぐ出戻りという訳にはいかなかろう、実際、下の方を叩いてみても突き抜けたりはしなかった。
目を森林の方へ向けてみる、先の見えない、おそらくかなり広大な樹海である、無闇に動いても絶対に脱出できないと一目でわかる。
困った、どうすればいいのやら。
「っと……フィリス、大丈夫か?」
唐突すぎて一瞬忘れてしまった、背中に落ちてきたのは彼女のはず。思い出すやしゃがみ込み、横向きに寝転がる少女の肩に手を
「……うん?」
少女の肩に手をかけた。うん、少女は少女だった。
でもまったくの別人なんだな。
体格からして高校生、白いシャツとデニムのショートパンツ、緑のパーカーをファスナーを閉めずに着ている。シャツは長袖、裾に通気性向上の為と思われるメッシュ付きのスリットが入り、襟がやや大きく、セーラー服のような黄色いスカーフが付属している。ショートパンツは長さ太もも上部まで、白シャツの裾に隠れているがベルトにポーチが取り付けられており、拳銃用マガジンポーチふたつ、ライフル用マガジンポーチひとつ、中身は弾倉ではないようだが。
そして彼女のファッションの中核をなすのが上着のパーカーである。明るめの緑地にアクセントとして黄色が差され、かなり大きなフードを持つ。すぐ近くには同色のキャスケット帽が落ちていて、これとセットで用いるのが常なのだろう。掴んだ肩部分の感触からして生地はジャージと同じ素材、分厚くしっかりしている。それ以外に身につけているのは靴下とスニーカーのみだが、前述通りキャスケット帽と、黒い、小型のメッセンジャーバッグが転がっている。
「……えー…」
ひとまず、掴んでいた肩を押す、彼女の姿勢を横向きから仰向けへ直す。右側が肩上まで、左側が胸元までの、ボブカットを左側だけ伸ばしたようなアシンメトリの髪型だ。色は黄色く、しかし下部を中心としたごく一部、主には左側の長い部分のみに赤色が混ぜられている。仰向けにして、両肩を揺らしても目は開かなかったが、右手首を持ち上げ触れてみればしっかりと脈を確認でき、続いて首筋、呼吸、瞼をこじ開け瞳孔と念入りにチェック、ちなみに瞳は赤い方の色だった。
まだ生きている、意識が無いだけだ。
「……」
オーケー、最低限の確認を終えた、あまりに問題的すぎてあえてスルーした最大の問題を口にしよう。
「なんだよこの取って付けたような耳!?」
猫っぽくはないから犬、いや狐か?頭部左右にひとつずつ、上方をピンと向いた三角形の狐耳があるのだ。ちょっと失礼して触らせて貰うとウィッグやヘアバンドなどでは決してなく本物、紛う事なき本物。手触りは毛皮の王カシミヤに近く、不覚にも無駄に何度も撫でてしまった。そのうち我に返り、キャスケット帽を拾って装着、封印しておく。そののちかなり激しく揺らしてみたがやっぱり目を開ける事は無く
「ゔぅーんお母さん醤油ひと回しじゃ足りないってぇ……」
「どんな夢見てんだ……」
などという気の抜ける寝言が返ってきたのみ、思わず額に手を当てる。
さてどうしよう、この狐耳少女を起こす、森を抜ける、フィリスを探す、元の場所への帰還方法を探す、どれを優先するべきか。とりま塔を叩いたりよじ登ったりしてみたものの何か起こる事もなく、このくらいで帰れたら行方不明になんかならんかと一息ついたところで足音が聞こえてきた、振り返って目をそちらへ。
「誰か…いや……いやまずいか」
地理に詳しい現地人かと一度は期待し、しかしすぐ思い直す、これが誘拐のためのトラップだとするなら犯人の恐れがある。一度隠れて、陰から様子を見るべきだ。
背中のザックを前に、さらにメッセンジャーバッグを首にかけ、背中をまるっと空ける。そうしてから少女の両手を上げ、後ろから肩に回して引っ張り、背中で体重を支えつつ自分の両手を彼女の足へ、それで背負い終えた。
よし行こう、素早く、しかし足跡を残さないよう森林へ身を投じていく。