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始まりの朝

朝……

爽やかな朝の陽ざしがカーテンの隙間から部屋へと差し込み、俺は目を覚ます。


「んぁ……」


眠い……

俺が高校を卒業してからはや1か月……

今日は大学の入学式。

これから始まるキャンパスライフに大きな期待と一抹の不安を胸に抱いて俺は支度を始める……


はずだった……


「入試、落ちてなければな」


そう、俺は大学受験に失敗して絶賛浪人中の身だ。

……だが、いつまでも沈んではいられない。


「俺は一生ニートとして生きていくぜ!!」


決意を新たにする4月の朝。


「ではさっそくニートらしく二度寝でもキメこむとするか」


俺は布団に潜り込む。

世の中の皆々が仕事や学業に勤しむ時間……

そんな時間に惰眠を貪るこの優越感……

気持ち良すぎてイキそうだ。


「おはよー!」


そんな俺の幸福は刹那、少女の爽やかな挨拶と共に幕を閉じた。

声の主である少女は横髪を耳にかけながら、布団で横たわる俺を上から覗き込んでいた。


「なんでお前が来るんだよ……」


この少女は桜井(さくらい) 美雪(みゆき)

長く、綺麗な黒髪で清楚感あふれる俺の幼馴染だ。


美雪とは小、中、高とずっと同じ学校、同じクラスだった。

一緒に学校に通うようになってもう10年。

美雪が寝坊助な俺を起こしに部屋へ入ってくるのは、いつもの見慣れた光景だった。


だが、この春からは……


「美雪、今日から大学だろ?」

「そうだよ」


美雪はそれがどうしたと言わんばかりに、きょとんとした表情をする。


「俺は……大学落ちて美雪とはもう一緒に学校に通うわけじゃないし……もう朝来る必要もなくね?」

「それは……そうなんだけど……」


美雪は少し寂しそうだ。


「今まで朝はずーーーっと祐樹と一緒だったから……なんだか朝は祐樹の顔見ないと落ち着かなくて」


美雪は俺から少し目をそらして照れ笑いする。

相変わらず、かわいい奴だ。

美雪は容姿端麗で家庭的、おまけに優しくて勉強もできるスーパースペック美少女。

だからこそ、俺みたいなクズの極みにいつまでもくっついてないでいい人を見つけて、幸せになってもらいたいと思う。


「ダメ……?」

「ダメなわけないだろ~」

「よかった」


美雪は嬉しそうだ。

俺は支度を整えて、美雪を大学まで送る事にした。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





――玄関


「いってきます~」


俺と美雪は母さんに挨拶する。


「いってらっしゃい、あ、美雪ちゃん!今日から大学?頑張ってね~」


俺の母さんは美雪がお気に入りらしい。


「はい!ありがとうございます!」


美雪の笑顔は一際眩しく、輝いているように見えた。

眩しい……眩しすぎるぜ、(自称)闇属性の俺としてはな……





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





――通学路


俺は美雪ととりとめのない話をしながら大学へ向けて歩いていく。

ほんと、いつもと変わらねぇなぁ……


……


美雪の通う大学は四国地方最大の都市、大都会松風市にある私立松風大学。

俺の自宅から歩いて20分くらいのところにある大学だ。

俺も入試に失敗していなければここに通うはずだった。


……


あ……着いた。

そんなこんなであっという間に大学の前にたどり着いた俺と美雪。


「ここまでだね、祐樹……送ってくれてありがと!」

「ああ……勉強に新しい友達作り、頑張れよ」


そう言葉を交わし、俺たちは別れる。

美雪の後ろ姿……長い黒髪は春のそよ風に撫でられて美しくなびいていた。


……見慣れたはずの美雪の姿がなんだが、とても遠く感じる。


……ここに来ると色々思い出してしまう。

美雪と同じ大学に行こうと約束したこと。

勉強のできない俺に毎日、毎日、一生懸命勉強を教えてくれた美雪。

そして、合格発表の日、絶望に打ちひしがれる俺……

でも美雪はそんなダメな俺を責めたりすることは一度もなかった。


ただ笑顔で……


「進む道が違っても私たちはずっと一緒だよ」


……


「なに突っ立ってんだ」


うわっ!

急に話しかけられてびっくりした。


「なんだお前かよ……笠田」

「なんだとはなんだ、相棒」


気怠そうな声でそう言う、この胡散臭い男は笠田(かさた)

小さい頃から美雪や俺とつるんでるもう一人の幼馴染。


「深刻そうな顔してたが……アレか?美雪のことか?」

「まぁ、そんなところだ」

「ほう?」


笠田は不敵に笑いながら続ける。


「まったく……モタモタしてると他の誰かに美雪を取られかねんぞ?」

「殺すぞ」

「目がマジじゃねぇか……おーこわいこわい」

「美雪には美雪にふさわしい男がいるはずだ……どこの馬の骨ともわからぬ男に美雪は渡せん!」

「お前は美雪の保護者か」


「ま、美雪が悪い男に騙されたりしないかは俺が見張っといてやるよ、あいつ純粋で人疑う事知らないしな」

「すまねぇ、恩に着るぞ笠田」

「まぁ、嘘だけどな」

「おい!」

「冗談だよ……」

「どっちだよ!」

「嘘か真か……信じるか信じないかはお前次第だ……ククク」


笠田はこのような意味不明な事を言って俺を困らせるが、いつも大抵いい感じに事を進めてくれる。

もう慣れたものなので、はいはいと俺は受け流す。


「しかしわからんな、貴様が美雪と付き合えば全て解決であろうに」


笠田は首を傾げながら問う。


「それは無理だな」

「ほう、その心は?」

「俺みたいな大学落ちてヒキニート確定人生オワタマンじゃ美雪を幸せにできないからな」

「ふっ……そう自分を卑下することもあるまい、美雪の気持ちも考えてみろ」

「美雪の気持ち?」

「ん~例えば……そうだな……美雪はお前のこと好きだった……とか」

「それはないな」

「ほう?」

「常識的に考えて低スぺ陰キャオタクの俺に美雪が惚れるわけないだろ?」


心底そう思う、美雪はそんな俺にも分け隔てなく接してくれているが。


「ククク……お前は少し、人を見る目……洞察力を養う事をオススメするぞ」

「どういう意味だ?」

「それは自分で考える事だ」


そう言うと笠田はポケットからスマホを取り出し、時間を見る。


「時間だ、また次の休日にでも会おうではないか、相棒」


軽く手を振ると笠田は大学の敷地内へ消えていった。

俺も手を振り返して笠田と別れた。


さてと……


これから始まるニート生活に心躍らないと言えば嘘になる。

何をしようかな~~~~~~


……


う~ん、何も思いつかないな。


……


適当にブラついて帰るか。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





それから俺は適当に一日を過ごした。

駅前のアミューズメント施設でマックスバーガー食って、ゲーセンで音ゲーして……




――松風城堀端 (帰り道)

松風市のシンボル、松風城……

オフィスビルなどが立ち並ぶ市街地のど真ん中で負けじと存在感を放つ深緑の山容……

その頂からこの町、松風市を見守るかの如く威風堂々と聳え立つ松風城。

城へと続く山道の周りは巨大な堀で囲まれており、その中は透き通った水がゆらゆらと流れている。

堀の内側は公園になっており、休日は多くの観光客や地元の人たちで賑わう。

今の季節ならば、公園に植えられた桜が見頃を迎えているだろう。


もう時刻は夕方……

学校帰りの高校生や疲れた表情のサラリーマンとすれ違う。


ふと堀の中に目線を落とすと、鯉が気持ちよさそうに泳いでいるのが見える。


……癒されるなぁ。


そんな事を考えながら歩いていると、スマホがバイブした。


……美雪からのメッセージだ。

大学生活初日は無事終了でこれからも上手くやっていけそうとのこと。


よかったよかった……

俺はほっと胸を撫で下ろす……


さて、腹も減ったし早いところ帰ろう。

今日の晩飯は何かな……

そう思った刹那


「い、いやぁあああああああああっ!!」


女性の悲鳴……!?

俺はすぐに悲鳴が聞こえた方へと走り出した!


…………


ここか……?


人気のない路地裏へとたどり着く。

夕暮れ時に加えてビルの影に隠れた路地裏……暗くて周りがよく見えない。

俺は周囲を警戒しながら慎重に進んでいく……


……


………


その先には……鋭い眼光を放つ謎の生物が蠢いていた……!!

な、なんだアレは……!!


明らかに異形の生物……!

ジェル状のボディの隙間から覗く鋭い目と口……

そしてその口からは先程捕食したばかりと思われる女性の足が血まみれではみ出していた……!


「や、やべぇ……!!」


見た目はRPGでいうところのスライム……だが……

なんなんだよこれは……!!というかこれは現実なのか……!?

あんな生物現実にいるわけ……俺は頭がおかしくなったのか?

眼の前で起きている状況がまったく飲み込めず、俺の頭はショート寸前だった。


意味がわかんねぇ意味がわかんねぇ意味がわかんねぇ意味がわかんねぇ意味がわかんねぇ!!


……逃げなきゃ!


俺の思考がその結論にたどり着いた時にはもう遅かった。

謎の生物は俺の存在に気づき、こちらに向けて鋭い眼光を放つ。


眼光に貫かれた俺は身動きが取れなくなる!


逃げなきゃ!!


そう思っても足は動かない


「死にたくない!!」


そう叫んだ所で身体は言うことを聞かない……


じりじりと、こちらへ詰め寄ってくる謎の生物……

大きな唸り声を上げて、謎の生物はその口を開ける!


「う、うわぁああああああああああああああああ!!」








……





………





俺の意識は……そこで途切れた……


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