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女王と無限の武器  作者: アベワールド
第1章 霧島姉弟 VS 百眼男
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第九話「霧島姉弟 VS 百眼男2 追跡」

「状況は?」

 瞬時に現場に引き返すと、亜里沙が聞いた。 

「あまり良くない……」

 渋い表情で友哉がそれに応じる。

 煙は徐々に晴れて行った……そこには眼前の敵である姉弟を無視するかの様に、何者かを物色する百眼男の姿があった。大目玉を上下左右に不気味に動かし、しきりに何かを探している。

 刹那、百眼男が大きく跳躍した……

 百眼男は一瞬で友哉の上空を飛び越えていた……その勢いのまま全力疾走して何者かを追う。

 奴が地球に帰化してオリンピックに出れば、正真正銘化け物クラスのスーパーアスリートになるに違いない……

 その時、疾駆する百眼男の前に黒い影が立ち塞がった……百眼男の動きを先読みしていたのだ。

 亜里沙だった。

「サイコブレード!」

 亜里沙は無限の武器を起動して、長剣を生成した……剣からほとばしる亜里沙のオーラが、紅蓮の炎の如く揺らめいている。

「これで挟み撃ちと言う訳だ」

 亜里沙が呟いた。


 渋る百眼男の姿がそこにあった……その場で足踏みを繰り返し、鋭利で巨大な歯で歯ぎしりを繰り返している……ギリギリと嫌な音が耳に付いた。

 百眼男の足元には、奴が先程空中で切り落とした追尾ミサイルが転がっていた。

 友哉はミサイルランチャーの生成を解除した――生成を解除された武器と、百眼男が切り落とした追尾ミサイルの残骸が、青白い光と共に蜃気楼の如く立ち消えて行く……

 代わりに接近戦用の武器を生成する――友哉は《サブマシンガンMP5》を生成した。

 青白い光が武器の形状に一瞬で変形し、物理次元に出現する……

 百眼男の三メートルはあろうかという巨躯は、サイコブレードを構える亜里沙の方を向いている。

 友哉が亜里沙に向けて、小さくハンドジェスチャーを送った。

 両手で銃を構え直し奴の心臓に狙いを定める。

 間髪入れずにトリガーを引く。

 百眼男の側頭部に付いた目は、背中にいる友哉の動きを完全に把握していた。

 この怪物に死角は存在しないのだ……

 百眼男が斜め右に大きく跳躍した。銃弾の雨を軽々とかわして行く。

 連射された弾丸は空を切り裂き、彼方の壁へと減り込んで行った。

 ……亜里沙は百眼男の動きを完璧に読んでいた。

 鍛え抜かれた身体は、野生動物さながらの俊敏な動きで、水平方向に大きく跳んでいる――その先に三つ目をギラつかせた巨躯の怪物がいるのだ。

 剣を肩口に構え、体ごと突っ込み突きを見舞う!

 ――驚異の身体能力――百眼男は体をひらりと反転させて、亜里沙の突きをかわしていた。

 攻撃をかわされた亜里沙は無防備だった……体毎敵に突っ込んでいたのだ……

 百眼男の左手の鉤爪が、亜里沙の肩口に向けて振り抜かれた――


 殺られる!

 と友哉は思った……援護射撃が間に合わない……

 キ――――――――――――――――――――ン!

 鈍い金属音が路地裏に反響した。

 亜里沙は長剣と共に生成していた短剣を懐から抜いていた……

 亜里沙の短剣と百眼男の鉤爪が激突したのだ……亜里沙は小悪魔さながらに、にやりと微笑した……

 その刹那、亜里沙の短剣が赤色に変化して行った……

 百眼男が苦悶の表情と共に絶叫した……紅蓮の炎に包まれた亜里沙の短剣が、百眼男の鉤爪を削ぎ落としたのだ。

 エイリアンの緑色の鮮血が、水芸さながらにばら()かれて行く……亜里沙の顔面と戦闘服に返り血が迸った。

 追い打ちだ! 友哉がサブマシンガンを構えて連写の態勢に入る。

「くたばれええええ!」

 百眼男が苦悶の表情で左手を抑えて、上空へとジャンプした……怪物は一蹴りで、五階建てマンションの屋上に飛び移っていた。


「逃がすか!」

「我々も屋上を伝って奴を追う。付いて来い……」

 亜里沙が振り向きざま友哉に言った。

 姉弟はミュータントの身体能力を使って、ビルの屋上へとジャンプした……ミュータントは種によって、驚異的な身体能力を備えている……超能力同様、普段は使用が制限されている行為だ……

 姉弟は百眼男を追ってビルからビルへと飛び移り、屋上から追跡を続けた。

 しかし姉弟の跳躍力はせいぜい二十メートル前後、次第に百眼男の姿は視界から遠ざかって行った……

「逃げられる! どうする亜里沙!?」

 亜里沙は落ち着き払った動作で、ビルに点々と飛び散る緑色の血痕を指差した。

「敵は出血が激しい……血痕を辿って追跡する」

 やがて点の様に小さい百眼男の背中が、スモッグで煙るビルの谷間へと消えて行った……しかしその最中にも、鉤爪を削ぎ落とされた左手からは、大量の血液が散布されているのだ……

「そう遠くには行けない筈だ」

 鉤爪を削ぎ落した張本人である亜里沙が囁いた。

 ――時刻は既に午後五時を回っていた。血の色で染まる狂った太陽は、今は住宅街の中に身を潜め、名残惜しそうにその役目を終えている……代わりに訪れるブルーモメント……陽が完全に落ちるまでに、我々は連続猟奇殺人鬼を見つけ出さなければならないのだ……

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