表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女王と無限の武器  作者: アベワールド
第2章 異星のマリオネット
43/70

第一二話「第二ステージ」

 邪悪なエイリアンが地球への航行を開始した頃、内閣特務捜査官の訓練生・早見小夜の鬼の特訓は続いていた……

 無論この時の小夜はまだ、訓練生である自分が、奴等SAMIAとの戦いに巻き込まれることになるなど知るよしもなかった……


 ――内閣特務捜査官、訓練第二ステージ、訓練初日、一三時丁度。

 小夜が二〇日に渡り通い詰めた訓練室に戻って来た。

 桑原教官の指導のもと筋肉の声に耳を傾け様とした毎日ではあったが、可愛い物をこよなく愛する少女の耳には、結局その声が届くことはなかった……幸いである。

 小夜は訓練室の鉄壁の扉の前に立ち一人思案に暮れていた。

 ……今日から第二ステージが始まる……新しい教官の元、本格的な戦闘訓練がスタートするらしい……小夜は少し不安だったのだ。

 初日の日に付き添いに来てくれた霧島姉弟は今はいない……何でも内閣特務捜査官の司令官Kさんから緊急の用事で呼び出されたとか言っていたけれど……

 その内容はまだ訓練生ではあるが、捜査官候補生の小夜の心をざわつかせるには十分な内容だった……

 何でも人工衛星が地球に近づいて来るUFOの存在を捉えた……とか言っていたけれど……

 正直言って恐い……

 未知の存在と聞いただけで、小夜の記憶は自分を“人外(じんがい)”へと改変した百眼男の記憶へと繋がってしまうのだ……

 小夜の中でエイリアンに対する凄まじい憎悪と、それに匹敵する程底の無い恐怖が未だ葛藤していた。

 驚いているのは……この仕事に首を突っ込んでから……まだ見習いだけど……エイリアンに関する情報が実に頻繁に耳に入って来る……ということだった。

 司令官Kさんは「とにかく慣れて貰おう!」という理由で、お姉ちゃんお兄ちゃんを通して私にエイリアンに関する情報を伝えてくれているけれど……

 最低でも月に一、二度のペースで、何らかのエイリアン事件がこの表面上は平和な国で起こっているのだ。

 ……私は私が体験した悍ましい恐怖を他の人に味わって欲しくない! もうこれ以上私の様な存在を増やしたくはない! 

 だからっ!! 

 小夜は小さな拳を握り締め決意を新たにしていた……

 訓練室の鉄壁と目される扉の前に立ち、セキュリティカードをかざす。

 いつもの様にゴ――――――――――――――――――――――――ッと言う異様な程重々しい音と共に、鋼鉄の扉が上にスライドして行く。

 ――扉の真正面にその男は両腕を組み微動だにせず立っていた。

 身長は一八〇センチぐらいだろうか?

 前任の桑原教官程大きさは無い……彼は身長と鎧を思わせるその筋肉量において規格外の存在だった。しかしだ! 扉の前に立つその男には他の人間を威圧して止まない圧倒的な迫力があった……何よりもまずビジュアル面において……

 ――男の名は“田島剛三”。

 頭のてっぺんからつま先まで全身にタトゥーの入った……股間にもタトゥーが入っていると噂される見るからに凶暴な入れ墨男だった。


「アワッ……アワワワワ……」

 その見るからに凶暴そうな教官を前にして、小夜は後ろを向いて一直線に自宅へと帰りたくなったのだった。

 頭はスキンヘッドで、ツルッツルッのピッカピッカ!

 オイルでも縫っているのか!? と思われる程の見事なまでの光源の反射ぶり。

 彼の頭を中心に照明の光が三六〇度全反射しているのだ! 人工物ではない天然のレフ版がそこにあった。

 ……それにしても桑原教官といい、内閣特務捜査班の教官はスキンヘッドが彼等の正装!? つまり大人の人が着るスーツの様なものなのかな!? 小夜は思わず訝った……

 やっぱり合格と同時に頭を丸坊主にしないと捜査官にもなれないのかな?

 ……色々と社会経験の無い小夜は、自ら好んで丸坊主に成る人がいるという事実を理解してはいなかった。

 しかし真に驚くべき所はそこではない。

 田島教官は全身にタトゥーを入れており、キャンバスとも言える人体には、もうほとんど絵を入れる隙間が無かった……

 彼が唯一身に纏っている短パンを剥いだらそこには一体何が出てくるのかな!? 禁断の好奇心に駆られる一人の少女がそこにいた。

 それはともかく……現状でとにかく目立つのは、右胸に描かれたタランチュラの刺青と、お腹に君臨する巨大なドクロ、そして両肩に生息する牙から涎の垂れたコブラの刺青である。

 でも……でも短パンを剥いだら……今だ禁断の好奇心に駆られる一人の少女がそこにいた。


 田島は小夜を真っ直ぐに見据えると、一直線に大股で近づいて来た……

 同時にお腹に彫られたドクロも鋭い眼光で小夜の元へと近づいて来る……

 田島の余りの圧力に思わず呼吸が止まる。全身の震えが止まらなくなる。

 ……恐いっ! 恐すぎるぅ――っ!!

 小夜は田島と彼のお腹に君臨するドクロの圧力に負け、思わず田島から目を逸らした。

 そんな小夜を田島教官が一喝する!

「目を――――逸らすなあ――――――――――――――――――――っ!!」

 彼の一喝は訓練室に反響し、一瞬訓練室の空間全体がたわんだ様に感じられた。

 小夜は鼓膜に激痛を感じ、思わず両耳を押さえた。

 耳と、それに頭も痛い!

 前任の桑原教官といい一体全体どんな技なんだろう!? 一喝で物理的な部屋をたゆませることが可能なのかな? 小夜はそんなことを訝っていた。

 人間技じゃない!?

 そんな田島は勿論純粋な人間ではなかった……何よりもまずビジュアル面において……

「いいかっ! 試合中はどんな時でも敵から目を逸らすなあ――――――――――っ!」

「し……試合ですか!?」

 小夜は思わず聞き返していた。

 いつの間にどこで誰と試合が始まっていたの!?

「いいかっ! もう一度言うぞ! どんな時でも相手からは目を逸らすな! その相手が貴様の肉親でも、大好きなペットでも、毎晩貴様とHを楽しんでいるボーイフレンドでも同じことだ! 分かったかあ――――――――――っっ!!」

 ……いないし、してないっ!!

 小夜は思わず言葉が出かかったが何とか黙ることに成功した。

「人生は試合だあ――――、返事はあ――――?」

「フ――ヤ――!!」

 小夜はそこで桑原教官から指導された号令を返した。

 すると田島教官はぶるぶると身体を震わせて、その鋭すぎる眼光で小夜をギラリとめ付けた。それだけで思わずちびりそうになった小夜だった。

「ちっが――――――――――――――――――――――――――――――うう!!!」

「ひいいいっ!」

 田島と田島の保有するドクロやらコブラやらタランチュラやらが、鋭い眼光で小夜のことを一斉に睨み付けた……今にも喰われるんじゃないかという圧倒的な迫力がそこにはあった……

 それに……

 気のせいかな!?

 肩口にペイントされている筈のコブラが今鎌首を振って威嚇した様に見えたけど……

「いいかあっ! 訓練生・早見小夜――! 返事はだなあ……」

 田島はそこで一呼吸置くと訓練室をたゆませる程の大声を腹の底から放出した。

「ウ――ラ――――――――――――――――――――――――――――!! が正しいのだ!!」

「いいかあ? それだけは絶対に忘れてくれるなよ! 他は認めん!」

「二度は言わんっ!」

 そこで田島は何故だかしつこく念を押した。

 ……何か決して触れてはいけない地雷を真上から踏み抜いたような……

 小夜は理由は尋ねずに素直に田島教官に従うことにした。

「分かったのかあ――――――――???」

「ウ、ウ――ラ――!!」

 小夜は「フ――ヤ――!!」改め「ウ――ラ――!!」の掛け声を腹の底から絞り出した。

「よし! それでいいのだ! それで! 掛け声はウ――ラ――!! が正しいのだ!!」

 一体何に納得しているのかは全く持って不明だが、田島はしきりに一人でウンウンと頷いていた……

 後になって米海軍の掛け声が「フ――ヤ――!!」で、米海兵隊の掛け声が「ウ――ラ――!!」であることを知った小夜だったが、そのこだわりが果たして自分の訓練に何の意味を持つのかは全く持って理解出来なかった……

 

 小夜の第二ステージは、入れ墨男と「ウ――ラ――!!」の掛け声と共にこうして波乱の幕開けをしたのだった。

 しかし小夜が予想できなかった真のサプライズは、新たな危険人物の登場と共に、この直後に起きたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ