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女王と無限の武器  作者: アベワールド
第1章 霧島姉弟 VS 百眼男
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第一一話「新たなるミュータント」

 小夜は意識が朦朧(もうろう)とした状態で大学病院に担ぎ込まれていた。

 大きな外傷は見えないが一人では歩くことさえ出来なかった。目は虚ろであり焦点は結ばない……

 専門の医師でなければ一週間程入院させて、原因不明のこの病に対して精神疾患の烙印を押すことだろう。そして閉ざされた精神病院で一生を過ごさせるのだ。

 事実この時小夜は、半日間の記憶がまるで無かったのである……それは百眼男に[チップ]と呼ばれる金属片を脳内に埋め込まれ、摘出されるまでの時間と一致していた。

 警察からの知らせを受けた小夜の母親が病院に到着したのは、百眼男に誘拐されてから二時間後のことだった。

 初め母親は、迷子の捜索を出していた我が子が見つかったことを心底喜んだ。

 しかし電話口で娘の意識がはっきりしないと言われたこと、そして到着した病院の警備が物々しいことに顔をしかめるざるを得なかった。

 娘の身に何かとんでもないことが起きたことを直感したのだ。

 自然と小走りになり、娘のいる病室へと一直線に向かう。

 病室の扉の脇には二人の黒いスーツ姿の男が立っていた。背は高く見るからに屈強そうだった。

 母親が扉に近付いて行くと、二人の男は扉の前に立ち塞がった。

「小夜の母親です。娘……」

 動揺して言葉に詰まる。

「娘に合わせて下さい!」

 その言葉に、二人の男は応じなかった。視線を母親に向けたまま、扉の前から動こうとはしなかったのである……言葉が通じないのだろうか? 相手の頑なな態度に母親は動揺した。

 すると、いつの間に現れたのだろう? いきなり背後から一人の男に呼び止められたのである。

 振り返るとそこには、長身でひょろりとした体形の陽に焼けた男が立っていた。彼等の正装なのだろうか? やはりこちらも黒のスーツ姿だ。顔に若干刻まれた皺は四十代を思わせる。

「失礼ですが、早見めぐみさんですか?」

 低く落ち着い声で男は言った。

「ええ……」

「小夜ちゃんのお母さんですね?」

「はい。早見小夜の母親です」

 この場合、他に言う言葉があるだろうか? 私は一刻も早く娘に会いたいのだ!

「私は内閣特務捜査官の司令官、加河田慶志朗と申します」


 母親は加河田と名乗る男に案内され、病室の中へと入って行った。病室にはベッドに寝かされた娘、白衣を着た医師と看護婦、秘書を思わせる落ち着いた感じの女性、そして二人の黒いスーツ姿の男が立っていた……男達の懐は明らかに膨らんでおり、何か武器を携帯していることが伺える。

 物々しい警備、重苦しい雰囲気だった。でも母親にはそんなことはどうでも良かったのだ。

「小夜、小夜!」

 母親は娘の名を叫びながら、ベッドへと近付いて行った。

 そのまま娘の手を握ろうとする母親を医師が制した。

「娘さんは極めて危険な状態です。接触は控えて下さい」

 医師は厳しい表情で母親に言った。

「小夜さんは四十五度を超える高熱にうなされています。今は意識も有りません」

 医師の傍らに立つナースが続けた。

「そんな!? お昼に買い物に出かけた時には、微熱もありませんでした」

 加河田と名乗る男が、小夜の眠るベッドの脇に立ち言った。

「娘さんは極めて特殊な病原菌を、体内に埋め込まれたのです。今から二時間前、小夜ちゃんがお母さんとはぐれた時のことです……高熱はその為です」

 医師はその後で、絶望的な言葉を母親に告げた。

「尽力しますが――助かる見込みは五分五分です」

「嘘……でしょう!?」

 母親の細い体は小刻みに震えていた……顔面は真っ青になり、その場にストン! と膝を付いた。それを見た秘書を思わせる女性が、下から母親を抱きかかえた。

「一度休ませますか? 司令官」

 女性が司令官と呼ばれる男に伺いを立てる。

「否、我々には時間がない。続行させてもらおう」

「大丈夫です……」

 やり取り聞いていた母親は、弱々しい声で応じた。女性の肩を借り、何とか立ち上がる。

「今病原菌を埋め込まれたと言いましたよね、その加河田さん……」

 母親は危うく、その男の名前を噛みそうになった……

「長ったらしい名前でしょう? フルネームは誰も憶えてくれません。最も私の方は、この名前を案外気に入っているんですがねぇ。なんだかんだでもう四十年以上の付き合いになります。まあ腐れ縁と言う奴ですよ」

 男はそう言うと微笑した。

 綺麗な笑顔だ……と母親は感じた。

「私のことはKと呼んでください」Kが母親に言った。

「その……Kさん。今……病原菌を体内に埋め込まれたって言いましたよね? それって……」

 母親はなんとか言葉を絞り出した。

「明らかに犯罪じゃないですか!」

「そうですね、奴のしていることは間違いなく犯罪行為です……この国の法律においては……ですがね……」

 母親はKの含みのある表現が気に入らなかった。

「完全に犯罪です! 今すぐ犯人を捕まえ下さい!!」

 気が付くと母親はKに詰め寄っていた。

「勿論そうしますよ。早見めぐみさん。しかしですねぇ~~」

 Kは顎に手を当てると渋い表情をした。

「彼等には犯罪を犯したという認識がないのです――彼等には彼等の観念があり、宗教があり、法律がある……彼等には我々の常識は一切通用しない……交渉の通用しない厄介な相手……と言うことになりますねぇ」

「テ、テロですか!? 娘はテロの標的に、偶然なったと言うことですか! ただそこにいたという理由で!」

「広義ではそうですが正確ではありません」

「………………………………………………」

 母親は目まぐるしく頭を回転させていた。

 ……テロで無いと言うのなら一体何だろう? 国際犯罪だろうか? 拉致や監禁の類なら尚のこと達が悪い。彼等は日本の力の及ばない場所に家族を連行し、成りすましや情報を引き出す為の駒に利用するのだ。

「拉致や監禁の類でも有りません……」

 Kは母親の意図を察した様に告げた。

 ……では何なのか!? 自分の娘は何の為に利用されようとしたのか? テロでもなければ、国際犯罪でもない……一体全体!?

 そこでKと名乗る司令官が告げた内容は、予想だにしないものだった……

「早見小夜ちゃんはエイリアンに誘拐されたのです」

 母親は唖然として言葉を失った……ようやく口を開いたのは一分後のことだった。

「冗談でしょう……」

 と母親は言った。


 その後の説明は、Kの隣に寄り添う秘書を思わせる女性が行った。

 名前は立花玲子と言った。

 立花は病院中を警護する捜査官を母親に見せて行った。病院の正門、エレベータの前、階段、非常階段、小夜の病室、病室の扉の前に彼等はその目を光らせていた……二十人は下らない。つまり冗談ではないのだ……たぶん。

 その後立花は、公にはされていない、地球人とエイリアンとの交流の歴史を淡々と語った……

 立花の話を引き継いで今度はKが話を始めた――

 Kは母親に、娘がもう元の状態には完全には戻らないこと。

 娘が助かったとしたとしても、何かしらの後遺症が残り、精神的・肉体的に変容する可能性があること。

 チップと呼ばれる金属片が体のどこかに埋め込まれており、摘出しなければならないこと。

 犯人逮捕に協力して欲しいこと。

 内閣特務捜査班の仲間になって欲しいこと。

 そして最後に、彼等の仲間になった場合、早見家を経済的にバックアップする用意があることを告げた。

 ……犯人逮捕への協力? 我々の仲間になれ? 内閣特務捜査班?

 話を詰めなければならないことが、余りにも沢山ありそうだが……私達は母子家庭だ……経済的に支えてくれるのはありがたい……それに何より、娘は今現在も高熱にうなされて苦しい思いをしているのだ……決断すべきは今だ。

 しかし、知らない者と握手をするためには、その相手のことを良く知る必要もある。

 母親は初対面から抱いていた疑問を最後にようやく口にした。

「あなた達は何者ですか?」

「早見めぐみさん……」

 Kは一拍置いてから言った。

「私達が所属するのは内閣府の組織である《内閣特務捜査班》」

「私達はエイリアンと地球人とのハーフ」

「つまりミュータントです」

「……ミュータント……ミュータントですって……つまり、人間ではない!?」

 母親は更なる衝撃に、その場に立っているのがやっとだった。

 ミュータント???

 SF映画だけの話しではなかったの!?

 そして今、その代表者が私の目の前にいる!?

 つまり政府は情報を隠蔽していると言うこと!?

「はい」

 Kは力強い声で回答を返した。

「私達はミュータントを中心に構成された組織です」

「つまり……」

「私達は小夜ちゃんと同じです」

「――――――――――――――――」

 頭をハンマーで殴られた様な衝撃を憶え、母親はその場で卒倒した。

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