第八話
翌日の朝、サバティエル魔法学園の全生徒は学年・クラスごとに分けられた状態で実技演習が行われるコロシアムに集合していた。
一週間に一回、こうやってコロシアムに集合して学園長の話を聞くということが行われるらしいけど今日行われたのはそれに加えてお披露目会の開会宣言を行うため。
3年生にとっては将来の進路に直結するかもしれない大切な行事、2年生にとっては去年の評価からどれだけ評価を上げられるか、そして1年生にとってはただの行事。
コロシアムに集合した全生徒だったけどフィールドとなる大部分の場所を占めているのは属性科の生徒たちで半分以上がそいつらが座っており、属性クラスが陣取っている広さの半分程度を強化科の奴らが座り、俺達超常科は一列しかならべないような狭い場所に座っていた。
というか一列で済む全クラス人数って何人だよ。
「なあ」
「なんですの」
「超常クラスって何人いるんだよ」
「全員で14人ほどらしいですわ」
リアルに俺は僻地の小学校に転勤してきた教師のような気分だな。
まあ、それだけ超常魔法を使う奴らは超常魔法専門の魔法学園に行ってるって話だよな。
『これにて私の話は終了とする。ではこれよりお披露目会を開始しようではないか』
学園長がそう宣言した直後、属性科の連中が大きな声で叫び始める。
属性科の随分な気合の入り方に比べて超常科の気合の無さは比べる気にもならないほど静かなもので誰一人として嬉しそうな顔はしておらず、それどころか面倒くさそうな表情をしてるやつらが多い。
お披露目会における模擬戦で勝敗を判定するのは審判を務める教師の采配らしく、圧倒的な差があると判断されればすぐに判定が降りるけど実力が拮抗している場合はどちらかの魔力が尽きるか、気を失って倒れるまでは続けさせるらしい。
ちなみに全ての授業時間をこれに充てて1週間かけてやるらしい。
「イリナ、お前は観客席行くのか?」
「ええ。そこで自習をしようかと。というか教室には入れませんし」
「ふ~ん。あ、飛んでくれよ」
「……仕方有りませんわね」
大きなため息をつきながらもイリナは俺の手に触れ、お得意の瞬間移動で観客席へと俺と一緒に一瞬で移動した。
瞬間移動は便利そうに見えて実は色々と弊害があるらしい。
まず第一に集中力が途切れると望んだ場所に飛ぶことができないし、全く見当違いの場所に飛んでしまう事もあるらしい。
そして第二に自身の頭の中にそこの景色が詳細に残っているかがキーとなるために行ったことがない場所には転移できないらしい。
そして第三に触れていないものは転移できない。
上位クラスになると視界に入っているものを記憶のある場所へ移動させることが出来るらしいがどうやらまだイリナはそこにはたどり着けていないらしい。
イリナは模擬戦には一切興味がないらしく、教材を開いてそこに視線を向けている。
試合形式は一対一の勝負だけど三十分以上経過してしまった場合はそこで打ち切りとし、次の試合を行うらしい。
ちなみに対戦相手はランダムに選ばれるらしく、テレパシーの魔法を使う先生によってその生徒に次ぎ、試合ですよってな感じのメッセージが送られるらしい。
感じ的には耳元で囁かれる感じらしいけど。
「お、次アンナじゃん」
「どうせ彼女が勝ちますわよ」
「なんで?」
「知りませんの? 彼女は」
――――刹那
「っっ!?」
凄まじい爆音がフィールドから聞こえ、慌ててそっちの方へ視線を向けるとそこには倒れている相手と無傷のアンナが立っていた。
たったの一撃で相手を倒したのか……ということは入学式の時のアンナは全力を出していなかった? 逆に俺達がいたから威力を加減していたりしたのか?
周囲は至極当然と言った感じで俺の様に驚いている奴らはいなかった。
「彼女は炎帝・プロメテウス家の娘ですわ」
「……え、炎帝って何?」
「貴方そんなことも知りませんの? 炎帝とは代々、炎の魔法を扱う一家につけられた二つ名。聖獣・フェニックスを使い魔としていることも有名でこの国では最強の炎の属性魔法使いですわ」
そんな最強クラスの家の娘がアンナ……そう言えば行事の時に戦った相手の一人が落ちぶれ貴族とか言ってたけどあれはどういう意味なんだ?
でもまあ、他人の家のことをあまり詮索しない方が良いしな。
アンナはそのままゆっくりと振り返るとフィールドを降りた。
……気のせいか? あいつの表情、どこか悲しそうというか寂しそうな感じだったような気がしたんだけど……遠いからただの勘違いか。
「これいつまで続くんだ」
「本来の授業時間までありますわ」
「何時くらい?」
「……何時とはなんですの?」
……え、この世界って時間の概念どうなってんの? 砂時計はあるのに……そう言えばこの世界でまだ時計を見たことないな。
もしかして空が明るければ朝・昼で暗くなったら夜って感じなのか。
「あ、いやなんでもない。どれくらいまでやるんだ?」
「夕方くらいでしょうか」
太陽の高さ的にあと8時間くらいか……にしてもまさか3分っていう概念はあるのに何時っていう概念がないっていうのもまた凄い話だよな。
でもそっちの方が良いかもしれないな。時間に縛られない生活ってやつを一度は経験してみたかったし、それにスマホとかも一切ポケットに無いからそう言うのにも悩まされる必要はない。
……でも今頃母さん、俺のこと必死に探してんのかな……はぁ。早くあっちの世界に戻りたいな……加奈もまだ小学生だし、暗いところ苦手だからな……俺がいてやらないと一人ですら眠れない奴だったし……。
「ユージさん?」
「へ? あ」
イリナに声をかけられ、ようやく気付いたが俺はどうやら泣いていたみたいだ。
慌てて制服の裾で涙を拭き、とりあえず笑顔を浮かべておく。
やっぱりあっちの世界のこと思い出してたら泣くよな……でも今はこっちの世界でとりあえず生きて、後々向こうの世界へ帰る方法を見つけよう。
こっちの世界に来た時は壺に吸い込まれてたから今度も壺に吸い込まれてあっちの世界に帰ることができたりしてな。
「はぁ。行ってまいりますわ」
「あ、おう。頑張ってな」
大きくため息をつきながらイリナは瞬間移動にてどこかへと消えた。
彼女が座っていた座席に置かれている教材を見てみるとこちらの言語で何やら書かれているが部分的に読めるだけでまだ文章全体を把握するには少し時間を要する。
これでも英語の成績は学年でダントツに良かったからな。新しい言語を覚えるのも時間はかかるだろうけどとくにきついわけじゃない。
ふむふむ……超常クラスでも属性魔法のことは学ぶんだな………………ほうほう。基本的に一人一つ、もしくは2つの魔法が宿るけど稀に全ての魔法が宿ることがあるらしい。
3つすべて宿した魔法使いが歴史上ただ1人、このサバティエル魔法学園を設立したサバティエルという魔法使いだけ。
うん、時間をかければ短い文は読めるようになったな。
「イリナが闘う相手は……パッと見で強化科の奴らか」
強化魔法は主に身体能力の底上げを行う魔法。
腕力・脚力・張力といった基本的な身体能力の強化はもちろんのこと、視力とかも強化でき、上位クラスにもなれば凸ピンだけで建物一つ普通に壊せるくらいになれるとか。
イリナに向かって相手が殴りかかるが彼女の姿が一瞬にして消え、相手の背後へと回り、その手に小さな炎をともして相手に向かって放った。
属性魔法を扱う事が出来る人は多く、大体は2つの魔法を扱う事が出来るらしい。
イリナの様に超常魔法でも属性魔法を使える。
属性魔法を使う奴が超常魔法を使う事は出来ないらしく、ある意味超常魔法はレアな魔法。
「あ、諦めた」
イリナが両手を上げて降参の意を示し、フィールドを降りた。
属性魔法と強化魔法の2つは同じレベルで使えるようになるらしいけど超常魔法を使う奴がどちらか片方を使うときはかなりレベルが下がってしまうらしい。
だから超常魔法が上位クラスの者でも属性魔法を使うと下位クラスの威力しか出せない。
「疲れましたわ」
「試合始まってまだ少ししか経ってないのに」
「強化魔法と戦っても勝ち目ありませんもの。相手の攻撃を避け続けることは出来ても相手に止めを刺すことはできませんし」
「まあ、そうだけど」
『トコヨユウジ君。君の番です』
うぉ!? 本当に耳元で囁かれた感じだ。テレパシーの魔法って凄いんだな。
「じゃ、行ってくるわ」
「ええ」