第六話
翌日の朝、寂しい寂しいSHRの後、またもや自習となっているわけだが昨日とは違い、若干こちらの言語の理解は進んでいるので一文ならば三十分あればどうにかして半分は読めるようになった。
うん、大きな前進だ。何事も努力だな。努力なくして成功は無い、成功なくして成長は無い。うん、良い言葉だ。
「あ、思い出した」
「何がですか? 朝飯食べ忘れたとかですか?」
「それもあるが」
「食べてないのかよ」
通りで昨日に比べて面倒くささに拍車がかかっているのか。
朝飯を抜くと本来のパフォーマンスを発揮できないって言われているくらいに朝飯は大事だからな。生まれて早十五年ほど経つがこれまでに一度も朝飯を欠かしたことはない。
朝はやっぱり白飯と味噌汁、それと納豆……そういやこの世界に納豆とかないよな。大豆っぽい奴はあったみたいだけど。
「で、なんですの? 先生」
「うん。お披露目会があるんだった」
「お披露目会?」
「簡単に言えば魔法のお披露目兼模擬戦。観客を大勢呼んで生徒同士を戦わせるってやつ」
「確か騎士団関係者も数多く来ると聞いていますが」
「来る。中にはそこでスカウトされた子もいるし」
要するに品評会みたいな感じか。今年はどんな新人が入ってきたかを確認したり、去年のあいつはどのくらいまで成長したか、とかを確認するんだろうけど。
簡単に言えば上級生は卒業後の道を、一年生はただ単に評価してくれる人を探す、みたいな感じだろう。
「しかもしかもここだけの話し。女王陛下も来るとか」
「へ、陛下がですか」
「うん。他の学園もまわって最後に来るらしいけど」
この世界は女王が統治してるのか……通りで貴族とかが存在してるわけだ。王族があれば貴族もあっても何らおかしくないからな。
「そこで勝ったらどうなるんですか?」
「勝ったらそれなりの評価は貰えるし、将来の道もある程度補強されるし、卒業後は色々なところから声をかけられるかもしれないし」
卒業後……か。
俺は今でも元の世界に戻りたいと思っているけど正直、一週間や一カ月程度で元の世界へ戻ることが出来る方法が見つかるとは思っていない。
最低でも一年は見積もってるけど下手すれば一生この世界で生きなきゃいけなくなってしまう可能性だって大いにあるわけでむしろそっちの方が今のところは高い。
だから一応、こういうのもやっておくべきなんだろうな。
「まあ、勝つに越したことはないから頑張ってね……でも超常クラスって今、成績悪いんだよね」
「まあ、属性魔法や強化魔法と違って攻撃に転換できませんしね……それに比べて貴方は超常魔法では珍しく攻撃性が抜群ですわね」
「触れただけで全部壊すからな。ちょっと頑張ってみるか。今のところ超常クラスってどこまで行けてるんですか?」
「大体、1人2人相手には勝つけどって感じかな。超常魔法はなかなか攻撃面がね」
超常系っていうとイリナの瞬間移動だったり、テレパシー・透視・予知とかそういう系の魔法が集められているだろうし、それらを攻撃面で生かすのは難しいかもな。
先生みたいに重力魔法とかだったら重力を強くして一気に押しつぶしたりとかできるだろうけどテレパシーでどうやって攻撃するんだって話だしな。
そんなことを考えていると授業が終わったことを告げる鐘が鳴り響く。
「ま、そんなに気張らずに頑張ってくれ。次の時間は実技演習だから実験室に集合。2年生と合同でやるから」
「はぁ……イリナ、行こうぜ」
「一人で行ってくださいまし。貴方と変な噂が立つのは嫌ですわ」
俺は変な噂が立ってほしいんだけどまあそれは無理な話だろうな。
トホホ……向こうでもそうだったけどこっちでもどうやら俺は女運がないらしい。
――――☆――――
1人寂しく実験室に向かうと既に2年生が集合していて担当教師らしい男の先生もいた。
2年生全員と1年生を合わせても10人いかない人数しかいないなんていったいどこの僻地にある小学校なんだって話だよな。
まあ、超常系の魔法を使う奴らは全員違う魔法学園に進学するって言っていたから仕方ないって言えば仕方ないんだろうけど。
「君が新入生?」
後ろから声をかけられ、振り返ってみると青い短髪でオールバックにした女子がいた。
すげぇ、オールバックが似合う女子なんて初めて見た。
「あ、はい。常夜雄二です」
「トコヨユウジ。噂通りにおかしな名前なんだ。あたしはミウォル・シュバン。魔法は透視魔法。君の体をスキャン!」
変な笑顔を浮かべながら俺の全身を舐めるように足の先から頭のてっぺんまで見るとポケットからメモ帳を取り出し、ブツブツと言いながら何やら数値を書いていく。
今ので分かった。この人超絶な変態だ。
「へぇ。大きさは男子の平均以上。これは中々」
「な、何言ってんすか!?」
「固くなるとさらに……ゲヘヘヘヘ」
こんな公衆の面前で恥ずかしくないのかミウォル先輩は下卑た笑みを浮かべながらただひたすら何を計算しているかもわかりたくない計算式を展開しながらブツブツと呟く。
この人はいったいどんな意味で透視魔法を利用してるんだ! この人は赤の他人だけど将来がとてつもなく心配だ。
「あら、ちゃんと到着できてましたのね」
「イリナ。なんだ話しかけてくれるんじゃん」
「別に貴方と話したくないというわけではありませんわ。ただ行動を一緒にするのが嫌なだけです」
「ふぁ!? イリナちゃん大きくなった!?」
直後、イリナの蹴りが瞬時に繰り出され、ミウォル先輩の太ももにジャストミートし、たったの一撃で先輩を沈めてしまった。
イリナのどこが大きくなったのかは大変興味深いものだが男の尊厳と身体の安全を守るためにも何も聞かないでおこう。
「イタタ……ところでなんで君、魔力抑える手袋なんかしてるの?」
「あ、えっと俺の魔法は」
話し出した瞬間、授業の始まりを告げる鐘が鳴り響いたのでとりあえず話すのは中断し、近くの開いている席に座ると偶然か、イリナの隣になった。
それと同時に彼女からの冷たい視線が俺に突き刺さるがとりあえず無視しておく。
「新入生は二人か。超常クラスも来年は無くなるかな? さて、新入生のために自己紹介しておこう。僕は超常クラス実技担当のザランと言う。まず話したいのは君たち、超常魔法を扱うものとしての心構えだ。超常魔法は他の魔法と違ってあまり戦いには向かない。中には超常魔法は劣った魔法だとか言うバカもいるがそんな言葉は気にしないこと。超常魔法は使用方法によって様々なものに化ける。テレパシーであれば鍛錬を積むことでより広範囲にメッセージを送ったり、思念を読み取ることが出来たりする。このように超常魔法は他の魔法に比べて種類が違う魔法と言える。話はここまでにして今度は新入生に自己紹介をしてもらおうかな」
イリナの方を見てみると周りに気付かれないように小さくため息を吐くが立ち上がり、教壇へ向かったので俺も彼女の後を追いかけるように立ち上がって教卓へと向かう。
新入生はたったの2人、上級生は8人……過疎地の学校だな。
「イリナ・エルスタインと申します。魔法は瞬間移動。どうぞお見知りおきを」
すると教室のあちこちからどよめきに似た声が上がったのでそれに耳を傾けてみるとエルスタイン公爵家の娘というワードが聞こえてきた。
どうやら彼女も有名な貴族の娘らしい。
……待てよ? 有名な貴族の娘でこれだったら異世界から来て連続で変な名前って言われてる俺が自己紹介したらどうなるんだ?
「常夜雄二です。えっと……変な名前なのは自覚してます。俺の魔法は」
手袋を右手だけ外し、近くにある丸められた紙に少しだけ触れた瞬間、紙が木っ端みじんに吹き飛び、小さな塵となって周囲に産卵する。
「触れた物を破壊する破壊魔法です。手袋をしてる間は魔力が抑えられるので大丈夫です」
どよめきの次はざわめきか……まあ、破壊魔法だなんて言われたらそうなるか。
「うん。じゃあまずは授業方式について説明しようか。超常魔法は全員同じ目標は無い。よって自習形式が
基本となる。まず新入生に見つけて欲しいのは自身のゴールを見つけて欲しい」
ゴールと言われても正直、俺の魔法ってもう完成されてて目指すゴールなんてある……あ、あるわ。今のところ手袋なしじゃ触れた物全部破壊するから俺が望むものだけを破壊できるようにしたい。
案外、簡単にゴール見つかったな。
「そのゴールを見つけたら僕にレポートを出してね。じゃ、始め」
……俺まだこっちの言語で文章書けないんですがどうしたらいいんでしょうか、なんてお悩み相談できないからな~。レポートは気合で書くしかないか。