最終話
『破壊が勝っちゃったね』
『そうね。今回は私の勝ち』
『でもどちらも死なない結末なんて初めて』
『それがこの世界線での結末。私たちはそれを受け入れなければならない』
『そうね。彼らはもう二度と会う事は無いわね』
『でも同じ星のもと、再び会うとき』
『それはこの世界が滅亡の時を迎える時よ。彼らが出くわさない限り、この世界は平和』
『破壊の後には必ず創造があり、創造の後には必ず破壊がある』
『でももうこの楽しみは消えちゃったね』
『破壊の力はこの世界に残っちゃうからね。どうするの? 奪うの?』
『彼が死ぬまでの間は奪わないわ。彼はこれからも何かを破壊するためじゃなく』
『何かを護るために破壊する……ね。ほんと、おかしなやつが破壊の力を宿したわね』
『あの時、爆発が無ければ彼も創造を選んでいたわ』
『それは偶然なのか』
『それとも必然なのか』
『はたまた神の御戯れか』
『もしくは定められた運命か』
『それは分からない』
『でも世界はどちらかを拒絶したわけではない』
『創造者の理想へと世界は進み始める』
『世界は創造者を受け入れたように見えるけど』
『それは違う』
『世界は受け入れも拒絶もしていない』
『『これから始まるのは破壊でもなければ創造でもない世界』』
――――――☆――――――
向こうの世界で言うところの十二月に入ったらしく、冷たい風が強く吹き付ける。
冬物の制服しか持っていない俺にとって厳しい季節がやってきたのだがアンナとイリナがそれぞれ防寒具をくれたのでホカホカしながら生活出来ている。
あれ以来、リムとフレイヤの話は聞かない。
恐らく二人は世界を回りだしたんだと思う。
そしてもう一つ、あの日以来俺の魔法の力は落ち着きを取り戻し、無意識に触ったとしても破壊しないようになった。
それでもまだ少し距離があるがこれもすぐに埋まるだろう。
そして今、俺が来ているのはこの世界へやってきて初めて辿り着いた山の頂上。
サバティエル魔法学園学園長に尋ねてみたんだが世界をまたぐ魔法はこの世界には存在しないらしく、残念ながら俺が元の世界へ戻ることは不可能のようらしい。
『元の世界に戻せなくてごめんね。あの壺は一度吸い込んだものは二度と吐き出さないから』
「……今から七十年前に消息を絶った魔法使いっていうのは」
『恐らく君のお婆さんだね。君が魔法の存在しない世界で魔力を宿していたということは事実。あの壺は魔
力を宿している存在しか吸い込まないからね』
「なるほど…………要するに俺は四分の一くらいはこっちの人間の血が流れてるってわけか」
『さあ、それは分からないけど…………ただあなた自身を元の世界へ届けることはできないけど想いや言葉なんかならば私を通して向こうの世界に文字として届けられるよ』
「…………じゃあさ、母さんに伝えておいてくれ。俺は大丈夫、元気だからって……そっちの世界には戻ることはできないけど俺はこっちで幸せになるって……戻れなくてごめんって」
『了解……じゃ、あなたの寿命が尽きるころにまた迎えに来るわ』
「これから八十年くらいか。長いな」
『そう? 八十年ってあっという間よ……じゃ、もう行くね』
「あと一つ。君はなんなんだ?」
『私は誰でもあって誰でもない。いくつもの世界を旅し、破壊と創造を宿らせ、行く末を護る。私も私自身が何なのかは知らない……言い表すならば観測者。じゃ、またね』
そう言い、小さく笑みを浮かべて黒いワンピース姿の少女は消え去った。
………ふぅ。
「ユージ」
「ユージさん」
後ろを振り返るとアンナ、そしてイリナの二人の姿があった。
母さん、そっちには戻れないけど俺はこっちの世界で二人と一緒に世界を生きる。
「俺、異世界人だけどこれからよろしく」
そう言いながら拳を突きだすと二人は小さく笑みを浮かべて俺と同じように拳を突きだして軽くコツンと当てた。
「「よろしく」」