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ワールド・ブレイク  作者: ケン
二学期
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第五十五話

『諸君、集まってもらってありがとう。今回君たちに集まってもらったのはある事案を君たちに聞きたいからだ。すでに他の国々に回って同じ質問をし、回答を得ている。君たちに問いたいのは単純明快、どちらが悪でどちらが正義かという事だ。この世界にはある魔法が二つ存在する。いや、魔法と言えるのかは不思議なものだけどね。その魔法は世界を破壊するほどの力を秘めているワールド・ブレイク。その使用者はトコヨユウジだ。そしてもう一つ、世界を創造するほどの力を秘めているワールド・クリエイト。その使用者はこの僕、リムだ。まずは君たちに問いたい……君たちは異世界というものが存在すると思うかい?』


 こ、こいつ一体何を聞いてるんだ! まさか俺もお前も異世界から来た人間だってことをサバティエル魔法学園の奴らに暴露する気か!?

 慌てて止めようとリムに殴り掛かろうとするが突然、俺の目の前で大きな爆発が起き、俺の体が呆気なく吹き飛ばされてしまう。

 フレイヤ・プロメテウス!


「邪魔はさせないわ。貴方も聞いておきなさい」

『答えは……ある』

 リムがそう言った直後、後ろから大きなどよめきが上がる。


『君たちは消えた魔女、という作品を知っているだろうか。今から七十年前、突如として行方不明になった魔法使いの話だ。君たちはこれが創作上の話だと思っているようだが実は違う。彼女は異世界へと飛ばされたんだ……そして……こうして喋っている僕も、そして……トコヨユウジも異世界からやってきた』


 直後、先程以上のどよめきが学園から聞こえてくる。

 信じない奴がほとんどだろうと信じたいところだけどアンナみたいに俺が普通の奴らとは違うってことを感覚的にきづいている奴がいないともいえないからな。


『僕はこの世界と同じように魔法が存在している異世界からやってきた。そしてトコヨユウジは魔法の存在しない世界からやってきた。君たちは彼について疑問を抱いているのではないか? 何故、彼のような貴族の匂いがしない人間が学園にいるのか、何故、彼は自分たちとは異なる考えを持っているとしか思えない行動をとるのか……彼の世界には貴族や魔法が存在しない世界だ。貴族という感覚が無いんだ……さて、僕の目的を話そうか。僕はこの世界を作り替える……魔法の存在しない世界へとね。君たちに聞きたいのはワールド・ブレイクとワールド・クリエイト、どちらがこの世界に残るに相応しいかを決めてほしいんだ。どちらが悪で、どちらが正義なのかをね』


 語りかけるように話すリムの演説にも似たそれに対してヤジを飛ばすものなどおらず、全員が声を一つも出さずに聞き入っている。

 その静かな空間にリムの声が再び響きだす。


『言っておくけど僕の理想に反対の人は消す。それを踏まえて少し考えてくれ』

 そう言うとリムは口元に展開していた魔法陣を掻き消す。

「リム……お前の理想である魔法の無い世界を作り出すってものに反対する奴はどうするんだ」

「勿論いらないさ。魔法の無い世界を否定する人は僕を否定するのと同じだ。僕が新しく作り出す世界にそんな人間はいらないんだよ」


 ふざけんなよ……それじゃただの独裁者と同じじゃねえか! 自分の追い求める理想を否定する奴らをこの世から消すなんてそれはただ単に自分が嫌いな奴はいらないって言ってるのと同じじゃねえか!

 確かに世界を作り替えるってことには俺だって否定する気はないけどその否定論者を全員、片っ端から消していくっていうのだけは否定する!

 リムは口元に再び魔法陣を展開すると喋り始める。


『決めたかな? この世に不必要な存在が誰なのかを……もしも僕、ワールド・クリエイトが世界に必要であり、僕が創る魔法の存在しない世界に行きたいと思うものは僕が今から創り出す的を魔法で破壊してくれ。人数分用意する。さあ、君たちの意思を見せてくれ!』


 奴が腕を空に向かってあげた直後、横一列に並ぶように円形の的が全校生徒分の数だけ創り出されるが次々と的が魔法の一撃によって破壊されていく。

 その光景に呆然としていたその時、足元の地面が爆ぜ、慌てて後ろを振り返った瞬間、俺の胸に何かが直撃して爆発を上げ、俺を軽く吹き飛ばす。


「消えろ!」

「死ね!」

「破壊者はいらないんだよ!」


 そんな罵倒と共に魔法の一撃が的に向かって、そして俺に向かっても放たれてくる。

 なんでだよ…………なんでみんなこいつの言う事なんかに同調するんだ!


「待ってくれ皆! こいつは自分の理想を否定する奴らを殺そうとする奴なんだぞ!」


 必死に声を張り上げて皆に叫ぶが俺の声など皆に届くことは無く、それどころか俺に対する魔法の攻撃がさらに激しくなってくる。

 やがて空中に作り出されていた的の数がドンドン少なくなっていき、四つほどを残して空中に作られた的は破壊され、全てが俺に向かって飛んでくる。


「みんな、君が怖いんだよ。世界を破壊する人間なんてね。それに彼らは僕が創ろうとしている魔法の無い世界が良いんだよ」


 直後、魔法の雨が止んだかと思えば巨大な火球が学園の屋上で作り出されるとともに俺に向かって放たれてくるけどもう俺にそれを破壊する気力は無かった。

 ……今まで俺が闘ってきた意味はなんだったんだよ……世界に俺が必要ないんだったら俺はいったい今まで何のために戦ってきたんだよ。

 巨大な火球が地面に着弾しようとしたその直後、横から別の巨大な火球が横ぎるとともに火球を飲み込むとそのままどこかへと一瞬で消え去った。


「馬鹿馬鹿しい」

「全くですわ。しかも理想に反するものは全て消すだなんて」

「君たちは何のつもりでこういうことをやっているのかな?」

「アンナ……イリナ」

「そのままよ。あんたの理想に反する者たちよ。悪いけど魔法の無い世界なんて無理よ」

「どうしてそこまでいるのかしら? アンナちゃん」

「よく考えて見なさいよ。今までこの世界は魔法を基盤にして繁栄してきた。あんた達が異世界人だか何だか知らないけどそれは事実よ」

「仮に魔法の無い世界を作ったとしてそれからどうしますの? 生活の全てに魔法が食い込んでいる今、魔法を消せば生活は崩れますわ」

「そうだね。だから少しの間は魔法を残すさ。技術が確立次第、魔法を全て消す」


 イリナとアンナはリムの言っていることに対して大きくため息をつき、否定する。

「あんたさ、全世界全国家を回り回って聞いたわけ?」

「まさか。まずは手始めに同盟国に聞き、トコヨユウジを消した後、世界を作り始める」

「一つ思うのですが……別に世界を巻き込む必要はありませんこと?」

「……どういう意味かな」

「要するに貴方だけの王国をつくればいいという訳ですわ。魔法に頼ることのない王国を。それをなぜ世界を作り替えるなどという大それたことをするのですか?」

「別にあんたの理想なんてこの際、どうでもいいのよ……あんたのおままごとにこっちまで巻き込むなって話。あんたの考えに賛同する奴らを集めて国家樹立宣言をすればいいだけの話しよ」


 アンナがそう言った直後、俺達の傍に大きな魔法陣が展開され、そこから光が溢れ出るとともに女王陛下が姿を現した。

 な、なんでここに女王陛下が……。


「リムさん……返答をしに来ました」

「ビブリア王国としては僕の考えに賛同してくれるのかな?」

「ビブリア王国としては……貴方の考えには賛同できません」


 まさか女王陛下に否定されるとは思ってもいなかったのかリムは一瞬だけ驚きを前面に出すがすぐにそれを抑え込む。


「へぇ、どうしてビブリア王国は僕の考えに反対なのかな」

 リムが魔法を発動したのか学園全体に声が響きわたる。

「貴方の魔法の無い世界を作り出すという考えは確かに考える余地はありました。事実、魔法の才能が低いものが虐げられている構造があるのも事実」


「だったらなおさら」


「ですがその程度のこと、人間一人一人が変わればいいだけの話し。世界をゴッソリ作り替える必要などは無いと我々は考えました。ですから王都では例え魔法の才能が低い者でも尊敬されるような仕組みを作るために貴族を王都から排し、平民を集めて技術を磨いてきたのです。この十年、それを行い、私が感じたのはそれは人の努力で可能だという事。わざわざ世界など作り替える必要が無いという事です」


「人の意識なんてそう簡単には変わらない。だったら世界を変える方が簡単だ」


「それはあんたが逃げているのよ」

 アンナの一言にリムの額に青筋が走る。


「あんたが異世界でどんな経験をしたのかは知らないわよ。それを否定する気はないわ……でもだからと言って人々の意識は変わらない、世界なんて変わらないなんて言う結論に至るのは少し無理やりよ」


「貴方のような虐げられる存在が生まれてしまうのは先人が築き上げてきた物によるものです。その古き障害を取り除くことが出来るのは今を生きる私達だけ。たとえその考えを貴族に否定されても私は諦める気は毛頭ありません。世界は今のままでも十分に魔法の才が無い者でも生きることが出来る世界に変えることは可能です。魔法学園の皆さん! 貴方達は貴方達が生きるこの世界を彼一人に任せてもいいのですか!? 貴方たち一人一人が世界を変えようと努力しなくていいのですか!? 確かに世界を変えることなんて非常に難しいことです! ですが不可能ではありません! 事実! 王都では既に魔法の才が低い者でも貴族からその技術を認められ、尊敬されているものだっています! この世界から魔法を消さなくても世界は生まれ変わることが出来る! 我々を含めた貴方達一人一人が努力することで、変わろうとすることで世界はあっという間に変貌を遂げます!」


 女王陛下の声がサバティエル魔法学園全体に響きわたり、窓から顔を出している連中の耳へと入っていき、その様子を誰も咎めることなく静かに聞き入っている。


「そしてもう一つ。破壊が悪で創造が善などというのは先入観でしかありません。帝国が宣戦布告をした際、彼がいなければ帝国王を止めるのにさらに長い時間がかかり、被害は大きくなっていたでしょう。よく考えてください。破壊の力を宿すからと言って彼自身が悪と決めつけて良いのか、想像の力を宿す彼が善と決めつけて良いのか、もう一度考え直してください。彼が本当に悪と決めつけられることをやってきたのですか? 破壊の力を使って貴方たちの誰かを傷つけましたか? もう一度考え直してください。本当に世界に彼が必要ないのか否かを」

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