第五十二話
もうすぐこの作品も完結です
向こうの世界で土曜日にあたる学校の休みの日、俺はイリナと共にアンナの家へと遊びに来ていた。
イリナほど豪華絢爛ではないけどお金持ちなことには変わりなく、家はアンナと使用人だけじゃ明らかに余り過ぎてるだろっていえるくらいに広いし、家が建っている場所は相当広く、アンナ曰く別荘もあるし、所有している山もあるらしい。
もうマジで貴族って頭おかしいくらいに金持ってるよな。
「何オドオドしてんのよ」
「いや、相変わらず貴族のお金持ちっぷりは半端ないなって……なんか周りに高級品というか高そうなものがあると動きにくいっていうか」
「貴方の場合、触れれば即破壊ですからね」
イリナの言う通り、俺が触れた物は全て一瞬で破壊されてしまうので歩く時も壁に手を突くときもひやひやしながら触ったり歩いたりしている。
正直、何か壊したら弁償しきれないだろうし。
「別に壊れたっていいわよ。大切な物は住居には置いてないし」
「で、でも高いんだろ?」
「それほど高くはないものばかりですわ」
「正直、壺とか絵とか売り捌いて無くしたいんだけどどいつもこいつも希少価値があり過ぎて買取できませんって断ってくるのよ」
「お父様も悩んでいましたわね。買ったのはいいけど誰も買い取ってくれないと」
ダ、ダメだ。絶対に俺はこの家で魔法を発動して壊したらダメだ……もし一つでも壊したら一生、借金を返す為だけに働かなきゃいけなくなるぞ。
想像しただけで震えが来そうだ。というか二人の価値観は正直、一般庶民である俺には当てにならないレベルまでかけ離れている。
イリナは王族に血を残した貴族、アンナは神から炎を授かったとかいうレベルから家が存在していた古き良き、そして名家中の名家ともいえる。
二人の家が所有している権力は並大抵のことじゃ崩れないだろう。
「あ、そうだ。あんたに何かあげるわよ。好きなもの持っていきなさい」
「持っていけるか!」
「あまり我儘は言わない方がいいですわよ」
「いや、我儘じゃなくて謙虚と言ってくれ……な、なんかそんなに高いものがあると息苦しいっていうかさ……俺今まで一般庶民で普通の暮らししてきたし、そういう金が大量に周囲にある生活をしてきたわけじゃないから金が周りにいっぱいあると怖いんだよ」
「よく分かりませんわね」
「そうね」
そりゃ、幼いころから周囲に大量のお金がある状態で生きてこられたお二人には分からない感覚でしょうね。なんせお二人は感覚が麻痺しているどころかぶっ壊れてるんだからな。
でも……アンナも元に戻ってよかった。
「なんか食べる? 持ってこさせるけど」
「お、俺は別に」
「そろそろおやつが欲しい時間帯ですわね」
「あたしも。あんた本当に要らないの?」
「お、おう」
アンナは呆れたようにため息をつくと魔法陣を展開し、そこに二言三言呟く。
だって持ってこられるおやつも俺が考えているみたいなバナナを串刺ししたものを冷凍して舐めて食べるとかキュウリに塩とかしょうゆをけてもしゃもしゃしながら食べるとかそういうレベルじゃないだろう。
俺からすれば超高級フランス料理や超高級イタリア料理みたいなレベルの物がおやつとして運ばれてくる感じだ。
「にしてもなんでテラスなんか」
「昔はこうやって家族揃ってお茶をしてたのよ」
そういうアンナの目はどこか懐かしいものを見るような目をしている。
途中まではフレイヤも含めて幸せな家族だったんだよな……でも途中で何らかの要因でフレイヤが変貌し、今の状態が出来上がった。
今考えれば恐らく、その要因っていうのはリムだと思う。
リムの理想の世界である魔法が存在しない世界を作るという野望に惹かれたのか、それとももっとほかの魅力に取りつかれたのか、どっちなのかは知らないけどあいつがリムの虜になっていることは間違いない。
でもリムはいったいどうやって魔法の存在しない世界を作るつもりなんだ……ワールド・クリエイトって言っても世界一つをまるまる創り出すほど異次元の魔法じゃないはずだ。
俺のワールド・ブレイクがこの地球を破壊でいない様に奴も地球と同じ星を作り出すことなんて不可能だろう。
となると現在のこの世界を作り替えるという事になるけど……そう言えばあいつ、国民の意思を説いているとかみたいなこと言っていたけど……いったい何をしようとしているんだ。
「ねえユージ」
「ん?」
「……そ、そのあんたは将来の進路とかあるわけ?」
「進路? いや、まだ考えてないけど」
いや、あることはある。
俺の進路は可能であるならば元の世界へと変えること、だけど今のところそれに繋がる手がかりは五十年ほど前に失踪した魔法使いくらいしかない。
「そ、そう…………だ、だったらさ……あ、あたしの家に来ない?」
「? 使用人としてか?」
「ま、まあそれもそうだけど……その」
珍しく歯切れの悪いアンナは体を左右に揺らしながら顔を伏せる。
「貴方も乙女でしたか。ガサツだけだと思っていましたが」
「はぁ? あんたの場合は盗聴乙女でしょうが」
「落ち着けって……でもまあ、将来の進路に困ったらそう言うのもありかもしれない」
「でしたら私のところも候補に入れておいてくださいな」
そう言いながら紅茶を飲むイリナの姿は気品にあふれている。
やっぱ、俺みたいな一般庶民には無い気品さがあるよな……アンナも無いっていうわけじゃないけどイリナに比べたらまだ一般庶民に近いっていうか。
「そう言えば近く、女王陛下主催でパーティーが開かれるらしいわよ」
「また高そうなイベントだな、おい」
「私の家にもその招待状が来ていましたわ。なんでも色々とありましたからそれを忘れようという事で盛大にやるらしいですわ」
バーン帝国が宣戦布告にも似たことをしでかしたし、それに伴う破壊活動だって王都で起こったから色々あったって言ったら色々あるわな。
結局、バーン帝国は名前を改めてバーン王国になり、軍事の力が強かった国内構造を一新して程々の力は残しておきながら国を再建するらしい。
そして帝国と問題を抱えていた諸国との問題解決も取り計らわれるらしい。
「色々と今年は濃かったですわね」
「そうね……ちょうどあんたが来てからよ」
「そ、そうだな」
この世界に色々なことが起こり始めたのはワールド・ブレイクを宿した俺、そしてワールド・クリエイトを宿したリムの二人がいるからだろう。
……今、元の世界じゃいったい何が起きているんだろうか。
「今度、ユージさんの家にもいきたいですわね」
「お、俺の家!? い、いや俺家が寮部屋っていうか」
「そう言えばなんであんた、学園近くの山にいたわけ? 学園生じゃなかったのに」
「え、えっと……ま、まあ色々とな」
……もうすぐしたらこいつらにも言わないといけなくなるかもしれない……俺がこの世界とは違う異世界からやってきた住人だという事を。
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「リム、回答が来たわ」
「なんだって?」
「一部の奴らは渋い顔してたけど大方の民は賛成の様よ。まだビブリア王国からは来てないけど」
「そうか……まあ、どの道この世界からは古い王や貴族などは一掃するつもりだから僕が知りたいのは民の答えなんだけどね」
「ふ~ん。まぁ、貴族なんて魔法にすがってる連中ばかりだけど」
「魔法が存在しなくなったら存在を保てないものなんて僕の創る世界にはいらないからね……人は魔法が無くても知恵と技術で暮らしていけるってことを知るべきだ」
「今は想像がつかないけどなんだか楽しそう」
「楽しいさ。少なくとも魔法が存在しているこの世界に比べればね」
「でもまだ当分は魔法は必要じゃないかしら。技術の確立までは」
「勿論わかってるさ。ただそういう技術は埋もれているだけで掘り起こせばいくらでも出てくる……さて、そろそろビブリア王国も落ちてもらうかな」
「ある意味平和的に、ね」
「そう。ある意味平和的に、ね」