第五十一話
「皆さんが学園に入学してから早半年。覚醒を果たした人もいれば果たしていない人もいると思いますが個人差があります。魔法は使用者の想いに強く反応する。ですから我武者羅に魔法を鍛えれば覚醒を遂げるという事ではありません。いったい自分の魔法は何のために存在するのか、何のために利用したいのかということをはっきりと頭の中で思い浮かべてください」
属性クラス、および強化クラスの実践演習は実際にコロシアムで行われるらしいけど超常クラスはほとんどがクラスが入っている建物の書庫で行われる。
超常クラスだけの書庫という事で書架には大量の分厚い本から薄い本まで並べられており、それぞれがタイプごとに並べられている。
一番研究が進められているのは相手の何かしらの心理状態を見抜く魔法や透視魔法などのもので一番多く本が置かれている。
逆に重力魔法などはまだほとんど研究されておらず、数が少なかったがバーン帝国が今まで秘匿してきた膨大な数の研究資料からそれらの魔法の物も見つかり、今後、蔵書数が増えるらしい。
もちろん俺の破壊魔法についての本は一冊も無い。
そんなことは今はおいておくとしてここ最近、学園内の空気がどこかおかしいというか窮屈感を感じるようになってきた。
何が原因かは分からないけど一つとしては俺の魔法だと思う。
最近、制御が効きづらくなってきていて触れただけで破壊するという魔法が勝手に発動して木箱や机などを破壊してしまう事が多々ある。
学園長から貰った手袋でも防ぎきれていないのが現状だけど集中していればそういうことは無いので今まで無意識のうちにかけていたストッパーが外れた感じだ。
その要因は確実にバーン帝国でのあの暴走だ。
リムはあの暴走をワールド・ブレイクって言っていたけど……ほんと、この魔法はなんなんだ。
「随分と考えていたようですが」
「お、おう……まあな」
「魔法の事ですか」
「……なあ、俺の魔法って本当に魔法なのかな」
「といいますと?」
仮にこれが魔法でないとするのであれば俺は異世界から来たという事、そして謎の女性からこの力を貰ったことを言わなければ納得のいく説明はできない。
まあ、異世界っていう時点で他の人達が納得するかは分からないけどな……でも多分だけどこの力は魔法だと思う。魔法陣だって出せるようになったし、今までが中途半端な強さだったから魔法か否かが分かり辛かっただけで……でも未だに言われるのは俺の魔法は魔力を使用していないという事。
それはアンナに言われたんだけど本来、魔法を発動したら魔力が消費されるのに俺にはその傾向が一切見られないとのこと。
確かにこの前のフェニックスとの戦いだってあんなデカい球体を何回も作ってはなったのに疲れはしなかったしな……ダメだ、また魔法じゃないっていう考えに逆戻りする。
「いや、やっぱなんでもない。魔法だよな」
「何を言っていますの?」
ただ、口ではそう言ってもまだ俺の中ではモヤモヤが残っている。
もしもまた彼女と出会うことが出来たらその時はこの魔法について、そして何故俺がこの世界へやってくることになったのかも聞いてみよう。
「何読んでんだ?」
「消えた魔女という物語ですわ。知りませんの? 有名な話ですわよ」
「へ、へぇ……あ、あの突然消えたっていう女性な」
「ええ。今から70年程前、イリル・グレファンという高名な魔法使いがいたのですが忽然とその姿を消したんですの。魔力を追跡しても一切痕跡が見つけられなかったという話ですわ」
「へぇ…………っっ」
イリナがページを捲った瞬間、俺は驚きのあまり一瞬だけ変な声が出かけたが授業中という事もあって何とか抑え込んだが心臓が強く鼓動を打ち始める。
次のページにはその消えた女性と思われる絵が描かれているんだけどその絵に描かれている女性が婆ちゃんの若い頃とそっくりだった。
俺が小学生の時に一度だけ婆ちゃんと祖父ちゃんが出会ったばかりの写真を見たことが合ってその写真とこの絵にかかれている女性がそっくり、いや瓜二つと言ってもおかしくはない。
そう言えば俺、婆ちゃんの詳しい話は聞いたことが無かった……ただ単に祖父ちゃんと出会った後の話しをいっぱい聞いただけで。
祖父ちゃんの昔話はよく聞いたけど逆に婆ちゃんの若い頃の話しとか戦争体験とかは一切聞いたことがないし、そう言う若い写真も若かりし頃の祖父ちゃんと一緒に映っている写真だった。
……まさかな……でも仮に婆ちゃんがこの消えた魔女のモチーフになっている魔法使いだとしたら……もしも魔力は手を付けなかったらそのまま覚醒しないとしたら……。
「なあイリナ」
「はい?」
「最初から魔法使えたか?」
「いきなり何を言っていますの?」
「えっと……魔力があれば小さい頃から使えるのか?」
「……貴方、どちらかというと一般常識が欠如していますわね。出生後、両親の魔力を少量注ぎ込むことで胎児の魔力は覚醒しますわ。魔法を学ぶのはその後ですわ」
……仮に……仮に婆ちゃんが俺のパターンとは逆、つまりこっちの世界から俺がいた元の世界へと異世界転移をしたとすればたとえ父さんにも魔力が宿っていたとしても目覚めない。
それにもう婆ちゃんはこの世にはいないから確実に目覚めることは無い……俺がこの世界へやって来れたのも……そう言えばあいつら、魔力が何とかって最初に言っていたような……もしもこのワールド・ブレイクが婆ちゃんの魔法を基にして覚醒しているとすれば……全ての辻褄は合う。
「あっ」
「っと、あ」
その時、隣の先輩が机の上に置かれていた花が入った木の箱を落とし、それを俺が空中で掴もうとするが無意識に出してしまったために小さな木の箱が消滅するように粉々に破壊されてしまった。
やっちまった。無意識の出したからな~。
「何をやっていますの?」
「悪い悪い。あ、大」
顔を上げ、先輩を見た瞬間、ちょうど先輩と目が合ったがどこか恐ろしい物でも見ているかのような目を浮かべて俺のことを見てくる。
何気なしに周囲をチラッと見渡してみるとミウォル先輩を除いて他の連中も似たような目をして俺の方を見ていた。
…………いったい何なんだ。
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「学園長。どうしますか」
「無論、生徒からは没収……したいところだがそうすると何故、回収するのかという疑問を植え付けてしまう……だがこのまま放っておくと……」
「このままいけば確実に」
「確実に最悪なことが起きる……くそ。いったい誰がこんなものを配り歩いているんだ」
学園長――――サバティエルの手元にはワールド・ブレイクを発動し、バーン帝国王を圧倒的な強さで葬り去るトコヨユウジの姿が映し出されていた。
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「貴方もえげつないことをするのね」
「戦わずしてライバルを倒す。平和的で良いじゃないか」
「このままいけば確実に一部を除いて連中には恐怖心が芽生える」
「そして彼から離れていく…………それもただ離れるだけじゃない。酷く、醜く彼を傷つけてから徐々に離れていく。さあ、トコヨユウジ。僕たちの戦いが始まるよ。君は耐えられるかな?」