第五十話
炎が消えていくのを感じ、目をゆっくりと開けるとそこには先程まで見ていた地形は存在せず、隕石でも落ちたのかと疑うほどの巨大な穴が地面に空いており、そこに服が部分的に燃え、消えてしまっているフレイヤの姿があった。
「倒……した」
「……なんて一撃……属性クラスのエースどころの話じゃありませんわ……学園最強クラス」
アンナはゆっくりと巨大な穴に向かっていき、下をのぞき込むようにフレイヤを見下ろす。
ゆっくりと起き上ったフレイヤはアンナに見下ろされているのが心底腹立つのか今までに見せたことのないほどの憎しみを露わにした顔を見せつけるがもう立ち上がる力は残っていない。
「…………本来は殺すつもりだったけど…………フレア・フェニックスもあたしの中にあるし……もうあんたがあたしに勝つことも無くなった今、あんたを殺す理由は無くなったわ。両親を殺した罪は……王国の方によって裁かれることで償いなさい。フレイヤ……もうあんたを姉とは呼ばないわ」
「言う……じゃない。ここで私を殺さなかったら……あんた後悔するかもしれないわよ」
「後悔なんてしないわ……もうあたしはあんたを殺す為だけに生きる復讐人形じゃない……友人と一緒に過ごすアンナ・プロメテウス…………それだけよ」
そう言い放つとアンナは穴に背を向け、こちらへとゆっくりと歩いてくる。
そしてそれとともに俺達の後方に魔法陣が出現したのか鎧が動く際の金属音が聞こえてくる。
もうフレイヤ・プロメテウスのことは王国に任せるだけだ……終わったんだよな、もう。
「…………よっ、アンナ」
「やっと帰ってきましたわね。アンナさん……」
「…………ひ、一言だけ言うわ……あ、ありがとう」
恥ずかしそうに顔を染めながらアンナが礼を言ったその時、俺の中で何かが膨れ上がったような圧迫感を感じ、慌てて周囲を見渡すと俺達の上空にリムが立っており、ゆっくりとフレイヤのもとへと降り立ち、彼女をお姫様抱っこで抱きかかえ、再び上空へと上がっていく。
「リム!」
「やあ、僕のライバル。やっぱり君だけは動けるね」
そう言われ、みんなの方を見て見ると全員、同じ方向を向いたまま少しも動かず、瞬きひとつすらしていなかった。
まるで時間が凍り付いたかのように。
「時間魔法。僕のワールド・クリエイトで生み出した魔法さ。君だけは動けるからもう意味はないけど」
直後、圧迫感が消えるとともにみんなの声が聞こえ始める。
「リム! フレイヤをどうするつもりだ」
「ただ単に取り戻しに来ただけだよ。彼女は僕が創り出す魔法の無い世界の妃になるのだから」
「妃……王様になったつもりかよ」
「僕は新世界の王になる。僕は彼女を愛している、彼女も僕を愛している。僕の望む世界を作った後は僕たちで国を作り、その国の王となる。そこに魔法なんて存在しない。争いはあるかもしれないけどね……でもそれでいいんだ。魔法さえなければそれでね」
「どうやって作るんだよ! お前の考えに全員が賛同しているわけじゃねえだろ!」
「そうだね、君の言う通りビブリア王国とその同盟国だけはまだ返事は保留さ。だが恐らくヴィヴァイン・エウリオスでは期待通りの返事が来るだろう」
そう言われ、慌てて女王陛下の方を振り返るが女王陛下も今初めて知ったのか驚いた表情をしながらリムの方を向いていた。
どういうことだ。女王陛下が知らないのに何で返事は保留なんだよ……それに他の国からも期待通りの返事が来るってこいつ一体何をやったんだ。
「それはどういう意味ですか?」
「簡単な話さ。僕は女王陛下に尋ねたんじゃない……民に尋ねたのさ。すでにビブリア王国の王都を除くすべての地区では返事を貰った。いわゆる民意ってやつだ。いずれ王都に住む住人にも尋ねるつもりさ。この世に魔法は必要か、必要でないかってね。それはもちろんサバティエル魔法学園も同じだが君のところだけは特別な尋ね方をするつもりだ。ま、楽しみにしておくと良いよ」
リムの足元に白い魔法陣が出現し、徐々にリムの姿が光に消えていく。
「待て! リム!」
「さあ、世界は生まれ変わるよ……そして君を取り巻く環境もね。トコヨユウジ」
その一言を残し、リムは光に包み込まれ、この場から消え去った。
世界は生まれ変わり……俺を取り巻く環境も変わる……どういう意味なんだ。
――――――☆――――――
「ごめんなさい、リム」
「構わないよ。生きてくれているだけで十分さ」
「んぅぅ……んふぅ、リム」
「ずっと君と居たい……僕たちの望む世界を創造して一緒に暮らそう。フレイヤ」
「ええ……ずっと一緒に」
――――――――☆――――――――
「久しぶりにその制服姿見たな……でもそんなにスカートの丈短かったっけ?」
「うっさいわね。良い子ちゃん演じてたからこれが本来のあたしなのよ」
制服をちゃんと着こなしていた以前とは違い、スカートはそれ下着見えるくない? と思うほど短く、上の服も適当にしかボタンが留められていないので結構深い谷間がこんにちわしていて目のやり場に困る。
清楚系とヤンキー系……どっちも捨てがたい!
「……ユ、ユージ」
「ん?」
「よ、よかったらだけど……こ、今度家に招待してあげるわ。喜びなさい!」
……これって命令形なのかそれともお願いしているのかよく分からない言い方だな……まあ、イリナのお金持ちっぷりも凄かったし、アンナの家のお金持ちっぷりも凄いんだろうか……一回行ってみる価値はある。
それに報告もしないといけないだろうし。
「私も行かせていただきますわ」
「だからあんたは嫌いなのよ。イリナ」
「あら、ごめんあそばせ」
まぁ、とりあえずアンナも戻ってきたことだし、いつも通りの学園生活……そう言えばリムが言っていた俺を取り巻く環境も変わるってどういう意味なんだ、結局。
学園に帰ってきたけど特に変わっては……そういや学食に入ると相変わらず静かになるな。
それにミウォル先輩、リアン先輩とイリナ、アンナ、学園長、グラン先生とか一部の人達としか喋らなくなったし……前はこれでもちょくちょく喋ってたんだけどな……ま、いいか。
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「ねえ、あの噂知ってる?」
「あの噂だろ? 知ってるよ。でもあれ噂というかもう事実だろ」
「やっぱり学園の皆に届いてたんだ、魔水晶」
「あ、それあたしも見た。なんか怖かったわ」
「あの映像には先生たちも一瞬だけ映っていたし、誰かの造り物ってわけでもないだろ。それにバーン帝国王も映っていたしさ」
「バーン帝国国王はいいじゃん……あの黒い怪物ってあいつだよね」
「だと思う。なんだよあれ、触れれば破壊されるって……やっぱあいつに触れたら同じようになるのか?」
「あたし、超常クラスに友達いるから聞いてみようか?」
「あ、お願い」
「怖いな……」