第四十九話
破壊のオーラを球体状に纏めて放ったものは巨大な火球にぶつかると一瞬にして火球を破壊し、そこにいるフレイヤに向かっていくが彼女が跳躍したことで球体はそのままゴリゴリと地面を破壊しながら突き進んでいき、途中で消え去った。
「トコヨユウジ……あんた、なんでここにいるわけ? さっきアンナちゃんを助けに来たとか言っていたけどそれ本気で言ってるの?」
「あぁ、本気だ。俺はアンナを連れ戻す……そしてアンナがフレイヤを殺すのを止めに来た」
「ふざけないで! あたしは! あたしはあいつを何としてでも」
「殺せなかっただろ。お前ひとりじゃ」
そう言うとアンナはそれ以上、何も言わなかった。
アンナは強い、でもフレイヤ・プロメテウスはそれ以上に強い。
とてもじゃないけど彼女一人の力でフレイヤ・プロメテウスを倒すことなんて考えられないし、その証拠にアンナは傷だらけなのにフレイヤは傷一つついていない。
「アンナ……お前一人じゃあいつを倒せない。それは分かってんだろ……だからお前があいつに対して抱いてる憎しみとか苦しみとかそういうの半分俺達に背負わせてくれ」
「な、何言って」
「家のことだからとか関係なしにさ……お前一人じゃ背負いきれてないんだろ? 両親を殺された悲しみ、フレイヤを憎む憎しみ……だったらフレイヤを憎む憎しみだけ俺達に背負わせてくれよ。友達が悩んでいたり苦しんでいたら助ける……だしな」
軽く手を差し出すとイリナも共に手を差し出す。
アンナは驚いた表情のまま一筋の涙を流すとゆっくりと俺達の手を取ると立ち上がり、その手で涙をぬぐい、おかしそうに小さく笑みを浮かべる。
「バッカじゃないの。なんでそんな奴を助ける訳?」
「あんたには分からないだろうさ……自分の欲望のために両親を消す奴にはな……アンナ、あのでかい鳥は俺に任せろ」
「ええ、任せるわ……ユージ」
アンナから少し離れ、鳥のもとへと向かうと俺に向かって火球がいくつも鳥から放たれてくる。
両手に破壊のオーラを集め、その二つを上空に向かって投げた瞬間、それらがいくつにも分裂し、俺に向かって放たれてくる火球を破壊していく。
後方からも爆発音が響きわたる。
向こうも始めたんだな……こっちも行くか。
「イリナ。少しの間お前のこと護れねえけど」
「大丈夫ですわ。これでも危険なクエストを貴方達と一緒に歩んできましたし、自分の身は自分で守れますし、何ならあなたも守りましょうか?」
「そうだな……行くぜ」
巨大な鳥が十二枚もの翼を勢いよくバサッと広げた瞬間、小さな羽根が何枚も地上に向かって降り注ぎ、俺達に向かってくる。
両腕を空に向かってあげた瞬間、頭上に黒い魔法陣が展開され、そこに破壊のオーラが集中し、巨大な黒い球体が生み出されていく。
「喰らえ!」
直後、魔法陣から球体が放たれるとともにいくつもの小さな球体へと分裂し、俺達に向かって落ちてくる無数の赤い羽根を破壊していく。
そしてもう一度、破壊のオーラを凝縮させていき、今度は巨大な球体を作り出していく。
それを見た相手も口を大きく開いて巨大な火球を生成していく。
俺が押し勝てばそれでいいし、引き分けも良い……ただ俺が押し負ければ死ぬか火傷を負うかだな……この一撃の結果次第でこの勝負は大きく変わる。
サイズの方は相手が段違いだ……破壊しきれるか。
「だぁぁぁぁぁ!」
一撃を放った瞬間、相手の口からも火球が放たれ、ぶつかり合い、周囲に衝撃が走る。
黒い球体と赤い火球がぶつかり合うその様はまさに正義と悪がぶつかり合っているかのような光景だが今回は黒い方が正義ってな。
その時、黒い球体が変化し、薄い膜のようになると火球を一瞬にして飲み込んでしまい、破壊した。
「行けぇぇぇぇぇ!」
すでに用意していた黒い破壊のオーラで作られた槍を相手に向かって投げつけた瞬間、相手の口から剣放射が放たれ、破壊のオーラで出来た槍を飲み込む。
が、炎すらも破壊するオーラによって火炎放射の炎が破壊されていく。
そしてまっすぐ突き進んだ結果、鳥の腹部を貫通し、大きな穴をあけた。
鳥は悲痛な叫びをあげながら穴が開いた部分へ炎を送るがまるで何かに反射されているかのように炎は穴から離れていく。
一度、破壊した物はリムのワールド・クリエイトじゃないと再生できない……悪く思うなよ。
傷を再生できないまま赤い鳥はヒラヒラと落ちていき、地面に倒れ込んだ。
その時、後方から凄まじい爆音が鳴り響き、慌てて後ろを振り返るとフレイヤ・プロメテウスが倒れ込んでいる光景が視界に映る。
「フェニックス……なるほど。ワールド・ブレイクを倒せるのはワールド・クリエイトだけ……たとえどんな上位の魔物であっても無理という訳ね」
「形勢逆転ね」
「そうかしら? 私はもともと生まれながらにして魔力は多いわ……貴方程度に負けはしないわ」
「確かにそうね。認めたかないけどあんたの魔力量、魔法の才能、全てあたしのそれをはるかに超えているわ。逆立ちしても勝てないくらいにね……ねえ、何であの時あたしがフレアバードを呼び出したと思う」
「それしか呼べないんでしょ。プロメテウス家の次女は代々、フレアバードと契約してきた。フレアバードはフェニックスと違ってそんなに強くはないわ。ただ単に意思があるだけの炎よ」
「そうね。あんたの言う通り、フレアバードじゃフェニックスには勝てない……でもあんたは知らない。フレアバードの本当の強さを」
そう言いながらアンナは目の前に小さな魔法陣を展開する。
アンナの奴、何をする気なんだ。
「フレアバードの本当の強さ?」
「あたしも知ったのはあの子と契約してからよ……フレアバードは炎を己の物にすることができる……つまりいかなる炎も隷属させることが出来る」
「それが? フェニックスでも似たようなことはできるわよ」
「炎と一体化し、フレアバードはその炎を自らの物として再生する。たとえどれほど倒される弱い存在であったとしても一度炎を上げれば一瞬にして再生し、再び甦る」
「……まさかっ!」
「不死の炎を己の物として再びその姿を見せよ! フレア・フェニックス!」
直後、後ろの方で爆音とともに熱風を感じ、慌てて後ろを振り返るとフェニックスが倒れていた一から火柱が空に向かって立ち上っており、凄まじい速度で回転している。
直後、火柱を突き破るかのように十二枚の翼が展開されると同時に火柱が吹き飛び、その莫大な炎で空を赤く照らしながら進化したフレア・フェニックスが出現した。
「う、うそでしょ……下位の存在であるフレアバードがフェニックスを取り込むなんて!」
「本来なら不可能よ。でも二度と癒せない傷を負ったフェニックスならそれが可能よ……もう一度言ってあげるわ。これで形勢逆転ね」
フレア・フェニックスは勢いよく下降し始め、その身を炎に変換し、アンナの手の甲に浮かんでいる赤い魔法陣へと消えた瞬間、アンナから炎が噴き出し、周囲が一瞬にして炎の海と化した。
こ、これが進化したアンナの力。
「あたしは最初からこれが目的だった。あんたからフェニックスを引き剥がすことが出来れば勝つ可能性も出てくるって……でもまさかフェニックスを手に入れることが出来るとは思わなかったわ」
「あ、あり得ない……そんなのあり得ない! あんたが……私よりも劣っているあんたが私を超えるなんてそんなことあり得ない!」
叫び散らしながら巨大な火球を生み出し、アンナに向かって放つがアンナに直撃するかと思った瞬間、火球が火の粉となって消滅する。
いや、消滅したというよりも一瞬で吸収された方に近いかもしれない。
フレイヤは何度もアンナに向けて火球を放ち、槍を投げつけていくが全てアンナにぶつかるよりも前に吸収され、彼女の物となっていく。
「もう終わりにするわよ……プロメテウス家の憎しみを!」
直後、彼女の足元に巨大な魔法陣がいくつも出現したかと思えばそこから炎が放たれ、アンナの前方に渦を描きながら集まっていく。
炎は球体へと変化するとともに回転していく。
「あり得ないあり得ないあり得ない! そんなことあり得ない!」
「全てを燃やし尽くせ!」
直後、凄まじい速度で回転しながら球体がフレイヤのもとへと突き進んでいく。
地面を抉りながら突き進み、そして直後、俺達の視界を真っ赤に染め上げるほどの大爆発を起こすとともに空に向かって火柱が立ち上った。