第四話 入学式と行事 その3
巨大な火の鳥を模した炎はまるで生きている実際の鳥のように翼を羽ばたかせ、フレイヤ先生を背中にのしてその場で滞空している。
あ、あり得ねえ。炎でこの人鳥つくっちゃってますけど!? もう炎の範疇超えてません!? まだ遠距離への転移は時間がかかるみたいだし、俺達で時間を稼がないとダメってことか!
「アンナ!」
「分かってるわよ!」
炎の槍が生成され、先生めがけて放たれるが鳥が上空へと飛翔したことで何もない場所に着弾して軽く爆発を起こす。
顔を上へと上げると太陽をバックに鳥がはるか上空で滞空すると先生が手を空に向かってあげる。
直後、あらゆる方向から炎が先生の手に集まっていき、俺達の視界のほとんどを支配するほどの大きさの超巨大な火球が生成される。
や、山でもこの人は吹き飛ばす気なのか!? 流石にあんな巨大な物破壊しきれない!
が、流石にやり過ぎたと思ったのか超巨大な火球のサイズが縮小していき、所々青空が見えるようにはなったけどそれでも大きいのは変わりない。
「まだなの!?」
「あと二十秒待ってください!」
直後、巨大な火球が俺たちめがけて放たれ、視界が一瞬にして真っ赤に染まりあがるが反射的に両腕を上へあげた瞬間、そこへ火球が当たる。
「ぬおぉぉぉぉぉぉ!」
破壊は出来ないが支えることはできる! 残り十五秒! 男として絶対に耐えてやる!
踏ん張っている両足が地面にめり込んでいき、全身の骨からミシミシと嫌な音が鳴り響くが歯を食いしばり、足にも力を入れる。
でも部活も何もせず、運動は体育の授業でしかやっていない貧弱な俺の力など小さく、とてつもなく巨大な火球によって徐々に押しつぶされていく。
「ぐらあぁぁぁぁぁぁ!」
「飛びます!」
直後、視界がぶれるとともに木々の姿が目に入るが遠くの方で巨大な爆音とともに赤色の輝きが放たれるのが見え、木々が大きく揺れるほどの爆風が通り過ぎていく。
膝もガタガタ、肩はズキズキ……体鍛えないとな。
「はぁ。し、死ぬかと思った」
「フレイヤ先生、最後の一撃は全力でしたわね」
「あんな全力凌ぎきれるわけないじゃない」
凌ぐというか防ぎきれないよな、あれは。
あんな特大質量の物を一瞬で破壊できるとしたら一瞬でこの世界を破壊できると思うな。
「あと何分で終わるんだ」
「一分よ」
アンナの手には大きな砂時計が握られていた。
「それ何分計れるんだ?」
「二十分よ」
という事は一般的な砂時計の大体、三倍くらいの砂が入ってるってわけか? いや、でも単純にあの量が三分ってわけじゃないだろうし……ま、いいか。
地面に寝転がると背中にひんやりとした感覚が伝わってくる。
まさか入学初日の行事でこんな命の危機に瀕するなんて……なんて世界なんだここは。
「もう何も起こらないよな?」
「そうだと良いんですが」
「まあ、評価石二十個手に入れたしいいんじゃないの?」
一つで何点分あるかは知らないけどまあ、無いよりかはマシだろ……にしてもまさか初日でこんな目に遭うとは。世界ってある意味広いんだな。
「2、1、0……終わった」
直後、俺達の足元に白く輝く円陣が出現したかと思えば眩い光を放ち、一瞬にして俺達を最初のスタート地点へと戻した。
『お疲れ様。今回のジョーカーはフレイヤ先生だ。遭遇したチームが一つだけあるがそこは何とか逃げ延びたらしい。今回は評価石一つにつき1点となる。なお、取れなかったものも気落ちしなくていい。今後もこのようなイベントはやっていくつもりだしね。それでは諸君、教室へいきたまえ』
そう言うや否や学園長は一瞬にして姿を消した。
「あ~疲れた。さっさと帰ろ」
「そうですわね。流石につかれましたわ」
「……あ、そう言えば俺のクラスって何なんだ?」
「あんたは破壊魔法だから超常クラスよ。イリナについていけば分かるわ。じゃ、また」
そう言い、アンナはそそくさと去っていった。
「行きますわよ」
「お、おう」
イリナの隣に立って歩きながらコロシアムを出て周囲を見渡してみる。
今気づいたんだがこの学園の造りは見た感じ、カタカナの”ロ”、もしくは図形の四角形と同じ形をしているらしい。
職員室であろう大きな建物を上辺とするとそこから渡り廊下で左右の両辺となる建物が繋がれ、そしてその両辺となる建物から伸びている二つの渡り廊下で最後の建物が結ばれている。
アンナが向っていったのは上の辺にあたる職員室から見て左側の建物、俺達が向っているのは右側の建物だ。
どうやらそれぞれの建物ごとに分けられているらしい。
「一応説明しておきますが魔法は大きく分けて三種類ありますの。一つはアンナの様な炎を操ったり、雷を操ったりすることのできる属性魔法、二つ目に肉体や物質などを強化する強化魔法、三つ目に私の様な瞬間移動や貴方の様な破壊魔法などの超常魔法。校舎はそれぞれ分かれています。食堂と学生寮位でしょうか、一同が介することがあるのは。そして先程、集まっていたのは実技演習などで使われるコロシアム、やけに豪華な造りをしているのが職員棟ですわ」
「やっぱりあれ、職員室なんだ」
「ええ。私達一年生は一階、二年生は二階、三年生は三階、四階は教材などを販売している店などがある階で最上階の五階は書庫となってますわ」
「へぇ。クラスは何クラスあるんだ?」
「クラス分けされているのは属性魔法科だけであとは学年一クラスですわ」
学年一クラス体制ってことは属性魔法科は数が死ぬほど多くて他の魔法はそこそこしかいないってことなのか。いわゆるメジャーな部活とマイナーな部活の部員の数の差みたいな感じだな。
向こうはコンクリートと鉄筋が主流だけどこっちじゃ木造とかレンガ造りが主流なのか。そう言えば食寝室はレンガ造りで他は木造だったな。
「ここが私たちの教室ですわ」
「へぇ、ここ………は?」
教室に入った瞬間、思わずそんな声が出てしまった。
クラスが一つしかないと聞いていた時点である程度少ないとは思っていたけど流石にこれは度を過ぎて少なすぎるだろ。
「なんで机が二つしかないんだ?」
「言ったでしょう? クラスは一つしかないと」
「そうだけど……少なすぎるだろ」
「超常魔法を宿している多くの生徒はエウリオス魔法学園へ行きますから」
「エ、エウリオス?」
「……貴方、エウリオス様を知りませんの?」
首を左右に振るとイリナは首を左右に振って大きくため息をついた。
え、もしかしてこの世界じゃ常識なことですか?
「エウリオス・グラヴィニア。確認されている中で歴史上最初に超常系の魔法を宿すとともに最強の超常系魔法使いとして知られている方ですわ。エウリオス様が創設された学園がエウリオス魔法学園。超常系の魔法使いの間では名門中の名門と言われている学園ですわ。そしてこのサバティエル魔法学園もサバティエル様が創設なさった学園ですわ。そもそも魔法学園というものはどれか一つの魔法科しか作らないのですがこのサバティエル学園だけ全ての科が存在していますの」
「という事はそのサバティエルさまって人は全部使えるのか?」
「ええ。属性・強化・超常、歴史上唯一三タイプ全ての魔法を使いこなす人物ですわ。この学園のみ、全ての魔法を教える学園ですの。まぁ、属性魔法が多くなってしまっていますが」
なるほどね。だからこんなにも生徒の数が少ないってわけか。
「そのサバティエル様に会えるのか?」
「さあ、どうでしょうね」
もしも会えたら色々と教わりたいな……でも三タイプ全部使える人なら俺が元の世界に帰ることが出来る方法に繋がる魔法を知っているかもしれない。
出来るだけ早く、その人に会ってみたいな。
そんなことを考えていると教室のドアが開いたのでそっちを見てみると白衣を着た白髪で眼鏡をかけた女性が教室に入ってきた。