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ワールド・ブレイク  作者: ケン
二学期
49/59

第四十八話

 荒れ地に爆音が鳴り響くとともにいくつもの巨大な穴が開き、火の粉が舞う。

 火球と火球がぶつかり合い、周囲に炎がまき散らされ、鞭同士がぶつかり合う事で大きな市鳴る音が鳴り響くとともに爆発が起き、荒れ地を抉っていく。

 アンナとフレイヤ・プロメテウスが闘い始めたから十分が経過したが力は拮抗しており、互いに魔力を消費していくだけ。

「流石はアンナちゃん! 強くなったわねぇ! お姉ちゃん嬉しいわ!」

「黙れ黙れ黙れ!」

 余裕の笑みを浮かべながら魔法を発動するフレイヤに対し、アンナは憎しみの色に顔を染め上げながらただひたすらフレイヤを殺す為だけに魔法を放っていく。

 そこに戦略などは無くただ単に奴を殺す為だけ。

 アンナの周囲に魔法陣が四つ、囲うように展開されたかと思えばそこから火柱が立ち上り、その火柱が一瞬にして龍の顔へと変化する。

 フレイヤ・プロメテウスはなお笑みを浮かべながらも同じように龍を炎から創り出すが彼女は巨大な龍を一瞬にして作り上げ、アンナへと向ける。

「昔からアンナちゃんは私に何も敵わなかったもんね。魔力の才能も魔法の使い方も」

「うるさい! お前のせいであたしの人生は壊れたのよ!」

 四つの龍が重なり合い、フレイヤが生み出した巨大な龍へと向かっていく。

 互いの龍がぶつかり合った瞬間、周囲に爆風が放たれるとともに火柱が立ち上り、彼女たちが生み出した龍が押し合いを始めるが徐々にアンナが押され始める。

「そーれ♪!」

「っっ!」

 直後、フレイヤが生み出した龍がアンナの生み出した龍をかみ砕き、そのまま突き進んでいき、地面に着弾した瞬間、大爆発を起こし、地面を抉りながらアンナをも容易に吹き飛ばす。

 アンナは吹き飛ばされながらも後方に赤い魔法陣を生成するとそこから炎で出来た腕が出現し、彼女を抱きとめるとそのまま勢いよくフレイヤに向けて彼女を投げ飛ばす。

 拳に炎を凝縮させ、勢いよく腕を突き出すと火炎放射のように炎が伸びていく。

「フフッ、無駄無駄」

 フレイヤ・プロメテウスが指をパチンと鳴らした瞬間、彼女の足元から炎の壁が上がってきてアンナの放った一撃を飲み込むや否や下級の形にして倍の威力で彼女に向けて反射する。

 アンナは鞭を握りしめ、跳ね返されてきた火球を叩きつけて破壊する。

 顔を上げた瞬間、上空から大量の炎の矢が降り注いでくるのが見え、慌ててこちらも大量の魔法陣を展開してそこから迎撃用の矢を放つ。

 直後、前方から莫大な魔力を感知し、彼女が前を見るとフレイヤ・プロメテウスがブツブツと呟きながら魔法陣に魔力を注ぎ込んでいた。

「血の盟約に従い我のもとにはせ参じよ!」

 アンナも足元に魔法陣を展開し、そこへ魔力を注ぎ込む。

「フェニックス!」

「フレアバード!」

 彼女たちの魔法陣から炎が上空に向かって立ち上るや否や上空で形を変え、一つは巨大な炎の鳥へと変化するがもう片方は十二枚もの翼を大きく広げた巨大な存在へと変化する。

 プロメテウス家は代々、フェニックスという上位の魔物と契約することでプロメテウス家の特色の一つである属性魔法の炎を強化してきた。

 フェニックスは代々、その家の長女が契約する。

 そして次女はフェニックスの下位的存在であるフレアバードと契約する。

 どちらも炎を司る魔物であることには違いないがその強さには次元の壁が存在していると言われ、さらにフェニックスは契約者に対して無限ともいえる魔力を供給する。

「そんなちっぽけな魔物で勝てると思うの?」

「黙れ。フレアバード!」

 アンナはフェニックスの相手をフレアバードに任せるとともにフレイヤ・プロメテウスへと向かっていく。

 家族の殺された罪を償わせるために彼女は目の前の相手を殺すまでは倒れることは無い。








 ―――――――☆―――――――

 イリナの瞬間移動により、平原から少し離れた場所へと到着した俺達だったがアンナ達が闘っている場所はすぐに分かった。

 前方では巨大な炎の鳥のような存在がぶつかり合っており、その部分だけ夕方でもないというのに空が赤く染まりあがっている。

 アンナのもとへと向かおうとしたその時、目の前に巨大な魔法陣が出現し、そこから放たれる光の中から鎧を身にまとった数人の男と女王陛下が現れた。

「どこへ向かうつもりですか?」

「アンナのもとへ行くだけです」

「行って何をするのですか?」

「あいつがフレイヤ・プロメテウスを殺すのを止めるんです。俺はあいつが犯罪者になる様子を目の前で見て見ぬふりなんかできない」

「これは王国の問題。フレイヤ・プロメテウスはプロメテウス家の当主夫妻を殺し、さらに王国内で凶精霊を配布した罪により指名手配されています。貴方たち学生が出る幕ではありません」

 確かに女王陛下の言う通りだ。

 フレイヤ・プロメテウスは国で指名手配されている犯罪者でそいつを捕まえるのは王国の騎士隊の仕事であって俺たち学生が出るようなものじゃない。

 でも……アンナを止められるのは俺達だけだ。これだけは断言できる。

 短い期間だけど一緒に戦い、一緒に笑いあった俺達にしかあいつのことは理解できないし、あいつの内面を知っている奴だっていない。

「女王陛下。あいつは……アンナはフレイヤを自分の手で殺すまでは止まりませんよ」

「ならば死刑執行を彼女に任せればよいだけです」

「……それじゃ……それじゃ意味がないんだよ。今のあいつは憎しみだけで自分を支えている。その憎しみが消えたらあいつは確実に崩壊する……それじゃダメなんだよ! あいつはサバティエル魔法学園の生徒だ! もうフレイヤ・プロメテウスのような存在は出すわけにはいかない! あいつはもう一度、学園に戻って俺達と一緒に卒業しなきゃいけないんだ! 俺は崩壊したあいつを魔法学園に連れ戻したいんじゃない! 元のあいつを連れ戻したいんだ! だから……だから俺はアンナのもとへ向かう」

 そう言うと騎士隊の連中が剣を持ち、構える。

「たとえそれが女王である私の命令を無視した物であったとしてもですか?」

「あぁ、そうだよ! 俺はアンナのところに行く! もしもそれを邪魔するんだったら俺は女王陛下でもぶっ壊していく! たとえ世界を破壊することになったとしても俺は友達を救いたい! かかってこいよ国家元首! 俺はあんたを超えていく」

「………………一時間だけ貴方達に猶予を与えましょう。ただし、それを超えた場合は騎士隊を突入させ、フレイヤ・プロメテウスを確保します」

「ありがとうございます! イリナ!」

「ええ」

 俺達は女王陛下の隣を通り過ぎ、アンナのもとへと向かった。










 ――――――☆―――――――

 既に荒れ地には巨大な穴がいくつも空いており、ぺんぺん草ひとつすら生えない程荒廃している。

 そしてその荒廃した大地にはフレイヤ・プロメテウスが立っており、彼女の後方には無傷のフェニックスが滞空しており、その前にはアンナが地面に倒れている。

 既に彼女のフレアバードはフェニックスに飲み込まれていた。

「貴方じゃ無理だったのよ。フェニックスと契約した時点で無限にも近い量の魔力を供給されている。そんな私にフレアバードなんて言うちっぽけな魔物としか契約していない貴方じゃ勝てないのよ。分かるかしら? 次元が違うのよ」

 アンナは歯を食いしばり、悔しそうにするが彼女の言う通り、もうアンナには憎しみはあれど彼女に立ち向かっていく希望は無かった。

 結局、彼女は両親の仇を取ることが出来なかった。

 楽しかった思い出を、大切な思い出を焼き尽くした相手を殺すことはできないという絶望が彼女を包み込んでいき、彼女の目から涙が溢れ出る。

「あ~あ、泣いちゃって……大丈夫よ。もうあいつらのもとへ連れて行ってあげるから。そして完成させるの。魔法が存在しない世界をね」

 そう言いながら数歩、アンナから離れるとフレイヤ目の前に赤い魔法陣を展開し、そこに炎を凝縮させ、巨大な火球を作り出す。

 肉片一つ、髪の毛一本も残さずに焼き尽くす勢いのその火球はまっすぐアンナに向けられる。

「さようなら。哀れな妹ちゃん」

 フレイヤが魔方陣を軽く突いた瞬間、火球がアンナに向かって放たれる。

 地面を抉りながら突き進んでいく火球の前にアンナは魔法を発動することも無くただ涙を流しながら楽しかった記憶を思い出す。

 母親と一緒に編み物をしたこと、父親と一緒に綺麗な花々が咲き誇る場所へ行ったこと、そしてまだ優しかったころの姉と一緒に遊んだこと。

 もう今となってはあり得ないものが彼女の脳裏をかすめていく。

(さようなら…………)

 一瞬、彼の顔が思い浮かんだが彼女は何も思わず、目を閉じた。








「アンナァァァァァァァァァァァァ!」




「っっ!」

 アンナの耳にその声が届いた瞬間、何かが砕けるような音が響きわたる。

 慌てて顔を上げると目の前には両手から黒い炎の様なものを放っている男子が立っており、その後ろ姿には見覚えがあった。

「な、なんで……なんであんたがここに」

「助けに来たぜ。アンナ」

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