第四十四話
まだ太陽も顔を見せていないような早朝、俺とイリナ、そしてフレイヤ先生とグラン先生、学園長の帝国へ行く五人が学園の玄関口に集合し、それのお見送りとして教員一同とリアン先輩、そしてミウォル先輩が来てくれた。
「トコヨ君。これ」
「これって」
リアン先輩が渡してくれたのはメモ用紙サイズの小さな紙に魔法陣が書かれているもので一枚は金色に近い黄色で魔法陣が書かれており、もう一枚は青色で描かれている。
「魔法を刻んだものだよ。ミウォルの透視魔法と僕の連重魔法を封じている。もし向こうで何かあったら使ってくれ」
「ありがとうございます」
「女の子を透視するのに使っちゃダメだよ?」
「しませんよ」
やってみたい気分だがそんなことやっていたらイリナにぶっ飛ばされないし、俺以外、全員女性だから学園に帰って来た時の雰囲気がおかしくなってしまう。
そんなことを考えているとイリナの手がヒョイっと伸び、ミウォル先輩の魔法が刻まれている紙を取り上げてしまった。
「これはむしろ私に必要なものですわ」
「んん~? イリナちゃん、もしかしてトコヨ君が女の子の裸見るのが嫌なのかな?」
「まさか。戦術的に考えてのことですわ」
「まあ、それはともかくとして二人とも、頑張って」
「よし、ではいくぞ」
学園長がそう言ったので俺達も学園長の傍へと行くとイリナが目を閉じる。
国内ならまだしも国外の知らない景色を写真だけを頼りに飛ぶ際はいくら覚醒を果たした彼女でも少し頭の中で整理する時間が必要になる。
「行けます」
「よし、ではいくぞ!」
直後、視界が一瞬だけ歪んだかと思えば大きな母屋の中の様な室内へと到着し、周囲を見渡してみると今回の協力者らしき金髪の髪を腰の辺りにまで伸ばし、髪留めで結んでいる女性が入り口付近にいた。
この人が帝国の情報をいくつもすっぱ抜いているっていう超凄腕のヴィヴァイン王国のスパイ……女スパイって聞くとなんかエロい感じがするのは俺だけか?
「お待ちしておりました、皆さま」
「現状の説明を」
「はい。現在、帝国内ではエウリオス魔法学園の生徒たちによる自警団が組織され、侵入者の有無を確認していましたが今現在は帝国内にその姿は見当たりません」
「何故?」
「侵入者が来たからです」
侵入者ってことは同盟三カ国のじゃないはずだ。
同盟三カ国で決めたことは俺たちがまず先に帝国内部へ侵入し、女王陛下たちの身の安全を確保してからヴィヴァイン王国の部隊が突入してくるっていう算段のはずだ。
こんな切羽詰まった状況の中で1人身勝手な行動をする奴なんていないはずだ。
「今のところ女王陛下たちの処刑は行われていないようですが救出に行かれるのであればこのタイミングが一番確実です。ほとんどの学園生徒が侵入者に当てられていますし、その侵入者も相当の手練れらしく、学園生徒の軍団を物ともしていません」
「だが奴がいる王都にも部隊はいるのだろう?」
「はい。ですが百人程度の兵士とエウリオスだけです」
エウリオス・グラヴィニア……帝国にあるエウリオス魔法学園の創設者の血を引く存在……超常魔法のエキスパートなんだろうけど……。
「エウリオスは私が止めよう。フレイヤ、君は兵士を止めてくれ」
「了解」
「グランとトコヨ君、そしてイリナ君で救出へ行ってくれ」
「「了解しました」」
「……行くぞ」
学園長のその一言から俺達は協力者さんの家から飛び出し、一気に王都に向かって走り出すが視界がぶれた、一気に王都の門の前へと転移した。
流石はイリナだな。一瞬で景色を記憶するなんて。
そして俺達を待っていたであろう兵士たちが一斉に俺達に襲い掛かってくるがそれらを吹き飛ばすように火球が放たれ、大爆発を起こす。
「ここはお任せください」
フレイヤ先生をそこに残し、俺達は王宮の中へと走り始める。
ビブリア王国の王宮の中は景観を壊さない程度の煌びやかさだったけど帝国の王都は景観なんて考えていないのが丸わかりのゴテゴテ煌びやか仕様だ。
立てられている建物すべてが光沢のある金属でできているし、何より至る所に明らかに高そうな輝きを放っている鉱物で作られた帝国王の像が立てられている。
どれだけ権力と地位を誇示したいん……あいつか。
前方に鎧を身にまとい、緑色の髪を後ろで束ねている男性―――エウリオス・グラヴィニアの姿が見え、走っていた俺達は足を止める。
「やあ、待っていたよ……サバティエル」
「私は待ってなどいないさ……あの時、お前を殺しておくべきだった」
サ、サバティエル!? 学園長があの歴史上唯一、三タイプの魔法を宿した魔法使いでサバティエル魔法学園を創立したあのサバティエル!? 身近にいたじゃん。
「君たちは先に行きなさい」
「はい。行くぞ」
グラン先生の従い、俺達はエウリオスの隣を通り過ぎていくが奴は俺達の方など一度も見ず、何も邪魔などもしなかった。
学園長とあいつはいったいどんな関係が……。
「学園長……サバティエルさまとエウリオス・グラヴィニアは同じ魔法学園にいた。元々エウリオスも初めての超常魔法を宿した血筋として入学前から注目されていたが一番の注目者はサバティエル様だった。二人は色々と考え方の違いからぶつかり合った。エウリオスは学園生時代は徹底した魔法至上主義者だったらしく、魔法のレベルが低いものを異端視するほどだったらしい」
「そしてレベルが低かろうが高かろうが受け入れる学園長とぶつかりあった」
俺の言葉にグラン先生は静かに首を縦に振る。
やがて魔法至上主義者だったエウリオスは超常魔法を宿す存在だけ入学することが許されている学園を設立し、学園長は魔法のクラスに関係なく全員が平等に入学できる機会を設けたサバティエル魔法学園を作り出したってことか。
「やがて国はサバティエル様の考え方に賛同していき、今の女王陛下になられてからそれはより速度を増していき、エウリオスのような考え方の人物が逆に異端視され始めた……そしてエウリオスは帝国へ行ったというわけだ……許せなかったんだろう。貴族でも何でもなかったサバティエル様が史上初めて超常魔法を宿した存在の血を引く者の色に染まっていくのが」
が、学園長って貴族じゃなかったのか……てっきりどこかの高名な貴族出身者だと思っていたけど……今の地位は三タイプの魔法を宿すものとして出来上がったものなのか。
直後、後方で大きな爆発が起きるが俺達は後ろを振り返らずにひたすら帝国王がいる王宮へと突き進んでいき、大きな扉の前で止まる。
「二人とも、下がっててください」
二人を下がらせ、手袋を両方外し、全力で扉を殴りつけた瞬間、一瞬にして無数の亀裂が走るとともに音を立てて大きく、厚い扉が瓦礫どころか小さな破片となって壊れ落ちていく。
扉を破壊し、王宮の中へと入った俺達の目の前に飛び込んできたのは帝国王、そして拘束されている女王陛下たちだった。