第四十二話
学園長によって俺達は騎士隊の本部に集められた。
四王会議の様子はあちらでも中継されていたらしく、すぐさまイリナとグラン先生を引き連れてこっちへ飛んできたらしい。
「今現在、王が不在、騎士隊も裏切り、ビブリア王国は完全に麻痺状態にある。治安維持は各魔法学園でも可能だが問題は女王陛下の身の安全だ。今のところバーン帝国へ連れていかれた可能性が高い。確証が得られるまでは動けないだろうが確証を得ればすぐさま帝国へ向かう。それまでは君たちも休んでおいてくれ」
休んでおいてくれて言われてもこんな状況で休めるはずもないんだよな……一応、部屋はあるけど焦土と化した王都が思いっきり見えるしな。
とりあえず今はここで指示を待つしかない。
他の護衛仲間たちは一旦、自分の国に帰還してそっちで指示を受けるという。
「大変なことになりましたわね」
「まあな。まさかこんなことに遭遇するとは思っても無かった……どうなるんだか」
「下手すればバーン帝国と同盟参加国による戦争ですわね。ですが騎士隊が裏切り、解散状態にある現状では魔法学園から徴兵ですわね」
王国の治安維持の役目は今まで騎士隊が担ってきたのにその騎士隊がバーン帝国に寝返ると同時に破壊活動を行ったせいで騎士隊はほぼ解散状態なうえに元々騎士隊は志願制だったから数だって限られているだろうし、仮に寝返っていないメンバーがいたとしても片手指ほどしかいないだろう。
それにリムが言っていたように帝国の魔法学園の奴ら、凶精霊で魔力を大幅に底上げしていたんだな……何で命を捨てるようなことを平気で出来るんだよ……洗脳を受けていた様子はないし……。
これもリムが言っていた国の外へ一歩出るだけで全く違う状況が広がっているってことなのか……こっちの国じゃ凶精霊は悪しきものなのに帝国では凶精霊はそういうものじゃない。
一応、凶精霊を使った奴らも全員鎮圧した後、運ばれていったけど多分……助からないよな。俺の魔法で破壊してもいまだに復帰できていない奴だっているんだし。
「ですが今回は明らかに帝国が悪。私たちのような学生が戦場に駆り出されることも無いでしょう」
「そうだと良いんだけどな……でも俺達は行かなきゃならないんじゃねえのか?」
「何故です?」
「騎士隊は解散状態でこっちから兵を送れない。となると同盟国に女王陛下救出を任せるんだろうけど……相手がすんなり了承してくれるか?」
「相手は同盟国ですわよ?」
「………同盟国でも政治的に利用できると踏めばトコトン利用してくる奴はいっぱいいるんだよ……今回みたいに女王陛下の下の奴らが裏切ったようにトップの考えが全体まで浸透してるってことは無いしな」
「確かにそうですが……今回は信じるしかないでしょう」
イリナの言う通り、そんなことを考えてばかりいたら国同士が仲良くなんてことはできないしな……今回ばかりは相手国を信頼するしかない。
変な考えを起こす奴がいなけりゃいいけど。
『諸君!』
そんな大音声が外から聞こえ、慌てて建物の外へ出てみると帝国からこの国の空へと魔法か何かを使ってか帝国の王の顔が空一面に映し出されていた。
『我らバーン帝国はビブリア王国・エウリオス王国・ヴィバイン王国の三カ国に対し、同盟破棄を伝えるとともに無条件降伏を迫る! もしもそれに反対するようであれば我ら帝国が誇る強大な軍事力をもってして貴様ら三カ国を蹂躙し、武力によって支配下へといれる! そしてもし、この要求を断るのであればここに捕えている三カ国の王を処刑する!』
映し出されたのは拘束状態にある三カ国の国家元首の姿。
こいつら本気で戦争を起こす気だし、何より俺達に無条件降伏以外の選択肢を取らせない気だろ! 国家元首を捕えられた状態でまともな判断が出来そうもないしな。
『なお返事の期限は三日後とする! それまでにおかしな行動をすれば即刻処刑し、その様子を公開する! 良いな、君たちの賢い返事を待っているぞ』
その言葉を最後に映し出されていた顔が消え去り、元の青空が景色に映るがとてもさっきまでの青空と同じものには見えなかった。
どうするんだ……国家元首を捕えられている状態で一袋どうやったらまともな判断が出来るってんだよ。
俺達の国で判断を下すのは恐らく学園長だ……学園長の判断次第でこの国の行く末そのものが大きく変わるかもしれない。
「……とりあえず君たちは学園に戻っておきなさい。後のことは私が国に残っている連中と話をする」
――――――☆―――――――
イリナの瞬間移動でサバティエル魔法学園へ戻ってきた俺達だったが学園の様子は俺が王都へ行く前とは全く違ったものになっていた。
なんせ騎士隊が反乱を起こしたところも恐らく国中で映し出されていただろうし、さっきの宣戦布告にも似た脅迫だって映し出されているはずだ。
今はここに残った教師たちでまとめられているけどそのまとまりもいつかは崩壊する……学園長はいったいどんな決断を下すんだ。
「ユージさん」
「よう……どうかしたのか」
「ちょっと学園の空気が重いので……貴方こそ部屋から出ていませんし同じなのでは?」
「まあな…………昔から帝国はこうだったのか?」
「軍事拡大を始めたのはここ最近ですわ。貴方が編入する十年ほど前から軍事拡大を行い始め、小さな隣国を無理やり併合させたりなど」
十年前か……十年前なんか俺まだ五、六歳くらいで小学校にも入ってるか分からない年齢だぞ……ちょっと待てよ。確かリムがこの世界へやってきたのも十年前だったよな……気のせいか。
十年で他国を脅かすほどの軍事力拡大を成し遂げるなんてある意味あの帝国の王もそっち方面では才能があったんだろうな。
あっちの世界でも色々と問題児はいたけどまさか同盟国に宣戦布告するヤンキーも顔真っ青のヤクザがいたなんてな。
「多分だけどさ……極端な考え方の人は帝国を滅ぼせとか言うよな」
「ですわね。帝国と言えど民はいますから……ですが噂では洗脳教育によって高齢者を除く若者が洗脳状態にあるとまで言われていますわ」
「マジかよ……恐ろしい国があるもんだ」
「この世界が平和になりつつあったのもここ最近の話し。お父様が子供のころは大戦時代ですから多くの血が流れたと聞きます」
大戦か……確かにその当時と比べたら帝国が起こした反乱は小さなもんだろうけどそのうちその考えに賛同する国が出てきてもう一度、大戦がはじまったりしてな。
それは無いってのが望みだけど中々、世界は残酷なもんだからな……今頃、アンナは何をやってんだろうか……はぁ。
「……学園長はどんな決断を下すんだろうな」
「さあ……ですが確実に言えるのはこの先、数十年は語り継がれるでしょうね。悪くも良くも」
帝国の要求をのめばビブリア王国はバーン帝国の支配下に入ったという事で語り継がれ、要求を跳ね除け、女王陛下を見事救出できれば英断として語り継がれる。
俺達は多段にその決断に従うしかない。
―――――☆―――――――
「そうか……君はもうここからはいなくなってしまうんだね」
「軍事拡大に関してはどうでも良かったけど宣戦布告をしてしまえば僕の魔法の無い世界の創造という最終目的を邪魔する結果になるからね。帝国は魔法を捨てる気はサラサラないのだろう?」
「王は行き過ぎた魔法至上主義者だからね。一応、劇には付き合ってはいるが所詮、私もサバティエルを殺す為だけに従っているだけ。無論、サバティエルを殺せば私はこの魔法など捨て去れるさ」
「エウリオス、君も中々の物だと思うよ。復讐の為だけに魔法を鍛え上げるなんて」
「奴につけられたこの傷は奴を殺すことでし癒えない……サバティエルとの決着はともかく、恐らく帝国はもうダメだろう。向こうにはサバティエル、グラン、フレイヤと有名人が教員として働ているからね。いくら王でも脳が筋肉みたいな人だ。人海戦術しかしない。この国は同盟三カ国によって共同維持され、やがては平和を突き進む独立国となるだろう」
「だろうね……手筈は分かっているね?」
「もちろん。仮にワールド・ブレイクが発動した際にのみだろう? だが本当に発動するのか?」
「するさ。あれでもライバルだし、力は上昇しつつある……魔法の無い世界に破壊と創造、両方の魔法は必要ないからね」