第四十一話
「どういう意味だよ! あんた達はこの王国を護るために結成された組織じゃねえか!」
「最初はそうだったよ。王国を護るため、日々鍛錬し、おのれの強さを磨き上げ、王国・そして王国の民を傷つけんとする敵どもを斬り殺してきた……それが我らの誇りでもあった。国を護っているという実感、民を護っているという実感がな……だが! 女王陛下に変わられてからというもの周辺の国々と和平同盟を結び、戦いを無くしていった! あまつさえ貴族の地位すらも無くすと! 絶望したよ。ここまで無能な国家元首がいるのか、とね。我らは戦いあってこその存在。失望の中、バーン帝国国王に声をかけられた。我らとともに世界をその手に収めぬかと」
「それであんた達は戦いを求めたっていうのか」
「そうだ」
周囲を見て見ると俺達とそう年が変わらない魔法学園の制服らしき服を纏った男子・女子たちが笑みを浮かべながら逃げ惑う人たちに向かって魔法を放ち、消していく。
リムが言っていたのはこういう事だったのかよ…………なんで……何で戦いを求めるんだよ! なんで平和な世界を望まないんだよ!
分かんねえよ……騎士隊っていうのは王国を護る存在なんだろ……戦争を勝ち抜くために存在してるわけじゃないんだろ!
「女王陛下は殺す。奴を殺し、我らビブリオ王国はバーン帝国の下につく」
「……ざっけんなよ。何が闘いを求めただ……てめえはただ単に人を殺したいだけだろうが! 帝国の下についたら国民が強制的に軍に入れられるんだぞ!? そいつの意思なんて関係なく、何の関係も無い国々の人間を殺して自分たちの下に無理やりつかせるんだぞ!?」
「それが我らの存在意義だ!」
振り下ろされてくる剣目がけて拳を叩きつけると剣が一瞬にして砕け散り、それを見た騎士隊長は大きく後ろへと飛びのき、傍に魔法陣を展開してそこへ砕けた剣を放り投げると新たな剣の持ち手が魔法陣から出てきて騎士隊長の手に収まる。
「そんな……そんなクソみたいに役立たない存在意義は俺が破壊してやるよ!」
「ほざけガキがぁ!」
相手が駆け出すと同時に俺も駆け出す。
ふざけんじゃねえよ! 何が闘いあってこその存在意義だ! それはただ単にてめえだけの存在意義で国民全員がそんな存在意義なんかじゃねえんだよ!
てめえがてめえの存在意義を満たしたかったらてめえ一人だけで満たせ!
相手が付きだしてきた一本目の剣を手で少し触れるだけで粉々に粉砕し、二本目に振り下ろされてくる剣をすれすれのところを避けるとともに大きく一歩を踏み出し、相手との距離を縮める。
「っっ!」
「周りを巻き込んでんじゃねえよ!」
相手の腹部に拳を突き刺した瞬間、鎧が粉々に砕けるとともに拳が突き刺さり、相手の苦しそうな呼吸が聞こえてくるがそれでもまだ倒れず、魔法陣から剣を取り出し、俺に向ける。
「おぉぉぉぉぉぉ!」
剣を破壊しながら俺の突きだした拳が突き進んでいき、持ち手すら破壊し、そのまま相手の顔面に拳が突き刺さり、血が飛ぶ。
「あぁぁぁぁ!」
「でぃやぁ!」
「がぁ!」
相手が鼻を抑えて数歩後ろへ後ずさったところをすかさず前に出て距離を詰め、回し蹴りを加えて顔を蹴り飛ばし、さらに踵落としをぶつけようとするがその場から飛び退かれ、踵が地面に直撃し、そこに大きな穴が開く。
騎士隊長は白い魔法陣を顔の近くへと展開するが目を見開く。
「き、貴様の魔法はなんなのだ! き、傷が治せない! この化け物が!」
俺の足元に巨大な赤く輝く魔方陣が展開されるが足を上げ、強く地面をけりつけた瞬間、魔法陣がガラスが砕けるような破砕音を響かせながら粉々に砕け散り、消滅する。
騎士隊長の目の前に魔法陣が展開され、そこから巨大な火球が俺めがけて放たれてくる。
向かってくる火球を虫を払うように軽く手を振った瞬間、一瞬で破壊される。
「き、騎士隊長が放つ魔法を」
「俺を鍛えてくれたのは誰だと思ってんだ」
ゆっくりと騎士隊長……いや、元騎士隊長に向かって歩いていく。
「俺を鍛えてくれたのはエルスタイン公爵家が誇る姉妹……そして俺の魔法は全てを破壊するワールド・ブレイク……ここでてめえは終わりだ!」
大きく一歩踏み出した瞬間、前後左右全ての方角に魔法陣が展開されて俺に向かって火球・雷・高圧水流が大量に向かってくる。
エリナさんが言っていた。たとえ全方位囲まれて攻撃されようとも決して止まらず、後ろを振り向かず、突き進んでいけと!
アリナさんが言っていた。属性魔法を使う奴らが一番嫌いなのは攻撃をしても立ち上がってひたすら殴りかかってくる奴ら。だから何が来ようとも立ち上がって相手を!
「破壊しろってな!」
足で地面を大きく破壊し、下へと降りることで魔法の直線距離から外れ、魔法の一撃を避けるとともに同じように下に落ちてくる騎士隊長に向かって駆け出す。
「えあぁぁぁぁぁぁぁ!」
落ちてくる騎士隊長目がけて拳を突きだした瞬間、相手の腹部に深く突き刺さり、口から大量の血反吐お吐き、騎士隊長はそのまま地面に倒れ、動かなくなった。
穴から抜け出て周囲を見渡すと所々で煙は上がっているけどほとんどの奴らが鎮圧されたのか爆発が起きている様子は見当たらない。
「でも問題は……」
あれから一向に王宮で音一つしない……。
王宮の門を開け、中へと入るが警備の姿が一人も見当たらず、王宮の中に人の姿は一切なかった。
どういうことだよ……全員が全員、裏切り者だったなんてことはないだろうし……いや、確か王宮の中の護衛は全て騎士隊に任されていたはずだし、四王会議だからってことで護衛の奴ら以外はいない。
階段を上がり、最上階へとたどり着き、ドアが粉々に砕けている部屋へとはいるがそこにも誰もおらず、砕けている円卓の欠片がそこらに散らばっている。
「血が付着してるわけじゃないから……連れ去られたのか」
閉められていた窓を開けるとさっきまでいなかった集団が見え、その中に見覚えのある顔が見える。
やっぱり来るよな……先生。