第四十話
リムと別れた後、護衛の任を与えられている場所へ戻ると既にリアン先輩がいた。
俺と先輩が任されているのは王宮に唯一、入ることのできる正面玄関で護衛の中では一番、実力のある奴らが配置されるらしい。
リアン先輩は分かるけどまさか俺まで実力がある奴に認定されるとは……な、なんか嬉しいな。夏休みを全て返上して特訓に費やした意味があったってわけだ。
「トコヨ君。今日が最終日みたいだよ」
「へ? あぁ」
リアン先輩が指差していた場所を見て見ると騎士隊の人達が何やら大きな水晶のような物をせっせと入り口から少し離れた場所に置いており、少しずつながら人々の集まってきていた。
今回の四王会議は二日くらいってことは二つくらいしか話さなかったのか……一つは帝国の軍事拡大についてだとしてももう一つはなんだ?
まあ、あと一つは分からねえけど何事も無くてよかったよ。
「そろそろ終わりですかね」
「そうだね」
騎士隊の人達も既に準備を終え、やることが無くなったのかチラホラ集まりだしている人たちの整理をし始めた。
恐らくあと十分もすれば四王会議の締めくくりの様子があの水晶から中継されるらしいし、俺達ももうお役御免って感じだな。
とりあえず護衛任務が終わったら部屋でゆっくり寝たいし、休んで多分の授業の取り戻しもしたいな……授業つっても自習のようなもんだから休みの日にいくらでもできるんだけどな。
そんなことを考えていると続々と人々が集まってきて騎士隊だけでは整理しきれない様子なので俺達も人々の整理作業に入った。
向こうじゃ国会中継だって見てるやつはほとんどいないだろうにこっちの世界じゃ若い奴らも見に来るんだな。
整理が終わり、入り口付近へ戻ってみるとまるで大規模デモが起きているのかと勘違いするくらいの数の人間が王宮の前に集まった。
その時、水晶が淡く光を発したかと思えば上空に映像が表示され、円卓についている四カ国の王様の姿が映し出される。
二人が女性で二人が男性か……言われなくても帝国の王様が分かるくらいに武装してるな。
白髪が少し混じった初老の男性は漆黒で光沢のある鎧を身に纏っており、明らかに他の王様と比べて雰囲気が違いすぎる。
話し合に来たのではなく、戦争しに来たのかと思うくらいにキツイ目つきだし、さっきから機嫌が悪いのか眉間に皺が寄り続けている。
ビブリア王国の女王陛下の隣には赤い髪で年は四十代ほどのおばちゃん、そのおばちゃんと対面する形で黒髪で顔にいくつもの傷が入ったごついおっちゃん、そして女王陛下に対面する形で帝国の王様が座っているけどどう見ても話し合いをしに来たのかと思うくらいに雰囲気が暗い。
「今回は相当、言い合いをしたみたいだね」
「そうっすよね。特にあのゴツイ人とか機嫌悪そうですし、帝国の王様なんかもうブチギレ数秒前っていう顔してますしね」
「ちなみに顔に傷が入っている方がヴィヴァインの王、女性がエウリオスの女王だよ」
『ではこれより、四王会議の締めくくりを行います』
『ワシは軍備縮小など断固反対だ!』
ビブリア王国の女王陛下がそう言うや否や我慢の限界に来たのか帝国の王様が怒鳴り散らす。
『帝国は今、隣国と戦っているというのに軍備を縮小するなどおかしな話だ!』
『ですが帝国側から吹っかけた戦争ではありませんか』
『小娘が黙っていろ! 奴らは帝国の領土を自分たちの物だと主張したのだぞ!』
『反乱軍がいると称して軍を進軍させたのはどこのどいつだ。結局、反乱軍がいたという報告は貴様ら帝国からは聞いておらん。それに貴様らが進軍してから隣国の王が次々と領土の主張を辞めたのも偶然の一致とは言えない気がするがな』
『黙れヴィヴァイン王! そもそも我らがやっているのは戦争ではない!』
『じゃあなんだというの?』
『反乱の芽をあらかじめ摘むための行動だ!』
『帝国に隣国が反乱を起こすのも無理が無いのでは? 頻繁に国境付近で軍事演習を行い、抗議すら聞き入れないという姿勢では致し方ないでしょう』
自分よりもはるかに若い女王陛下に正論に近いことを言われてさらに腹を立てたのか帝国の王は拳を円卓に強く叩きつける。
お、おいおい。このままいって大丈夫なのか? 暴れだしたりしないよな?
『バーン帝国王よ。もう武力で何かを解決する時代は終わったのです。大戦時代、帝国は武力によって繁栄したのでしょうが今は武力ではなく、対話によって互いに協力し、平和を築いていく時代へと入っています。軍を持つなとは言いません。ですが異常なまでの軍備拡大を我々は咎めているだけ。帝国王よ。どうか私たちと共に平和を築いてはくれませんか』
『王よ。もう何を言っても無駄ですよ』
そんな声が響くとともに会議室の大きな扉が爆発を起こして吹き飛び、一人の男が四王会議が開かれている会議室の中へと入っていく。
その男は鎧を身にまとい、緑色の髪を後ろで束ねている男性だった。
「あ、あれは」
「誰ですか」
「エウリオス・グラヴィニア!」
っっ! エウリオス・グラヴィニアってあの超常魔法の使い手がほとんど全員入学するっているエウリオス魔法学園の設立者の血を継ぐ奴か!?
なんでそんな奴が四王会議の場にいるんだよ!
突然のことに集まっていた人々はざわめき、会議室のその場にいる王ですら平常心を保てないでいる様子が映し出されている。
『貴様! ここをなんだと思っている!』
『王よ。もう彼らは貴方の話に耳を貸しませぬ。今こそ帝国の力を誇示するときですぞ!』
『……そうだな』
小さくそう呟くや否や腰に携えていた大きな剣を抜くと迷うことなくその剣を両手で持って振り上げ、円卓どころか床すら貫通する勢いで振り下ろした。
貫かれた円卓は粉々に砕け、周囲に破片が飛び散る。
その様子が流れた瞬間、後方から大きな爆発音が響くとともに人々の悲鳴や叫びが響きわたり、辺りは騒然となった。
『帝国王よ! 貴様! 今自分がやったことを理解しているのか!? この円卓は四カ国の同盟を意味する物! それを貫き、破壊したという事は宣戦布告と同意義なのだぞ!』
『構わん! バーン帝国王・アリエス・バーンの名において我らに従わぬ国々を滅ぼす!』
そんな叫び声とともに映像が途切れる。
直後、背後から叫び声が響き、慌てて振り返ると今の今まで暇そうにしていた騎士隊の連中が剣を抜き、それを空に掲げて叫びをあげながら集まっている人々を切り裂いていく。
騎士隊の連中は口々にバーン帝国万歳と叫びながら切り裂いていく。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
小さな女の子にすら剣を振り上げようとしていた奴目がけて駆け出し、顔を覆っている鎧ごと相手の顔面を殴りつけ、吹き飛ばす。
リアン先輩もそこに参戦し、次々と騎士隊の連中を魔法で吹き飛ばしていく。
なんでだよ……何で人々を護るはずの騎士隊の連中が人々を刺殺していってるんだよ!
「トコヨ君後ろだ!」
「っっ!」
そんな叫びを聞くと同時に振り返りながら拳を突きだした瞬間、剣が直撃するが斬られるよりも先にあっちが粉砕する。
そのまま相手が次の攻撃を繰り出すよりも先に前に出て左手で殴りつけ、怯んだところに相手の頭を鷲掴みにするとともに膝蹴りを食らわし、もう一発顔面を殴りつけて吹き飛ばした。
「なんでだよ……なんであんた達が人々を傷つけるんだ!」
「すべてはバーン帝国繁栄のためだよ」
そんな声が聞こえ、振り返るとそこには両手に剣を携えた男性が立っていた。
その男性は俺達がここへ来た初日、ホテルへと案内してくれた騎士隊のリーダーだった。