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ワールド・ブレイク  作者: ケン
二学期
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第三十九話

 護衛任務2日目、今日も何も起きずに俺とリアン先輩はお昼休みに入っていた。

 部屋にいても何もないので王都の観光でもしようかと思い立ち、宿を出たのは良いが特に何かがあるわけでもないし、お金を持ってきているわけでもないのでただ単にブラブラと歩くだけで寂しい。

 流石に暇すぎるな……何か良い暇つぶしは無い物かね。


「やぁ、僕のライバル」

「っっ! お、お前あの時の!」


 振り返るとそこには白髪のあの時の男が立っており、ニコニコと笑みを浮かべている。

 慌てて周囲を見渡すがさっきまでいた人は俺たち二人を除いて誰一人として姿が見えなかった。


「まだ名乗ってなかったね。僕はリム。よろしく」

「なんでお前がここに!」

「僕は彼女と違って指名手配されるようなことはしていないからね。自由なのさ、基本的に……今日、ここへやってきたのは色々理由があってね。様子見とおしゃべりかな」


 そういう奴の表情を伺うが嘘はついていないようだし、どうやら本気でここで何かをやるつもりも一切ないのか王宮にすら視線を移さない。

 本当にこいつはいったい何が目的なんだ……魔法の無い世界を作り出すとか言っておきながら特にドデカいことはしないし、王都にいても何か行動を起こす気でもない。


「強くなったんだね……でもまだその程度だと僕には勝てないよ」

「……教えてくれ。あんたと俺はいったいどういう関係なんだよ」

「そうだな~……簡単に言えば異世界転移者」


 俺はそいつが言ったことに驚きを隠せなかった。

 な、なんでこいつ俺が異世界から来た人間だってことを知ってるんだ……そう言えばあの時、異世界転移者はこれで二人目だって……ま、まさかその二人って俺と目の前のリムってやつなのか。


「僕もね、異世界からやってきたんだよ。十年ほど前にね。魔法は存在していたけどこことは違う世界……いつも戦争が絶えなくて血がいっぱい流れてて……毎日人の叫びや悲鳴、爆音が鳴り響いていた……その中で僕は生まれたんだよ……魔力を持たずにね」

「魔力を……持たずに?」

「そう。魔法が生活の基盤として存在する世界で魔力を持たない……すなわち魔法が使えない存在は人間として認められないのさ。病原菌・化け物・呪われた子……僕を言い表す言葉は幾つもあった。そして僕は彼女に出会ったのさ……いいや、彼女たちと言った方が正しいか」


 黒いワンピースを着た黒髪の少女と白いワンピースを着た白髪の少女か……今考えれば黒か俺が使っている破壊魔法、白が目の前の奴が使っているワールド・クリエイトとか言う全てを創造する魔法か……。


「僕はね。魔法が憎いのさ。魔法さえなければ僕は普通に暮らしていた。なのに魔法という馬鹿げた力があるせいで僕は普通に生きることが出来なかった……だから僕は作るのさ、魔法の無い世界をね。今はそのための前準備さ」

「……戦争でも起こす気かよ」

「将来的にはそうなるかもね。でもまだ先の話だし、もしかしたら起きないかもしれない。君がいた世界はどんな世界だったんだい?」


 そう言いながら奴は近くに放置されていた木箱に腰を下ろす。

 俺も警戒は少ししながらも近くにある木箱に腰を下ろし、奴から少し距離を開けるがこいつに俺がいた世界のことをそのまま喋っていいのか悩む。

 もしもこいつが俺から聞いた話をどこかに流したりしたら……。

 そんなことを考えているとリムはクスクスと心底おかしそうに笑い始める。


「安心しなよ。僕と君だけの秘密だ。どの道、誰かに喋ったって異世界なんて信じやしない。この世界の住人はそういう事に関してはタブーとしている風潮があるからね。知ってるかい? 一度、別世界はあるかという議論がなされた時、出された結論は人間に干渉する魔法はあれど時空そのものに干渉する力のある魔法は存在しない……確かにこの世に存在するどの魔法も時空に干渉する魔法は存在しない。僕のワールド・クリエイトでもそんな魔法は作れない。それ以来、学者たちはそういった話はしなくなったのさ」

「…………俺の世界にはこんな魔法とかは存在しない世界だよ」


 そう言うと一瞬だけリムは驚くが目をキラキラと輝かせ、もっと聞かせろと目で訴えてくる。


「俺の世界はさ。魔法っていうものは空想でしかなかったんだ。その代わりこっちの世界よりも遥かに科学技術が進歩してた。移動手段も馬車なんかじゃない。金属の塊である車は飛行機なんかだよ。空を飛び、海を渡り、大地を走る……そんな世界だよ」

「そっか……もしも魔力が無く、魔法が使えない僕がその世界に行ったらどうなるかな?」

「普通の一般人だよ。普通に生まれ、普通に親に愛され、友人に囲まれる……そんな世界だよ。でもそんな世界にも目を逸らしたくなる事実はいっぱいある……魔法がある世界も魔法がない世界も目を逸らしたい事実や嫌なことはあるんだよ」

「それは理解しているよ。たとえどんな世界でもそう言う存在は一定数ある。僕が創る世界でもそう言った存在は出てくると思うよ……でもそこに魔法なんて必要ない。あんな才能に左右される不確定な物差しなんて必要ないんだよ」

「……向こうの世界じゃ金がない奴は酷いもんだったけこっちの世界においては魔力がないってのはどういう感じなんだよ」

「さっきも言ったように人として認めないさ。僕を生んだ母親は化け物の子を産んだ女として厄介者扱いされ、村を追放され、死んだよ。人を憎んで憎みつくしてね……それは僕も例外じゃなかった。僕は母親の顔は覚えているけど一度も笑った顔は見たことがない。いつも憎しみに満ちた顔だったよ……魔力が無ければ魔法も使えず、その日を暮すのさえ厳しかった。先天性魔力欠乏症って言ってね。極稀にそう言ったことが起こるそうだ……死にかけていた時、僕はワールド・クリエイトを得てこの世界へやってきた。以前とは百八十度違ったよ。金は集まり、愛は集まり、地位は勝手にできる……君は知っているか? この世界において魔法を使えぬ者はいない。でも魔法の才能がなく、底辺の生活をしている存在を。この国は良い方だ。魔法のレベルが低い物でも努力し、技術を身に着ければそれなりの人生を歩める。でも一歩外へ出てみれば魔法至上主義の世界が広がっている。魔法が使えないものはいらない……そんな世界なんだよ」


 …………魔法至上主義か……この国にいる限りはそんな感じは抱かないけどこの国から一歩出れば俺が想像もできない酷い惨劇が広がってるってわけか。

 魔法が無ければ人として認められず、ゴミ同然の様に扱われる……どこの世界に行こうがそう言った考え方や主義っていうのは多かれ少なかれ形を変えて存在しているんだな。


「君の世界はどうなのかな」

「俺の世界も似たようなもんだよ……ただ単に魔法が金に変わったくらいだ。本当に金が無いと周りから笑われるくらいの生活さ。こっちじゃ一応、金が無くても色々生活の仕方はあるだろ?」


 例え金が無くても魔法があればクエストをクリアすれば食事も手に入るし、上級をクリアすれば莫大な金が入ることだってある。

 向こうはそんなものは無いから働かないと金は入ってこない。

 でも金が無いと学校には行けないし、学校に行けないと社会から下に見られるし、社会から下に見られれば職に就くのさえ苦労することがある。


「……さてと、そろそろ帰った方がいいかもよ」

「そうする……なあ」

「無理だよ。君と僕はいずれ戦いあうよ」

 どうやらあいつには俺が言おうとしていたことは分かっていたらしい。

「破壊と創造は決して交わらない。表裏一体の関係だからね……」

「一つ聞かせてくれ。お前、帝国とどういう関係なんだ」

「悪いけどもう帝国とは手を切ったよ。彼らなら賛同してくれると思ったんだけど……野心が強すぎてさ……気を付けた方がいい。彼らは用意周到だからね」

 そう言い残し、リムは転移魔法でどこかへと消え去った。

 リムが消え去るとともに町の騒音が入ってくる。

「…………いずれぶつかり合う……のか」


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