第三十二話
つくづく俺は思う。
なんでこの世界は授業を長期間休みにしてこんなだだっ広い場所で大闘技大会なんて行事を何回も行うんだろうなって。
推薦者は全員で二十名、そのうち十五人は属性クラス所属、四人が強化クラス所属で後の一人は超常クラス所属の俺という偏り具合も半端ないし、場違い感が凄い。
しかもコロシアムに集まっているのは全校生徒に加えて全教師。
この大闘技大会とか言う行事が行われている間は教師すらも一日休みになって試合を見ることが出来るらしく、教員席という座席もあるらしい。
どうせうちの担任は座席に座るのはいいけど寝てるか面倒くさそうにしてみてるかだな。
連中の中ではどうやら二人のうちの一人はもう既に属性クラスのエースと決まっているも同然らしく本人もどこか余裕というか。
確実に言えるのは連中は超常クラス所属の俺が残り一枠には入ることはできないという事。
でも仮に俺が勝ったらどうなるんだ……なんかその反応も見て見たい気もするけどそんなことは放り捨てて今は全力でぶつかるだけのみ!
俺の初戦の相手は属性クラス二組の主席らしい。
さっきから勝ち誇った笑みを浮かべているのが腹立つのでとりあえず一発はその顔面の拳を叩きこみたい気分だけど触れたら破壊するからな……あ、でも不可視の膜が張られてるからダメージは衝撃だけだろうし……右手で膜を破壊、左手で殴ればいい話か。
「ではトコヨ君、レイト君」
名前を呼ばれ、フィールドの真ん中に立つと若干の声援が聞こえてくる。
さっきの明らかに超常クラスの連中がしてくれてる応援だろうな……悲しいとみるべきか、応援してくれている人がいると喜ぶべきなのか。
「では始めてください」
審判役の先生が言ったと同時にその場から駆け出す。
エリナさんが言っていた。戦いが始まった瞬間から殺されると思えって。
殺されない様に一番最初に動き、その動きを最も早くした奴が一番殺すことのできる可能性がある最初の一撃を撃てる!
やや遅れて相手が魔方陣を展開する。
遅い!
「ぃやぁ!」
相手が魔法を放つ前に相手の近くへ踏み込むと同時に手袋をしたままの拳を突きだし、相手の顔面に突き刺すと相手の体がフワッと浮き、背中からフィールドに落ちる。
戦いは相手が気を失って倒れるか死ぬまで終わらないもの! 相手が吹き飛んだ隙に叩きこむ!
地面に背中から落ち、もう一発打ち込もうとした瞬間、相手の白目をむいている表情が見えた。
「………………ふぅ」
エリナさんが言っていた。
戦いにおいて戦争でもない限りは相手が気を失って動かなくなったらそれ以上の追撃は余計な隙を生むだけだって。
辺りどころかよかったのと一カ月の筋トレと特訓のおかげか……塵も積もれば山となる、だな。
「トコヨ君の勝ち。ほら、さっさと起きなさいよもう」
シーンと静かなコロシアム内にズルズルと引きずる音が嫌に響く。
ま、とりあえず一回戦勝ち抜きだな……一回戦で無様に負けてたらあの美人姉妹に何をされるか分かったもんじゃないからな……おぉ、怖い。
―――――☆―――――
「「っくし!」」
「二人とも風邪か?」
「いえ、そうではないようですが」
「誰か噂でもしているんでしょう。平民とか平民とか平民とか」
――――――☆――――――
「思い出すな……あの戦い方は完全にエリナ君の物だな」
「そうですね……旧校舎を壊した彼女に鍛え上げられたんですね」
「あの時はビックリしたな~……旧校舎で寝ていたら突然瓦礫の山に押しつぶされたんだから」
「凸ピンで校舎一つを破壊するのは彼女くらいでしょう。彼の場合は触れるだけですが」
「しかも止めを刺しに行くところまでそっくりだ……楽しみだ」
――――――☆――――――
一回戦を不安もなく無事に通過した俺だったが次の相手を先生から聞いて意識が飛んだというか口が開いたまま閉じなくなったというか。
要するに俺の次の相手はあの属性クラスエースと言われている先輩だった。名前忘れたけど。
ま、相手がだれだろうが全力を尽くすだけ。無様に負ければあの美人姉妹に何をされるか分からない状況で無様に負けるのはあれだけど接戦の末負けるのは何も言われないはず。
勝つ気はあるけど負ける気もあるという複雑な気分だし、相手は先輩で俺よりも長く魔法のことに関して学んできているんだし、これまでにも色々と経験を積んできただろうし。
気を抜かずに最後まで突っ切る! これが俺にやれることだ。
フィールドでは一つ前の大戦が接戦を繰り広げているのかさっきから生徒の声援がそこら中から響きわたるとともに爆音が鳴り響く。
……なんかアリナさんの爆音と比べたら耳に優しいな。あの人平気で殺す気で魔法はなってたから爆音がもう戦争の時に聞こえてくるような爆音だったんだよな。
思わず叫んだわ。お前は一人兵器か、てな。
炎は出すわ、雷は降り注ぐわ、水で俺を窒息死させようとしてくるわともうお祭り状態だったけど相手がどんな魔法を放って来るかは大体分かるようになった。
炎だったら放たれる魔力に熱を感じるし、水だったら冷たい、雷だったらチクッとする。
……でもアンナを連れ戻すにはこんなところで負けるわけにはいかない。こんなところで負けていたらアンナを連れ戻すことなんて出来やしない。
必ず……必ずあいつを説得して連れ戻す。
「トコヨ君~」
「ミウォル先輩、何してんすか? 盗撮ですか?」
「まあそれもあるけど」
あるのかよ。
「運営委員やってるからさ……す、すごい。休暇前と筋肉もあそこも違う!」
筋肉を褒めてくれるのは嬉しいですけどあそこを褒めるのは辞めてくださいっていうか俺のあそこ成長しちゃってるの? 俺まだ新品だよ? あ、でもまだ新品だし成長期だから伸びるのか? 伸びる? 大きくなる? どっちなんだ?
ミウォル先輩は下卑た表情を見せながら集中的に俺のあそこを見てくる。
「で、なんですか?」
「あ、隠した……もうすぐ出番だよ」
「うっす。っっしゃ。見せてやりますか」
「超常クラスの凄いあそこ見せてやれ!」
それどこの変態が集まる大会?
そんなことを思っていると戦いが終わった奴らが戻ってきたのでフィールドへと入ると凄まじい声援が飛んでくるがその声援は俺に向けられたものじゃなくて俺の後ろにいる奴だろう。
サバティエル魔法学園属性魔法科2年生エースのリアン・シャルマン。
入学式初日に行われるあの行事で未だに破られていない評価石50個回収という記録を打ち立てたに加え、卒業後は騎士隊に入るとまで噂されている属性クラス全体のエース。
常日頃からお邪魔虫がつかない様に護衛が着くほど溺愛されているお坊ちゃまでありながら実力も兼ね備えている。
金持ち・イケメン・実力者、女にもてる三点セットをフルに持ってるな……羨ましい。
神はこいつに才能を与えすぎだよな。
ま、相手がどんな奴だろうが全力で戦うだけの話……見てろよ。