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ワールド・ブレイク  作者: ケン
一学期
31/59

第三十話

 深い森の中、耳を澄ませて辺りの音に意識を集中させる。

 風で葉が揺れる音、木々がきしむ音、そして動物たちの声の中に俺を狙うターゲットの声がわずかながらに聞こえた瞬間。


「えあぁぁぁ!」


 後ろを振り向くと同時に拳を突きだすと何もないところで腕が何かにぶつかるとともに姿を消していた魔物が姿を現し、口から血を吐き出しながら地面に倒れ、動かなくなった。

 アリナさんから受けるようにと言われたクエストを着々とこなすこと二十。

 上級が五つ、中級が十五個と流石に当初はマジかってなったけど今じゃこの状況にも慣れたのか、それとも俺が強くなったのか中級も楽々とこなせるようになった。

 その時、木々をなぎ倒すような音が背後から聞こえ、振り返ると前方から全力ダッシュでこちらへ向かってくるワニが巨大化したような姿をしている魔物の姿を捉えた。

 すると相手は巨大な口を開けるとそこから火球をいくつもの俺めがけて放って来る。


「避ける際は後ろへ下がるのではなく前へ!」

 火球めがけて突っ込んでいき、すれすれのところで避けていく。

「いなすときは一瞬で!」


 避けきれない火球は一瞬だけ触れることで火球を破壊していく。

 そして相手との距離がもうすぐというところで全力で跳躍し、ワニの背中目がけて落下の勢いを利用した全力の踵落としを放つ!


「であぁぁ!」

 凄まじい爆音が周囲に響いた瞬間、魔物の足が止まるとともに目が閉じた。

 今回のクエスト内容は最近、村の家畜を食い荒らしているという魔物を退治して欲しいという依頼内容で難度は中級、報酬は村特産の美味しいフルーツ盛と来た。

 まぁ、報酬の半分は仲介料としてアリナさんの手に行くんだけどさ……それにしても子供の魔物が家畜を食い続けていたなんてな。

 一応村の近くにある山に潜んでいた奴らは一掃したけど他に隠れてないよな……確認しに行くか。

 親の魔物が降りてきた際についた足跡をたどって山道を歩いていく。

 夏休みも残り一週間を切ったな……そう言えば俺の夏休みは夏休みとは言えないような代物だったよな……毎日エルスタイン姉妹との特訓、そしてアリナさん仲介による大量のクエスト。

 何回死にかけたことか……でもその分、強くなったと思う。

 なんせ五回も上級クエストを単独で達成できたからな。まぁ、上級って言っても内容が簡単なクエストを選んでくれてるんだろうけど。

 あぁ、見えてアリナさんって優しいからな。

 足跡をたどって山道を歩いていくと頂上に辿り着くがそこの景色は酷いものだった。

 辺り一面には家畜と思われる死体が散乱しているし、腐敗臭が立ち込め、地面に足をつけると血がしみ込んでいるのかべチャッという気持ち悪い音が響く。

 そのまま進んでいくと既に割れている卵の殻がいくつも転がっており、その近くに腐敗が始まっている家畜の死体が多くみられた。

 親のあいつが家畜を奪って生まれてくる卵の傍に置いたんだろうな……なんというか……こういうのに人間が口出しするのって何か言葉を選ばないといけないよな。

 何か難しい。


「ん?」


 その時、どこかからか今にも消えそうなほどの小さな鳴き声が聞こえたような気がしてよく耳を澄ましてみると僅かながらに聞こえた。

 卵の殻は腐敗が始まっている死体などを退かしていくとそこに無き声の正体がいた。


「お前だったのか……」


 死体が重なるようになっている奥の方に生まれたてらしき雛がいた。

 その雛を抱きかかえるとさらに強く泣きはじめる。

「……帰るか。元の居場所に」






 ―――――☆―――――

「よくやったわね」

「……アリナさん、もしかしてずっとついてきてるのって報酬目当てなんじゃ」

「あら、失敬ね。貴方を鍛え上げた教員として付き添いしているだけよ」


 そう言いながらさっきの村の人達に貰った美味しそうなフルーツ盛に手を突っ込んでは満面の笑みを浮かべて美味しそうに喰いまくっている。

 報酬が全て食べ物になってるのも絶対にこの人が手回ししてるからだよな……ていうか今回に限ってはほとんどこの人が美味しそうにペロリンチョしちゃってるし……別に構わないんだけど……でもこの一カ月近くで俺も強くなれたんだろうか……アンナを連れ戻せるくらいに。

 この一カ月の間にフレイヤ・プロメテウスが死んだという情報は出ていないし、アンナ・プロメテウスを見つけたという情報も出てきていない所を見る限り、あいつもフレイヤを見つけるのに苦労しているという事になる。

 フレイヤは国による指名手配、アンナは学園関係者による捜索ということになっているらしい。

 捜索といってもアンナを連れ戻すわけではなく、彼女の行動を逐一、学園長に報告しているだけの物。

 一応、学園の生徒だったわけだし、学園長が心配するのも無理はないか……必ずアンナは連れ戻す……アンナが犯罪者になるさまを見るのは嫌だ。


「ご馳走さまでした」

「……って全部食った!? お、俺のは!?」

「無いわよ」

「冗談きついですよ! 何のために必死こいてクエストやったと思ってるんすか!? 食べたかったなー! みずみずしいフルーツ盛食べたかったなー!」

「うるさいわね。ほらこれあげるわ」

「わーい。果物の皮だー。舐めるとあま~いってこんなんで喜ぶかー!」

「じゃあはい」

「そうそう。フルーツの種から真心を込めて一つ一つ手作業で育ててってどんだけかかるんだよ! 種からフルーツ出来るのかよ!?」

「うるさいわね」

 そう言いながらアリナさんはゴソゴソと籠の中を探る。

「どうせ今度は蔕でしょ? もう見えてるんすよ」

「はい」


 俺の手に乗せられたのは正真正銘のフルーツ。

 真っ赤な色をしていてみずみずしい姿を保ったままほんのりと甘い匂いもするし、中には実がぎっしりと詰まっているのか中々に重い。


「の、残しておいてくれたんですか?」

「当たり前じゃない。せめてものご褒美よ」

「アリナさん……いただきます……げっほっ! 苦! 苦!」


 こ、このクソ婆! 苦い味のものを残しておいて俺に食わせやがった! 鬼だ! 悪魔だ! 苦! これなんなんだよ!? こんな糞苦い物生まれて初めて食べたぞ!


「な、なんなんすかこの苦いフルーツ!」

「調理用のフルーツよ。よく甘いものと一緒に出されるわ」

「それって甘すぎる味をこの苦さで押さえる役目なんじゃ」

「平民にしては感が良いわね」

 やっぱりこのおばさん酷過ぎるよ……向こうの世界で例えるなら本来は味付けの為の塩コショウをそのままボトルごと飲み干すみたいな感じだぞ。

「そろそろ学園に戻るんでしょ?」

「はい。一週間前には戻ってこいって言われてるんで」

「にしても長い間、エルスタイン公爵家でタダ飯を食べたわね」

「す、すみません。俺家がないもんで」

「ま、報酬の半分は貰ったから良いけど」


 お金の場合も半分、食べ物の場合も半分、全ての報酬を仲介料兼居候料としてアリナさんに徴収され、食べ物はアリナさんの胃の中へ、お金の場合はアリナさんの財布の中へと消えていってしまった。

 結局、今回の夏休みの間に稼げたのは……いくらくらいだろうか。まだよく計算していないけどまあ、一カ月くらいは余裕で過ごせるだろ。


「一か月間ありがとうございました」

「私に礼を言うならイリナに礼を言えば?」

「そうですけどアリナさん達にも世話になったんで」

「……無様に負けたら承知しないわよ」

「はい! エルスタイン公爵家が誇る美人姉妹に鍛えられた以上、無様には負けませんよ」


 まぁ、片一方で凄まじく怖い目に遭ったから無様に負けたらアリナさんじゃなくてエリナさんにボコボコにされそうだな。

 精神的なものじゃなくて肉体的な意味で……待ってろよ、アンナ。必ずお前を連れ戻す。

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